第4話〜ハンターギルド
淡い光の街灯。石畳を歩いた時の感触。周りを見渡しても高層ビルもマンションもない。
せいぜい3階建てくらいの建物。大きめのこの一本道には屋台のようなものが所狭しと並んでいる。
「腹減ったな」
俺は情けなくも「グ〜」と鳴ったお腹を押さえ今までのことを振り返りながら口にした。
いろんなとこから美味しそうな香りが漂ってくる。それにつられるようにある店の前まで誘われる。
「お!らっしゃい!」
俺が目の前に行き、挨拶してきたのは白いハチマキを額に巻き、鍛えられた肉体を披露しながら串に刺した肉を焼く店主だった。
「これって何の肉…ですか?」
「にいちゃん書いてあるだろ?それにアイリスに来てコレを知らないなんざバチが当たるぜ!」
「ここ、ここ」と言わんばかりに指された看板の文字はまったく読めなかった。まるでミミズが這ったような字だ。
「お?にいちゃん読めないのかい?まあいい、コレはな【ロッドバイソン】の肉だ!ジューシーで美味ぜ!」
「グ〜」と再び情けない音を出して鳴ったお腹をもう一度押さえる。やはり空腹には逆らえない。
「ほほ〜う、にいちゃん腹減ってんな?なら買って損はないぜ!本来ならゴルド銅貨5枚なんだが、にいちゃんになら3枚でいいぜ」
「いいのか?」
顎と腹に手を置き、少し首をかしげる俺に対してさらに続ける。
「おうよ!俺は美味しく召し上がってもらえるやつに売りたいのよ!」
「お、おう…ありがとう」
早速中身を全部出してみる。
金貨 6枚
銀貨 8枚
銅貨 2枚
これがどれくらいの価値なのかはわからない。でも普通に考えて金貨、銀貨、銅貨の順だろう。
手のひらで分けられる硬貨を身を乗り出して観察する店主。
「あちゃ〜、足りないかい?ならギルド近くの換金所で銀貨を変えてきてもらいな」
「お釣りとか出ないのか?」
「オツリ?何だそりゃ?」
俺はとりあえずこの会話で得た情報を整理してみる。
1つ目、俺は文字を読むことができない。
2つ目、やはりこの硬貨はちゃんとした通貨だったこと。
3つ目、この世界にはお釣りという概念が存在しない。生産者ではなく、消費者が合わせる社会だということだ。
4つ目、ロッドバイソンはこの街の名物であること。
少し考えるそぶりをし、首をコクンとする。納得したようなそぶりを見せ、一言「分かった」と店主に言い残し一旦その場を離れることにした。
「おう!もうちょっとで店閉めっから明日きなー!」
軽く手を挙げ、立ち去っていく俺に対し店主は背後から大声を出す。
「ギルド近くの換金所…ギルドから行くべきか…」
頭をぽりぽりと掻き、仕方ないといった風に再び歩き始める。お腹は未だ鳴り止まない。
ーーーハンターギルドとはこの街アイリスに全部で3つ存在する。無論レンはこのことを知らない。
1つは街の東門の前の道を真っ直ぐに行き、
2つ目は街の西門の前の道を真っ直ぐに行く。3つ目はレンの入った南門の市場を真っ直ぐに行き、広場を真っ直ぐ抜けたところにある。
「お〜、デカイな…」
そしてレンはもうギルドの前に来ていた。明らかに他の建物とは規模が違う。
月明かりに照らされた白い壁、煉瓦色の屋根屋根、辺りにつけられた照明用の松明。それと大きな扉…
明らかに自分の体格とは不釣り合いな扉を少しだけ開ける。すると中からは温かみのある光が照らされてくる。賑やかな笑い声がこだましている。ガチャガチャと音を立てて、食事をしていたり、木製のコップを突き上げて
一気飲みしている姿。
「ここがギルド…か?」
正直ギルドというものがどういうものかはよく知らない。異世界ものの小説の中でよく出てくると言われている存在だが、そんな本があることを知っているだけで、どんなものが出てくるとか、どのようなところなのかはよく知らない。
ギーと音を立てて、ゆっくりと中に入る。中の光が出した足にかかる。するとその時
「おい!今なんて言いやがった!」
「リザードマンは野蛮だと言ったんだ。僕らエルフと違ってね」
そんな怒声と、冷静な返しが聞こえてきたのち、何かが俺目掛けて飛んできた。
頭を少しだけ、右に避ける。
「ガシャーン」という音とともに飛んできたものは扉にぶつかり、粉々に砕け散る。
「酒瓶か?」
ウイスキーのような四角い瓶。中からは酒が飛び散っている。瓶の大きさにしては量が少ない。おそらくは飲みかけだったのだろう。
「てめぇ!生きて帰れると思うなよ!」
「ふん、リザードマンが我々エルフに勝てると思うなよ!」
4対4の喧嘩。片方は金髪の長髪に整った顔立ち、片方は鱗に身を包んだトカゲのような顔をしている。
俺は「なんか言われてもあれは言い返せないな…」と心に思いながらその光景を扉の前で見ていた。
「何か揉め事ですかな?」
喧嘩しているテーブルの奥、今この扉からは反対方向にあるカウンターのようなところ。
そこにある扉からバーテンダーを思わせる格好をした男が1人出てきた。
「え!いや、こ、コレは違うくてだな【サリマン】」
この男が出てきた瞬間、こいつらの態度が一変した。さっきまで胸を張っていた奴らは途端に背中を丸め、さながら怒られそうになっている子供のようになっていた。
いつの間にか周りもこの状況に合わせるかのように静まりかえっていた。
「本当ですか?」
「ひゃ、ひゃい!」
途端に噛んだリザードマン。声は情けなくも裏返り、緑色の肌が真っ赤に染まって、目には涙を浮かべていた。
「ならいいんですが…」
