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第30話 暗躍する者

 場所は変わって、再びスラム街。


「クソォオオオオ!」


 地下に広がる『闇ギルド』の拠点の一室で、ベッケンは唸っていた。


 原因は、先日部下が取り逃がした白狼族の双子の件。

 あれから何日も全ての部下を使って王国内を探させたが、一向に見当たる気配がない。その上、白狼族に関する情報が不自然なほどに集まらない。


「どうしてだ。どうしてこうも見つからない!」


 街の外に出ている可能性も考え、王国の領地ギリギリまで見張りを付けたが、それも良い結果は出ていなかった。

 子供相手に侮っていたというのもあるが、それでも見つけて捕まえるには十分な数と戦力だったはずだ。


 なのに、現状は何の成果も得られていない。


 その事実にベッケンは頭を抱える。


『それじゃ精々頑張ってよ。……まぁ、どうせ無理だろうけどさ』


 ベッケンに白狼族の拉致を依頼した人物、ラヴェットが最後に残した言葉。

 それが最近彼の脳裏に渦巻き、何度も繰り返される。


 ストレスで掻き毟った頭部には、残り僅かだった髪もほぼ無いに等しくなっていた。

 それだけ追い詰められていたベッケンは、最後まで取っておいた切り札を使おうとしていた。


 ──コンコンッ。


 彼の部屋の扉が、外からノックされる。

 ようやく来たかと顔を上げたベッケンは、荒れ果てた書類を纏めてから「入れ」と来客を招いた。


 ゆっくりと扉が開かれ、来客の姿が露わになる。

 それは漆黒のローブを全身に包み、フードを目元深くまで被った見るからに怪しい人物だった。


「…………酷い有り様だな」


 無機質な声が部屋に響く。

 感情の全く篭っていない気味の悪さにベッケンは顔を顰めるが、すぐに表情を戻す。


「よく来てくれたな。急な呼び出しで申し訳な──」

「御託はいい。早く用件だけを伝えろ」

「…………とある人物を探してほしいのだ」


 ベッケンの切り札が、この怪しげな男だ。

 男はこの国にあるもう一つの『闇ギルド』の責任者であり、彼のギルドには『殺害』を生業としている暗殺者が多く集まっている。

 勿論、それらの責任者である黒装束の男も腕利きの暗殺者だ。


 お互いの組織が『共存』しているわけではない。普段は互いに関わらないことを主流としているが、今回のように手に負えない事態に陥った時はお互いに協力(利用)する間柄となっている。


「標的は」

「白狼族の子供。双子の姉妹だ。それを探し、ここに連れて来てくれ。まだこの辺りに居るはずだ」


 『暗殺ギルド』の者は標的の殺害は勿論、潜入調査や情報収集にも長けている。

 ベッケンの部下よりも効率的に探し出すことが出来るだろうと考え、藁にもすがる思いで呼び出したのだ。


「断る」


「…………なん、だと……?」


 予想していなかった言葉が男の口から飛び出し、ベッケンは顔を歪めた。


「断ると言ったのだ。その依頼は、こちら側が受ける被害が大き過ぎる。お前と違って無駄に部下を消費するわけにもいかないのでな。今回の依頼は断らせてもらう」


 ベッケンが自らの力で探し出すことを諦めて依頼してきたということは、かなりまずい状況に陥っているのは確実。


 この王都での捜索ということは、途中で何らかのトラブルがあって取り逃がした可能性が高い。ベッケンの部下が子供相手にヘマをするとは思えず、だとしたら何処かの勢力が横槍を入れて保護したと考えるのが妥当だ。


 そしてベッケンが従える部下全てを使ってでも情報を得られていないのだとすれば、その双子を保護しているのはかなりの大物。騎士団相当の実力者か、上級貴族のどちらかだろう。


 正面からの侵入は不可能。息を潜めて侵入するとしても警備は堅い。もし見つかって戦闘になった場合、敵地では分が悪すぎる。


 男はそこまでの考えを導き出し、自分達が被る被害と依頼の報酬とを天秤に計った結果──今回の件には関わらない方がいいと判断したのだ。


「何故だ! 今まで互いにやってきたではないか!」


 しかし、ベッケンは違った。

 依頼を拒否されたことに激昂し、机に拳を叩きつけ怒鳴った。


 男は呆れた眼差しでベッケンを見つめ、小さな溜め息を溢す。


「……そういう問題ではない。我らは利用し合う関係であって、協力する関係ではない。損が大きい方に関わらないのは当然だろう」

「だが……っ! …………いいのか? それでは今後、こちらも協力しないぞ?」

「ふむ……それは困るな」

「だろう!? だったら今回も……!」


 男は内心舌打ちした。

 それとこれとは別なのだが、今のベッケンに言っても意味がない。


 傲慢もここまで来たらいっそ清々しいと思いながら、男は諦めたように手を挙げた。


「わかった。協力する……だが、報酬はその三倍もらう」

「…………くっ、仕方ない。その代わり」

「ああ、善処する。……ではな」


 男はもう用が無いと、部屋を後にした。


「もう、手を引くべきなのかもしれないな……」


 そんな小さな呟きと共に、男の姿は霞のように虚空へと消え去った。

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