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第14話 魔法学

 魔法学と言っても、それは様々だ。


 一般的に知られているのは戦闘に扱う攻撃魔法と、触媒や魔法陣を使用して事象を引き起こす魔術だ。

 この二つが主流と言っても過言ではないだろう。


 だが、それ以外にも魔法の知識を深めるものがある。


 ルーン文字という文字を道具に刻み、魔力を流すことで便利な『魔道具』に作り変える魔工技術。

 遥か昔に失われたと言われている『古代魔術』の解読。

 『霊薬』の製造を主体とする錬金術。

 今は魔法の発動に必須である『詩』のような詠唱術。

 魔力の根源にあるとされている『星』を読み解く天文学。

 人々を癒し、助けるための魔法医学。


 それらは『魔法学』と一括りにされているが、細かく分けるとそれだけの種類がある。

 だから魔法学を学びたいと言っても、誰がどれを学びたいかなんて様々なのだ。


「……で、シエラお嬢様はその全てを学びたいと?」

「はいっ!」


 口元をヒクつかせながらそのように言ったコンコッドに対して、私は純粋無垢な笑顔で返した。

 それの何がいけなかったのだろうか。彼の表情はその返事だけで崩れ去り、頭を抱えてうずくまってしまった。


 もしかしたら私は、無意識にまた何か変なことを言ってしまったのではないだろうか。

 そう思い、心配してコンコッドを見つめる。


「…………はぁ、まじか」


 うっかり心の声が漏れているが、私はそれを聞かなかったことにした。


「あの、お嬢様? 魔法学の中にはとても難解なものがありまして……」

「はい。理解しています」

「…………うん。そうですか」

「はいっ!」

「くそっ、いちいち可愛いんだよなぁ……はぁ……」


 魔法学の全てを学びたいと言い出した私に対して焦りまくっているのか、コンコッドは先程から『素』を出しすぎだった。

 しかし、それにいちいち反応しているのも面倒だったので、あえてそれを口にはしない。


「無理難題を言っているのは理解しています。ですが、私は学びたいのです」


 私は両手を合わせ、懇願するようにコンコッドを見つめた。

 彼はそれを一身に受けて「うっ……!」と言葉に詰まる。子供の内にしか効果のない『上目遣い』は効果抜群のようだ。


「はぁ……わかりました。私の負けです」


 先に折れたのは、コンコッドだった。

 溜め息を吐いて肩を落とし、両手を上げて降参の意思表示をした。


「正直、いくらお嬢様でも魔法学の全てを学びたいとは言わないだろうと思っていました」

「それは……アテが外れましたね」

「ええ、それはもうがっつりと」


 まだ十分に幼い6歳の少女が「魔法学を学びたい!」と言ったら、普通は魔法に憧れたんだろうな程度に思うだろう。

 なのに私は攻撃魔法や魔術だけではなく、魔法学の全てを学びたいと発言した。


 それは見事にコンコッドの予想を上回ったようだ。


「たとえお嬢様でも魔法学の全てを理解するのは困難です」


 確かに彼の言う通り、魔法学の中には大人でも理解することが難しいものがある。

 その中でも特に難しいとされているのは、魔道具を作る魔工技術、古代魔術の解読、天文学の三種だろう。これは本当に深いところまで追求しなければ、真には到達出来ないと言われ、専門家が特に少ない。そのためとても希少だ。


 どれくらい希少なのかと言われたら、学園でその学科をテーマにして勉強している者には必ず声が掛かるほど、貴重な存在となれる。

 そのため将来絶対にどこかの仕事に就きたい者は、その三種のどれかを学ぼうとするのだが……結局何も理解出来ずに挫折し、他の学科に移るのだと、コンコッドは教えてくれた。


 彼は暗に、無理だと教えてくれていたのだろう。


 6歳という若さで魔法学を熱心に勉強する私に、挫折したことがきっかけで魔法学を嫌いになってほしくない。

 そのような感情が、彼の瞳から感じられた。


「コンコッドの言いたいことはわかっています。なので、知っている知識だけでも教えて欲しいのです」


 こちらが無理を言っているのは、重々承知の上でのお願いだった。


 だが魔法学を極めるには、全ての部門を学ぶことは必須なのだ。

 勿論、全てを等しく極めろとは言わないが、基礎知識程度はどれも抑えておかないといけない。

 魔法は全てに通じるところがあり、知識が増えれば増えるだけこちらの手数が多くなる。それに、数々の知識を蓄えておけば、いざという時に柔軟な考えを発揮出来るだろう。


 だからコンコッドには、彼の知っている知識だけでも良いから教えて欲しいとお願いした。

 もっと深いところまで学ぶとなれば、魔術学園に通うようになってからでも問題はないが、魔王である私から言わせてもらえばそれでは遅いのだ。


 この時代の魔法学はかなり衰退してしまっている。

 ふとした時に誰もが忘れてしまった魔法の知識を披露してしまったら、面倒なことになるのは容易に想像出来る。だから今のうちに少しでも学んでおきたかったのだ。


「ですが、今すぐには難しいですね」


 コンコッドは難しい顔で、そう呟いた。


「基礎知識だけとは言っても、全てとなれば膨大な量になります。最低限の教材は必要ですね」

「コンコッドか昔使用していた教材でも構いませんよ?」

「……いえ、そもそも10年以上も前の話ですから残っているかもわかりません。あったとしても、魔法学というのは年々新たな研究が発表され、考え方が変わっています。その時の教材では古いでしょう」


 年を重ねるごとに魔法学の精度が落ちている気がするが、コンコッドの言葉には納得だ。

 魔法というのは日々進化するべきであって、決して停滞してはいけない技術である。むしろ過去の教材が古くなってもらわなければ困るのだ。


「シエラお嬢様。明日、何か用事が入っていますか?」

「……? いえ、別に何もありませんが」


 むしろ6歳の少女に何かあるとでも?


「では、私と一緒にお買い物に行きませんか?」

「買い物! い、良いのですか!?」


 コンコッドに詰め寄り、その手を取った。

 きっと今の私はかなり興奮しているのだろう。鼻息が荒くなっているのは自覚しているが、それを抑えることは出来なかった。


 なぜなら、買い物だからだ。

 この時代に転生して初めての買い物なのだ。

 興奮せずにいられるか!


「で、ですが、旦那様のお許しを頂けるかどうか……」

「許可させます! どんな手段を使ってでも許可させますから!」

「流石にそれは遠慮してください!? お嬢様はまだ6歳なのですから、無理だけは……」

「年齢とか関係ありません!」

「…………おぉぅ」


 街に行きたい一心で私の気持ちを告げると、どこか諦めたような顔をされた。

 ついでに瞳のハイライトが消え去り、彼が「もうどうにでもなれ」と小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。


 ──言質は取った。


「では、お父様にお願いしてきますね!」

「お嬢様!? ドレスで走るのはおやめくださ──お嬢様ぁああああ!?」


 私は駆け出し、コンコッドが叫ぶ。

 しかし、すでに私は中庭から飛び出し、彼の声に立ち止まることはなかった。

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