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第32話 契約

「…………殺せ」


 暗殺者はそう言い、項垂れた。

 先程のように最後の足掻きをする様子はない。本当にこのまま死ぬつもりなのだろう。


 ……度胸があるというか、何というか。

 ここまで正直に敗北を認められると、返って潔いな。


「殺す前に一つ、質問良いかしら?」

「俺は負けた身だ。答えられることなら、答えよう」


 ここで暗殺者の性別が判明した。

 容姿もどっち付かずだったし、声も捉えようによっては男にも女にも聞こえる声色だったので、最後まで性別がわからないまま終わるのかと思っていたが、そうか。男だったのか。


「随分と聞き分けが良いのね。『秘密を漏らす事は出来ない!』とか言って自害されるかと思っていたけれど……」

「依頼者からの命令だったならば、そうしただろう。だが今回は違う。そのため、隠す必要は無いと判断した」

「と、言うことは……ここを調べ上げたのはあなた達の独断? そして、あの子達……白狼族を攫ったあの屑どもも、あなたの部下ってことになるのかしら?」

「違う。あの白狼族を攫った者達は、また別の勢力だ」

「…………詳しく話してくれる? 嘘を言っていると判断した場合、魔法で洗脳するから下手な考えを持たない方が賢明よ」

「承知した。元より、負け犬に逆らう権限などない」




 暗殺者は一つ一つ、ゆっくりと事の顛末を話し始めた。




 私と衝突した三人の人攫い。あれはこの国の裏社会、通称『スラム街』を取り仕切っているベッケンという男の部下らしい。ベッケンは『闇ギルド』の支配者でもあり、裏社会ではかなり有名なのだとか。

 そして奴は誰か……暗殺者が言うには『お得意様』から『白狼族の子供二人の拉致』という依頼を受け、それを実行しようとしていたらしい。


 ただ白狼族に興味があるのならば、わざわざ怪しげな奴らに拉致を依頼する必要は無い。

 奴隷が欲しかったとしても、そんなピンポイントで白狼族を欲するだろうか?


 ──だとしたら、何かしらの実験体として必要としていた?

 ありえない話ではない。白狼族は体が丈夫で、他の獣人よりも身体能力が遥かに高い。丈夫な実験体というのは、壊れずらいということでもある。研究のモルモットにするにはちょうど良い素材だろう。


「──チッ、胸糞悪い話だ」


 私は公爵令嬢という演技を忘れ、苦渋に顔を歪めて舌打ちした。

 しかし、これはまだ予想の範疇。本当は別の思惑があったかもしれないが、スラム街に巣食う『闇ギルド』に依頼するような奴だ。決して良い目的ではないだろう。


「依頼通り白狼族を攫うことに成功し、運んでいるところ……お前に邪魔された。というわけだ」

「その……ベッケン? 彼はどうしていたかしら?」

「怒り狂っていた。残り少なかった頭部も、今頃はもう何も残っていないだろうな」

「──ハッ! いい気味ね」


 だが、それのせいでスラム街の連中の中でも特にヤバい奴らを敵に回してしまったのは事実。私一人でどうにかするには、少々規模が大き過ぎるな。行動に移す場合は、父親に相談しなければいけない、か……呆れられる顔が目に見えるな。


「じゃあ、あなた達は何者? そのベッケンという奴と何の関係があるの?」

「俺達は『暗殺ギルド』の者だ。あそことは利用しあう関係にあった。今回もベッケンの部下では手詰まり、我らに白狼族の捜索の依頼が来たというわけだ。最初はこちらが受ける被害を考えて断ったのだが、こちらも部下を養うために金が必要なのでな。なるべく被害を出さないよう、腕の立つ者を最低限持ってきたのだが……結局は失敗に終わった」


 暗殺ギルドも色々と大変らしい。

 聞けば、彼のギルドは全員が同居生活を送っているらしい。暗殺者ばかりであるのは確かなのだが、身寄りのない者や、小さい頃から親を亡くして『殺し』に手を染めるしかなかった者。そういう帰るべき場所がない者達の集まりが『暗殺ギルド』なのだと、男は言った。


 相変わらず表情は隠れて見えない。だが、そう語った彼はどこか寂しそうだった。きっとこの男も、ギルドに身を寄せる者の例に漏れず帰るべき場所を失ったのだろう。


「白狼族がここに居るという情報は、ベッケンに知られている? あなた達を捕らえた後、新手が投入される可能性は?」

「どちらも無いと答える。ベッケンに依頼され、俺だけが調査をしていた。入念に王都内を調査した結果、ここが怪しいという考えに至り、まずは確かな情報を掴むために侵入。可能であれば白狼族を連れ去ろうと計画していた」


 たった一人で王都を調査……。事前にベッケンの部下が探し回っていた情報があったとしても、かなりの労力が必要なのは確かだ。

 しかもベッケンの部下が探し出せなかった『答え』を探し当てたのだ。その腕は認めるしかない。


 だが、まだベッケンにこのことが知られていないというのは、嬉しい誤算だった。これで多少は動きやすくなる。


「後者についても、俺達が帰って来なかったら二度とこの案件に関わるなと伝えてある。ギルドの精鋭を捕らえる実力者だ。俺の部下が敵うはずがない…………まさか、こんな小さな者がそうだとは思わなかったがな」


