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第5話〜ミーナと大衆浴場

「おい!南山の洞窟へ来たやつはいるか!」


そんな怒声が賑やかなギルド内にこだまする。そのあまりにも大きな声を出し、いかり、叫ぶ姿を見てギルド内の雰囲気は悪く、静かになった。

ビールのジョッキを置く者、扉を睨みつける者と様々だ。しかし、そんな空気を気にもとめず話を続ける。


「変わった身なりの者だ!誰か!知っている者はいないか!」


この時はまだレンは知らなかった。このギルと呼ばれる者の本名が【ギル・アイリス】と言い、この街の領主の息子であるということを。彼が自分の立場を利用し、ギルドでも街中でも好き勝手していることにより、好かれていないことを…


「そんなやつ知らねーよ!」


さっきのリザードマンだ。さっきのことでよほどストレスが溜まっているのかここぞとばかりに拳を握り、上へと突き出して言った。


「無礼者め!俺は【ヴァイト・アイリス】の息子!ギル・アイリスだぞ!」


これが口癖である。権力を使い相手を黙らせる。この言葉の意味は「これ以上喋るようならこの街から追い出すぞ!」の意である。


「クッ!」


「どうした?知らないならもう喋るな!」


発言力を失ったリザードマンは歯を食いしばり、席に着く。


「あ〜あ、どうでもいい」


当然俺はあいつが入ってきてから俺の事を言っているんだとすぐに分かった。

しかし、腹の減っている俺はそんな者に構っている余裕はなかった。すぐにでも席に着こうとする。

しかし、静かなギルド内。俺の行動はとても目立ってしまっていた。


「お、おい!お前!お前だな?俺を気絶させ

挙げ句の果てシャナから金を奪ったのは!」


自分の胸の前で悔しそうに拳を握る。その声はいかりで震えていた。

だが、注目すべきはそこではない事にギルドのメンバーも俺も気づいていた。


あちこちから笑い声が聞こえてくる。クスクスと…


それはそうだ。己の失態を大声でふれ回っているのだから仕方のない。もともと好かれてはいないので、日頃の行いからしても笑われるのは当然であった。


「クソッ!な、何がおかしい!」


唇を噛み締め、そう訴える。そして、食事を始めている俺の方向にズカズカと歩み寄ってくる。


「すべては貴様のせいだぞ!」


そう言って、俺の目の前に来たギルはテーブルの上にあった俺の食事を思いっきり手の甲ではたき、座っている俺の胸ぐらを掴んだ。

176cmの俺が見上げるほどだ。それなりに高いことが分かる。


だが、俺の注目すべきところはそこではない。俺は入りながらに自分のことを叫ぶこいつをなんとも思っていなかった。怒声をあげながらこちらに向かってくる時も、胸ぐらを捕まえている今でさえ許せる範囲内だった。しかし…


「お前…なんてことしやがる…」


まだ一口しか食べていない料理は無残にも床に散らばっていた。腹が減っているのに中途半端にしか食べれていない。この怒りをどこへぶつけよう?


「お前にだよ…」


「はぁ?なんだって?聞こえねーよ!」


とても挑発的な態度を続けるギルに対し、たった一言…


「殺してやろうか?」


レンは気づかなかった。自分の放った殺気に。レンは気づかなかった。それにより、ザワザワしてしたギルド内に本当の意味で静まりかえった事に。


「ちょっ!ちょっと止めなよギル!」


一瞬遅れてシャナが走って俺たちの方へきて、俺の胸ぐらを掴んだギルを離させるように割って入る。


「にゃっはっはっはっ!」


その時、大きな笑い声が周囲に響き渡る。するとどこかのテーブルの椅子から誰かがジョッキを持ったままバッと勢いよく起き上がった。

そしてこちらを指差し話を続ける。


「ギル〜駄目だよ〜喧嘩しちゃ〜」


「ミーナ姉さん…」


そこにはクリーム色の長髪で顔の整った美少女がいた。傍らには自分ほどの大きく太い大剣…そしてミーナと呼ばれるその少女は酔っているようでフラフラしながら間の抜けた喋り方をしていた。


