第12話 家庭教師
長い長い話し合いの結果、私の家庭教師はコンコッドに決まった。
どうしてそうなってしまったのかと簡単な説明から入ると、保護者プラスαが「何処の馬の骨かもわからない奴にうちの子を任せられるか!」と喚いたせいだ。
だったら成績優秀で学園を卒業した経験のあるコンコッドが勤めるという話になり、私も彼のことは信頼しているので問題ないとなったのだが────
「「「だったら自分たちが教える!」」」
と馬鹿三人が喚き始めたのだが、そこでコンコッドの一言が突き刺さった。
「仕事しろよ」
「「「…………はい」」」
父親は公爵家当主としての仕事があるので、他のことに割いている時間はない。
母親は今まで引き篭もっていた分、他貴族との関係を修復しなければならない。
メリダはメイドとしての仕事がある。それを放り出して家庭教師なんてやろうとすんなと言いたかったのを、コンコッドが言ってくれたので助かった。
それに対してコンコッドは父親のサポートが仕事だ。
私の家庭教師をする代わりに、ちょっと父親が忙しくなる程度なので問題はない……らしい。
まぁ、私は6歳なので難しいことはわからないし知りたくもない。本人が大丈夫だと言うのであれば、大丈夫なのだろうとそれ以上は何も追求することはしなかった。
そんなことがあり、平和な『お話』の末に家庭教師が決まったのだった。
◆◇◆
「──と、これが魔法と魔術の違いとなります」
私は次の日から教えを受けていた。
場所は最近のお気に入りである中庭だ。
勉強を受ける場所は部屋でも良かった。しかし、コンコッドが「どうせ天気が良いのだから外で勉強しましょう」と提案したので、私もそれを快く了承したのだ。
最初は植物に囲まれた中庭ではなく、もっと開放感のある場所で勉強していた。別にそこで続けていても問題はなかったのだが、建物の角から感じる馬鹿三人の視線がうざかったので、そこから中庭に移動して今に至る。
「何かわからない点はありましたか?」
「……ただ一つ。魔法のことで質問が」
コンコッドの授業はとても分かり易かった。
最初の魔法学ということで基礎から教わっていたのだが、一つだけ納得出来ないところがあったのだ。
「はい、何でしょう?」
「魔法を扱うのが、どうして体内に宿る魔力のみなのかしら?」
「どうしてと言われましても……他に何があるのでしょう?」
「え?」
「え?」
沈黙が場を支配する。
「えっと……大気中の魔力は使わないの?」
「大気中の魔力…………ああっ、精霊魔法のことですね?」
いや、違うのだが。
「でも精霊魔法はとても珍しいのです。精霊はエルフとしか通じ合えず、彼らの力を扱えるのは人間でも一握り。だから学んでもあまり意味はないと思いますよ?」
「そう……」
「精霊魔法を知っているなんて、シエラお嬢様は物知りなのですね。……しかし、書庫に精霊魔法の本なんてあったかな……」
「あ、あはは……まぁ、細かいことは良いじゃないの」
今の時代の魔法は、大気中の魔力を扱わないのか?
もしや、魔法を放つほどの魔力が漂っていないとかなのだろうか?
「…………ふむ……ん、んん……?」
精神を集中させて魔力を探ると十分な魔力反応があった。
むしろ使われていないせいで、以前よりも濃厚に感じる。
──では、なぜ人は大気中の魔力を使わなくなったのか。
そこで私は考えた。
人間は大気中の魔力を扱うことを忘れてしまったのではないだろうか、と。
「魔法は、体内の魔力を消費して戦うのよね?」
「ええ、そうです」
「それ以外には方法はないのよね?」
「ええ、そのはずです」
コンコッドが嘘を言っている様子はない。
……やはり人は大気中の魔力を使うことを忘れてしまったのか。
だがまぁ仕方のないことなのかもしれないなと、私は内心諦めが入っていた。
魔力を扱うには、体から魔力を消費する方法が早いしわかりやすい。
他から魔力を持ってくるというのは、かなりコツがいる。取り込む魔力の量を間違えたら許容限界を超えて身が裂けるような激痛を味わうことになるし、そもそも魔力を感じることが出来なければ扱いすら難しい。
そんな理由で忘れられてしまったのは悲しいが、私には関係のないことだ。
「……ありがとうございます。もう大丈夫」
想像以上にこの時代の魔法は劣っている。
それがわかっただけでも十分だ。
「お嬢様は賢明ですね。最初は魔術と魔法の違いを教えられても、理解出来ないのが普通なのですが……」
「コンコッドの教えが分かり易かっただけよ。あなたが家庭教師になってくれたのは正解だったのかもしれないわね」
「っ、あ、あはは……シエラお嬢様にそう言われると、照れますね」
美形なコンコッドが照れ笑いをすると、普通にイケメンだと再認識してしまう。だからってどうとも思わないが、彼はまだ結婚すらしていないんだよなぁ。
コンコッドはずっとこの家で働いていて、そういう恋愛とかをしていないと、この前父親が酔った拍子に言っていた気がする。
「コンコッドは、結婚とか考えないの?」
「えっ……?」
「あ、ごめんなさい。……不躾な質問だったわ。忘れて」
気になったことを正直に口に出してしまう癖が出てしまったか。
それを気付いた時にはもう遅かったので、私は素直に謝った。
「…………昔は、居たんですけどね」
それはポツリと呟かれた、小さく弱々しい言葉だった。
でも身近にいた私には、その呟きがはっきりと聞こえた。
コンコッドには珍しいその言葉に、私は思わず目を開いて彼を見つめる。
「昔は、というと……?」
「死んだのです。移動中に、魔物に襲われて……もう10年も前のことです」
「…………ごめんなさい。辛い過去を思い出させちゃったわね」
私はコンコッドに深く謝罪した。
「そんなっ、シエラお嬢様が謝ることではありません! どうか頭を上げてください!」
「いいえ。不躾な質問をしてしまっただけではなく、恋人の死を思い出させてしまった。それは大きな罪。……本当に、ごめんなさい」
大切な者の『死』というのは、誰だろうと辛いものだ。
……戦争で大切な配下を多く失った私も、その辛さは十分に理解している。
だから謝るのは当然のことだ。
そこに主従なんて関係ない。
「……やはりシエラお嬢様は変わっています」
コンコッドはそう言い、可笑しそうに笑ったのだった。
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