第33話 大切な家族
私の手足が増えたのは嬉しいことだ。
元より何処かで私のコマを増やしておきたいと思っていたので、双子の居場所が知られたのはむしろ僥倖だったのではないか?
……まぁ変なのに絡まれた……いや絡んだ? ことで面倒なことになったと言われればそうなのだが、その結果で白狼族の双子を守れるのであれば、それこそ僥倖というものだ。
「シェラローズ様」
「様、はいらないわ。あなたに言われると背中が痒くなりそう。そんな畏まらずに、同年代の人と話すような感じでいいわよ」
「どう、ねんだい……?」
「何か問題でも?」
「い、いや……何でもない。…………これでいいか? シェラローズ」
「ええ、結構」
いつも私の名が呼ばれる時は、後ろに「様」や「お嬢様」が付いていた。こうやって呼び捨てで名前を呼ばれるのは初めてのことなので、なんだか新鮮な気分になる。
「それでシェラローズ。これから俺達は何をすればいい」
「まずはこちらの準備を整えるわ。それまでベッケンの依頼を遂行しているように見せて。連絡したらそっちに向かうわ」
「では、アジトの場所を……」
「必要ないわ。サイレスにはもうレーダーを付けておいたから」
「…………なんだと?」
「サイレスが何処にいるか、それがいつでも出来る探知魔法よ。さっき触った時に付けておいたの」
サイレスには私の異常さを見せつけた。私の手足となる異常、この程度のことには慣れてもらわないと困る。だから魔法を惜しみなく使用していた。
「……お前は、やはり異常だ」
「6歳児が魔法を使えるのは、まぁ異常でしょうね」
「そこではない。…………はぁ……とりあえずわかった。そちらの準備が整うまで大人しくしている。何処までなら流していい?」
『流す』というのは、ベッケンに与える情報のことだろう。
何も情報を与えられないのであれば、サイレス達の沽券にも関わるし、怪しまれる。長年、こうして利用し合う関係を築いてきたのだ。どの程度まで出来るのかは理解しているだろう。
当然、サイレスの質問は予想していたので、私が考えたことをそのまま伝える。
「白狼族の双子はアトラフィード家が匿っている。直接潜入して見てきた。とも言っていいわ」
「……言ってしまっていいのか?」
「ええ、勿論。でも匿っているのはお父様。ということにして。私だとちょっと問題があるから」
「……? とにかく了解した」
私の言葉に引っかかりを覚えたらしく首を一瞬傾けたが、それ以上聞こうとはしなかった。物分かりのいい従者で助かる。
「どれくらいまでなら誤魔化せそう?」
「長くて一週間。それまでに準備を終わらせてくれると助かる」
「わかった。それまでに終わらせるわ」
「……他に、言っておくことはあるか?」
「別にないわ。約束の時まで自由にしてもらって構わない……あ、そうだ」
「……?」
あと一つ、言っておかなくてはならないことがあった。
私はサイレスの頬を触り、ニコリと笑う。
「──裏切らないでね?」
サイレスの瞳に怯えの色が浮かぶ。
体は小刻みに揺れ始め、彼は静かに瞠目した。
「お前の恐ろしさを知って、裏切れる者はこの世に居ない」
「その言葉、信じてい────」
「シェラローズさまー!」
「シェラローズさま、どこー?」
と、そこで双子の心配したような声が聞こえた。
随分と長く話してしまったせいで、余計な心配をかけてしまったようだ。
「話はここまで、サイレスはそこで倒れている仲間を連れて帰って」
「承知した。ではまた……」
サイレスの姿が搔き消える。
同時に倒れ伏せていた仲間も全て消えているので、彼が一瞬で運び出したのだろう。
……本当に、いい従者を手に入れた。
「ティア! ティナ! こっちよ!」
私は気持ちを切り替え、双子を呼ぶ。
その少し後にドドドドッ! という地鳴りのような足音が徐々に近づき、塀を越えて双子が飛び込んで来た。
物凄い勢いのまま飛びつかれた私はバランスを崩しそうになるが、咄嗟に唱えた身体強化の魔法で無理矢理耐える。
「二人とも? エルシアのところで待っていなさいって言ったでしょう?」
「だって、だって……!」
「シェラローズさま、いつまでたってもかえってこない」
「だからしんぱいに、なって……」
「「ごめんなさい!」」
双子は同時に頭を下げて謝った。
待っていろという言い付けを破ったことへの罪悪感は持っていたようだ。だが、怒られるとわかっていても私が心配で飛び出してしまった、と……。
「もし危ないことになっていたらどうするの? 二人はまだ戦う術を持っていないんだから、何も出来ずにやられていたかもしれないのよ? そうなったら、私もエルシアも……他の人達だって悲しむの」
「でも、うぅ……」
「ごめんなさぃ……」
心から反省しているのか、尻尾も耳も垂れ下がってしまっている。それらは感情に合わせて萎んでしまい、いつも手入れしてあげていたあのもふもふを、今は全く感じない。
ギュッと服の裾を強く握り、目には今にも零れ落ちそうなくらいの涙を溜めていた。……というより、すでに一粒、また一粒と雫が流れてしまっている。
「もうあなた達は大切な家族なの。だから──もう危険なことはしないで、ね?」
これ以上叱るのは、子供に対して酷というものだ。
私は双子の頭を軽く撫でてから、その小さな体をそっと抱きしめる。
「心配してくれてありがとう。今はそのことが、何よりも嬉しく思うわ……」
「「ぅ、あ……うわぁぁああああん!」」
「……もう、相変わらず泣き虫なんだから…………はいはい。よく頑張りました。二人とも偉いわ」
私は二人が泣き止むまで、ずっと寄り添い続けた。
その後、駆けつけてきたエルシアに「何やってんですか……」と呆れられるまで、それは続いたのだった。