少し警戒するように背中を向けて去っていくサリマンという男。その体は異常なほどデカイ。目の前にいたリザードマンが小さく見えるほどに…リザードマンが異常に小ったら勘違いで済むかもしれないが、周りの人と比べても相当の高さを誇っている。
「ガチャン」と扉の閉まる音がした。そしてそれが宴の合図だと言わんばかりに一斉に大声を挙げ笑い出した。
リザードマンは静かに身をかがめゆっくりと座った。エルフも同じように…
「まったく馬鹿だぜあんたら」
「「…………」」
誰かの呼びかけに応えない2人。その顔は真っ赤だった。それだけ恥ずかしかったのだろう。
しかし、俺はその光景に目もくれず真っ直ぐにギルドのカウンターへと歩いていく。その間にも料理のいい香りが腹を直接攻撃してくる。さっき食べ逃した分余計に腹がなりそうになる。それを我慢しながらやっとの事でギルドのカウンターへつくことができた。
「いらっしゃいませ!今回はどのような要件でお越しになられましたか?」
ガラス越しに話しかけてくる耳の生えた少女。にっこりと営業スマイルを顔に浮かべ、マニュアルどうりに話を進める。
「通行証?だっけか?それを貰いに来…ました」
「紛失ですか?それとも初めてですか?」
「えっと、初めて…です」
ついついタメ口になりそうになるのをこらえながらそう答える。
「はい!ではゴルド金貨一枚になります」
淡々と話を進めていく少女。いかにもマニュアル。まるでコンビニを見ているようだ。
袋の中に手を突っ込み、ランダムで金貨を探し出す。
「お、来た」
1発で引き当てたことを少し嬉しく思いながらも、なんだか金が結構必要となるので少し先のことが心配になりつつ金貨を出す。
「はい!確かにいただきました!それと、ハンターカードの提示をお願いいただけますか?」
「ハンターカード?持ってない…と思います」
「ハンターカード」というまた未知のワードに困惑しながらも、自分が所持していないことを伝える。
「紛失ですか?それとも発行ですか?」
彼女の口調に休まる暇はない。すべてマニュアル通りなのだろう。
「発行で…」
「はい!かしこまりました!では、ゴルド銀貨一枚になります」
さっと払い彼女の行動は次へと移る。
一旦奥に行き、何かをゴソゴソして、何か紙とプレートと大きな水晶を持ってきた。
「では、これに記入をお願いします!」
そう言って渡してきたのは一枚の文字の書かれた紙…よって読めない…
「読めない…んですが」
「では、上から説明していきますね」
「これもマニュアル通りなのか!?」と内心驚きながら彼女の説明を聞く。
正直頭のスペックは低くはないので、すぐに覚えることができた。
名前
種族
魔力値
優属性魔法
劣属性魔法
固有スキル
その他予備欄
「では、魔法系統を調べるためにこの水晶に手を置いてください!」
魔法という言葉にやはり困惑してしまう。属性というくらいなのだからやはり炎や水を出したりできるのだろうか?
そんなことを考えながらゆっくりと手をかざす。
水晶が唐突に熱を帯び始めてくる。しかし手を離そうとしても離れない。そして次の瞬間には黄色く光り、手に痺れが伝わってくる。
「痛ッ!」
「お疲れ様でした…って…え!?」
彼女は突然大きな声を上げたがこの騒がしさではかわいいものだ。
何が起きて、何がお疲れ様なのかはよく分からない。でも何か彼女は紙に書き始めたので終わったのは確かだと思う。
「はい!どうぞ!凄いですね!」
書いた紙を渡される…が読めなくて目を細める俺に対し彼女は書いていることを口頭で説明をする」
「あ、えっとですね、この魔力値というのが1200ですね、で優属性が「力」、劣属性が「光」ですね。固有スキルはありません!」
正直1200だとか、力だとか、光だとかさっぱりわからない。何がどの基準ですごかったのかを教えて欲しいと思った。
すると彼女は首を傾げている俺に再び話を振ってくる。
「あ、平均が120なんですけどね、高い人でも300〜500の間くらいです」
天才はここでも力を発揮したそうです…平均値を大幅に超えているらしい俺の魔力値だが、それが何かもさっぱりだ…
「名前と種族を教えてください!」
興奮冷めないまま彼女の言葉はさらに力を増して投げかけられる。
「種族は人間」
「に、人間!?て、ことはヒューマンですか!?」
彼女はいちいち驚く。さっきまで冷静にマニュアル通りこなしながら話してきていたのに我を忘れたように興奮している。
「名前はレン」
彼女とは対極に冷めている俺は名前も淡々と教えた。あえて金井の方は名乗らない。
なぜならこの世界には和名が少ないからだ。それにひきかえ「レン」というのはいてもおかしくないのでそちらだけ語り、周囲から浮かないようにする。
「はい!完了しました!では、キチンと記載させていただきます!」
「あ、よ、よろしく」
彼女のテンションの高さに若干押され気味になりながらもちゃんと答えた。
「では、明日の朝にはできますので、その時に取りに来てください!ありがとうございました!」
俺はホッと一息つき、その場を離れ、食事の配給がされているところへ行くことにした。
さっきから一定の間隔で鳴り続けるお腹を押さえて…
ーーー「バンッ!」という音とともにギルドの扉が勢いよく開いた。
そこへ入ってきたのはボロボロの男女。南山の洞窟のクエストを受け向かったパーティだった。
彼らの表情は1人を除き、怒り心頭だった。
レンはこの4人組を知っているが気づかない。
そして、4人組の中で1番の重装備をしたやつがギルド全体に響くように叫ぶ。
「南山の洞窟にいたものはいないか!」っと…




