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第29話 自主練

 白狼族の双子姉妹、ティアとティナが勉強している間、私はほとんど暇になる。


 時々二人が解けない問題がある時はヒントを与えているのだが、それ以外はコンコッドに任せっきりで、私はサポートとして二人の様子を見ているだけだ。わかりやすく言うのであれば、副担任のようなものか。


 そのため手持ち無沙汰になり、無意味な時間を消費することになってしまう。

 ……いや、双子の様子を見ているのは楽しくて和むので、完全に無意味とは言えないのだが……何もしていないというのは少し勿体無い気がしてならない。



 だから私は、その暇な時間を有意義に過ごすため、手軽に出来る魔法の練習をするようにしていた。



「【火よ】」


 極限まで省略した魔法詠唱を口にして、人差し指に『ビー玉』くらいある大きさの火球を浮かばせる。

 これは魔法の中でも『初級魔法』と呼ばれるもので、魔法を扱ったことがない者でもちょっと練習すれば出来るようになる簡単なものだ。

 普通の火球は拳代くらいの大きさなのだが、私はそれを縮小させて範囲を狭くする代わりに威力を大幅に上昇させている。これを眉間に狙って放てば、一人くらいは簡単に殺せる。


 これは『改変』という魔法の熟練者のみが扱える技だ。

 制御を誤ってしまうと暴発して命の危険にが及ぶので、生半可に使うと危険な代物だ。


 ……まぁ、私がこの程度でミスするわけないのだが。


 それだけでは終わらせず、人差し指の次は中指、薬指、小指、親指と火球の数を増やす。そして出来上がった五つの火球を手の平の上で浮遊させ、踊っているように操る。

 操作が安定してきたら、次はもう片方の手にも同じように浮かべ、両手で合計十個の火球を同時に操る。


 初級魔法を連続して十回。

 それを継続して発動させ、精密な動きを可能にする。


 ──これが私の練習だ。


 この練習法を繰り返すメリットは大きく二つある。


 まずは魔力量が増える。己の内に秘めている魔力量が増えれば、魔法を連発することが可能となる。魔力欠乏も起こりづらくなり、一度に大量の魔力を消費する『大魔法』も撃てるようになる。

 魔法を扱う者として優先的に鍛えるべきなのは、魔力量の増幅だと私は思っている。


 そしてメリット二つ目は、魔法の精密操作だ。

 いくら魔力量が他よりも多くて、火力の高い魔法を使えるとしても、当たらなければ意味がない。その問題を解決するのが魔法の精密操作だ。

 魔法は『初級』、『中級』、『上級』と威力の高い順で階級が決まっている。その三つはゴリ押しで放つことが出来るが、それ以上の階級『超級』や『伝説級』、『神話級』となれば話は別だ。それらは精密操作がなっていないと扱うことは不可能。


 この時代の魔法使いは精密操作を怠ったために魔法の質が大幅に落ちたのではないか? と私は考察している。



 ──そして、その考えは間違っていないようだった。



「シエラお嬢様……何を、しておられるのですか?」


 コンコッドが怪訝な表情を浮かべ、私の手の平で踊る火球を見つめていた。


「何って、自主練よ」

「……そのような自主練は見たことがないのですが」

「それじゃあ、私が考えた自主練よ」

「手元が狂ってしまったら危ないでしょう」

「今更そんなヘマはしないわよ」

「今更ヘマって……あなた6歳……はぁ、もういいです。とにかく気を付けてください。見ていてハラハラします」

「わかってるわよ。もし怪我しても回復魔法で癒せば済むでしょう?」

「……そういう問題では……」


 コンコッドはまだ何かを言いたそうにしていたが、私は自主練に意識を戻した。


 そして、私は確信した。

 魔法の質が大幅に落ちている理由は、その練習方法が忘れられているのが原因だろうと。


 この練習方法は300年前の時代ではかなり一般的なものだった。

 手軽に出来て、手元が狂ったとしても損傷は火傷程度で済む。


 魔法を学ぶのなら、まずはこれから始める……というのが当たり前なくらい、今私がやっている練習方法は世に浸透していた。

 それをこの時代の人達はやっていないのだ。それは魔法の質が落ちるのも当然の結果だろう。


 ……結局は人間の怠慢が原因というわけだ。


「ねぇシェラローズさま?」

「それ、なぁに?」


 双子も私がやっていることに興味を持ったのか、キラキラした目で飛び回る火球を指差した。


「これは魔法よ」

「まほう!?」

「かっこいい!」


 双子は私に駆け寄ってきて、自分達もやりたいと言い出した。

 そうやら二人の好奇心を刺激したようだ。


 だが、まだダメだ。

 魔法を覚えれば戦う術が増えるが、まだ制御がままならない状態で魔法を使おうとすれば、己の魔力が暴走して大変なことになる。


 それに、魔法を覚えるよりも一般的な知識を勉強する方が大切だ。


「まずはコンコッドの授業を全て終わらせてから。そうしたら私が魔法を教えてあげるわ」

「ほんとう!?」

「やくそく……!」

「ええ、約束よ。だからお勉強を頑張りなさい」

「うんっ!」

「がんばる!」


 コクコクと元気に頷き、二人は勉強に戻った。

 魔法を極めた者の一人として、魔法に興味を持ってくれたことは嬉しく思う。


「シエラお嬢様が教える。ですか……」

「あら。何か問題でもあるかしら?」

「いえ……二人も規格外な強さになるのかな、と思いまして」

「大丈夫よ。人の域は越えないと思うわ」

「大人三人を封殺した6歳の誰かさんが育てる子供を、果たして『普通』と呼べるのでしょうか」

「ぐぅの音も出ないわね」


 そもそもこの程度で人の域を越えているとか、規格外だとか言われても困る。


 今の私は確かに6歳の少女にしては異常なのだろう。

 しかし、300年前はこれが普通だった。勝手に魔法の知識を語り継ぐ事をサボり、勝手に衰退した今の時代にとやかく言われる筋合いは無い。


 ──と言ったら怒られそうなので、大人しく黙っておく。


「自覚しているのなら……はぁ、本当に危険なことだけは控えてくださいね。お嬢様に何かあったら旦那様や奥様、メリダから小言を言われるのは私なんですから……最近はエルシアもうるさくなってきて大変なんですよ?」


 私はこれでも恵まれているのだろう。

 コンコッドやエルシアのような理解者がいてくれるおかげで、ちょっと派手に動くことが出来るのだから。


「感謝しているわ、コンコッド」


 私は満面の笑みを浮かべながら、感謝の言葉を口にした。

 すると彼は頬を赤くして私から顔を背けてしまう。そうやってすぐに赤くなるのは、コンコッドの可愛いところだ。


「はぁ……シエラお嬢様は、本当に小悪魔ですね」


 コンコッドはそう言い、肩をすくめるのだった。

間違って更新時間を明日にしていました。完全なうっかりです……

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