「私は君の姉さんじゃないよ〜」


「ん?」


俺はこの不思議な関係に首を傾げつつも2人の様子をずっと見ていた。

そしてこんな俺を見てミーナはさらに続けた。


「君も私、【ミーナ・ライトネル】の顔に免じて許してはくれないかな?」


「あなたの事は知らないし、あなたの顔にどれだけの価値があるのかも分からない」


ギルド内はどよめいた。「あいつ知らないのか?」とか「肝の座ってるやつだ」とか聞こえてくる。


「これは手厳し〜ね!じゃあ、大衆浴場にでも行って仲直りしようじゃないか!」


話の内容が全く見えてこない。なぜ、仲直りしなくてはならないのか?なぜ大衆浴場なのか?でも、大衆浴場ってことは温泉のことか?なら行かないわけには行かないだろう。


「ああ、いいよ。俺も風呂入りたかったし」


「はぁ?お前まじか?」


「じゃあ、決まりだね!早速行くよ!」


「うお!」


確かに風呂の場所を教えてもらえるのはありがたい。だが、それとさっきのことは別だ。

俺はギルの膝裏に蹴りを入れ、膝をカクンッとさせ、満足気に笑みを浮かべた。


ーーー宿場町アイリスには沢山の大衆浴場がある。この世界の街というのは地下の水源があるところに造られる。特にアイリスには魔力を回復させる源泉があることで有名だ。このアイリスが宿場町として大きくなっていったのもこれのおかげが大きい。


「まったく、ギルは2年前から知ってるけど血の気が多いのは昔と変わらないね〜」


「余計な御世話だ!」


俺はその大衆浴場の前に来ていた。そして中に入り、驚いたことがある。


「こ、混浴…」


俺は初めて見た光景に驚いていた。話には聞いたことがあるが、本当にあるのは知らなかった。


「じゃ!混浴3人ね!」


「姉さんも入るんですか?」


「当たり前じゃない!君たちが喧嘩したら誰が止めるんだい?」


俺はこの会話を聞き、ポカンとしていた。これはたった一言を聞いてしまったためだ。


混浴?3人?周りにいるのは受付の人合わせて4人…受付の人は入るのか?いや、そんなわけはない。てことは?男2人、女1人?なんで?


ーーーレンはとても残念だった。前はモテてはいたが、自分を高めるため日々努力していた俺は女っ気がなかったのだ…


「姉さん…後から後悔しても知りませんからね?」


「はっはっは!私を襲うきかい?」


「誰がそんな命知らずのことを」


流れるように暖簾をくぐって行く彼らにつられ、俺も中に入っていく。


後から聞いた話。混浴は別個のところと比べ安いようだ。普通ならゴルド銅貨3枚だが、混浴ならゴルド銅貨2枚らしい。




中に入ると凄かった。露天風呂になっていて上にはとても綺麗な夜空が広がっている。

辺りを見回しても蛇口はなく桶と石鹸が置いてあるのみだった。

しかし、よく見てみると水飲み場のようなところがあり、そこからお湯が湧出している。

湯気が出ているものと出ていないものがある。


「水とお湯ってことか?」


1番最初に入ってきた俺は早く体を洗うことにした。その時、2人が同時に入ってきた。


「姉さん!目のやり場に困りますよ!」


「まったく昔から変わらないな〜、喧嘩するたびにここに私が来させて仲直りをさせる。

定番行事みたいだね〜」


なんだか恥ずかしいギルの過去がどんどん暴かれて行っている。というか、俺をここに連れてきたのもそういう理由があったのか…


「おい、姉さんが言うから来てやったが、俺はお前がしたことは許さないぞ」


ギルは突然に俺の横へ来てお湯を取りながらそんなことを言い出した。彼の体は所々に傷があり、鍛えられた肉体が苦労の証のようにも感じた。


「お前には言っておいたほうがいいだろう。」


「ん?何をだ?」


彼はお湯を頭からかぶり、茶色の髪がくたびれてからそう聞いてきた。


「あの石のゴーレムを倒したのは俺だ。それに気絶させたのも俺だ」


「マジかよ…あれを倒したのか?」


キョトンとしたその顔はとても面白かった。

口の前に手をやり、桶を片手に持ったまま固まっていた。


「キャー!!」


どこからか悲鳴が聞こえてきた。しかし、ここには俺たちしかいない。

そして俺は視界にギルを入れながらそちらを向いた。心なしかギルの表情は真っ青になっていた。

こちらを向いていたのはミーナだった。さっきまでの大胆な行動は何処へやら、胸を抱え口を開けたまま呆然と立っていた。


「じゃあ!」


元気よく別れの言葉を発したギル…これから何が起こるかわかっているようだ。

彼女は腕を前にかざし、タオルは前に持ったままでこちらを睨んでいた。


「スペル・サンダー!」


その瞬間空気がピリピリとしているのが分かる。そして彼女のかざされた腕を見てみると

ビリビリとした黄色い球体が浮かんでいる。

この時俺は思った…


「これ、やばいやつだ」


そして彼女はその球体を地面へと叩きつける。すると電気が水を伝わり、浴場全体に広がった。慌ててジャンプをしたが、電気は水を伝わり、電撃は俺を直撃した。


その時俺は1つだけ思った。


「こ、これが…魔法…か…」


そう言って意識の薄れる中浴場の扉がガラガラと開く音がするのを最後に目の前が真っ暗になった。



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