 男はこちらを侮って最小限の人数で向かって来ていたわけではない。

 むしろ全てを覚悟した上で行動していた。


 ……まぁ、何人で掛かってこようが私が負けることはなかったが。


「話すことは、もう無い」


 男は最後に、周囲に倒れ伏している彼の仲間を見回した。

 そして唯一隠れていない男の口が動いた。


 それは至近距離に居ても聞こえなかったくらい小さなものだったが、口の動きから男が何を言ったのか理解した。


 ──すまない。

 男はそう言ったのだ。



「さぁ、殺せ」



 男は次こそといった様子で、首を差し出した。


「…………ていっ」


 私はゆっくりと男に歩み寄り、顔の半分を隠していた黒フードを剥ぎ取った。


「わぁぉ」


 そこから出て来たのは、美形だった。

 顔は確かに男なのだが、簡単な化粧をすれば女性にも変装することが出来る。そんな中性的な顔つきだ。艶のある黒髪と、覗いたら吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る漆黒の瞳。

 どれを取っても綺麗で、なぜこんなイケメンが暗殺者に堕ちてしまったのか。それが気掛かりだ。


 素顔を見られたことに思うところがあったのか、男は若干ムスッとした表情になる。

 しかし、下手に動いて私を刺激することを恐れたのか、フードを戻そうとはしなかった。


「あなた、名前は?」

「…………ない。俺はスラム育ちだ。最初から名前など無かった」

「じゃあ名前をあげる。あなたの名前は──サイレスよ」


 サイレスは昔の言語──300年前に使われていた言葉で『静寂』という意味だ。

 この男に相応しい名前だろう。


「俺の、名前だと……?」


 男、サイレスは目を見開き、漆黒の瞳を私に向けた。


 ──ありえない。

 そんなことを言いたげな視線だ。


「あなた達、暗殺ギルドは私に負けた。だから私の所有物になりなさい」


 サイレスは口を開けて言葉を失った。

 それほど、彼にとって衝撃的な言葉だったのだろう。


「何が、目的だ」

「近い将来、色々と動くことになる。私だけでは厳しい。だから手数が必要になる。人殺しも情報収集も可能なあなた達ならば適役。それだけよ」

「殺すだと……? お前は何を企んでいる? お前は、何者だ?」


 その問いかけに、私は口元を歪ませた。


「そんなのどうでも良いでしょう? あなたに許されている選択肢は、私の下に着くか、暗殺ギルドごと全滅するかのどちらかよ」

「──っ、そこまで!」

「するに決まっているでしょう? あなたが関わるなと言っても、残された者は私に恨みを持つ。だったら厄介になる前に面倒事を摘み取っておく……。敵を徹底的に潰すのは当然のことでしょう?」


 勿論、ベッケンの組織もその内潰す。


 奴が変に影響力を持っているのは面倒だが、いくらでもやりようはある。

 国さえ味方にしてしまえば、それも簡単に処理出来るだろう。


「俺達に、お前の奴隷になれと言うのか?」

「……? んなわけないじゃない」

「…………どういうことだ?」


 ああ、納得した。

 変に警戒されたのは、奴隷にされて死ぬまで使い回されると思っていたのが原因か。


「私が言っているのは、私の部下になれってことよ。衣食住は約束してあげる。働きに見合った報酬も与える。他に欲しい物はある?」

「……い、いや……特に無いが、むしろ、良い、のか……?」


 余程驚いているのだろう。言葉が途切れ途切れだ。


「ここで嘘を言って何の得があるの?」

「しかし、どうしてそこまで俺達を求める?」

「私は6歳の公爵令嬢……派手に動くことは出来ない。だから自由に動ける手足が欲しい。それだけ」


 サイレスは考え込む。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「最後に教えてくれ。どうしてそこまでする? お前には関係の無かった白狼族だ。裏社会を敵にして、暗殺ギルドの物を手足に加えて……血の繋がっていない白狼族のために、どうしてお前はそこまで出来る?」


 ──そんなの簡単な理由だ。


「私が助けたいと思った。私が親代わりになると約束した。母親が子供を守るのは当然のことではなくて?」

「……守るのは、当然か…………本当に、変な6歳児だ」

「ええ、よく言われるわ。でも本気よ」


 やると決めたら、最後までやり通す。

 私に出来ないことはない。

 今まで全てをやってきた。

 使えるものは全て使い、目的のためなら手段を選ばない。


 それが魔王だ。

 それが私の傲慢だ。


「もう一度聞くわ。サイレス、あなたの家族共々──私の物になりなさい」


 私は手を差し伸べる。

 これは最終通達でもある。

 ここで手を取らなければ、私はきっと残された者にも容赦はしない。


 ──共に破滅するか、共に生きるか。

 私と、私の家族となった双子。それに手を出した彼らに残っている道は、その二つしかないのだ。


「……わかった。これより俺、サイレスはシェラローズ様の手足となろう」


 こうして私は、暗殺者の部下を手に入れることに成功した。

シェラローズは部下(暗殺者多数)を手に入れた!

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