第40話〜崖の上の教会2
窓から日の光が射し込んでくるいつもの朝。
この世界に来てから何ら変わらない何度も経験してきた朝だ。
だけど、今日は何だかとても静かだ。
俺は横のベッドでまだのんきに寝ている大男を叩き起こし、これからのことを考える。
「グリム。この町にある教会はいくつだ?」
「おいおい、本気で行く気か?騙されたんだよ!都合が良いように言って逃げたんだよ」
「俺もただの異世界人ならそう思うだろう。でもな、これだけは確認しなくちゃいけない。本当に騙されてたんなら、残念だがな」
「異世界人?何だそりゃ?」
「いや、こっちの話だ」
俺は着替えを済ませ、ベッドに立てかけてあるドレインを肩にかける。
まずは教会をしらみ潰しに探さなきゃな。
「で、教会の場所は?」
「は?知らねーよ。俺たちにとったら教会なんて入れるところじゃねーしな」
「位置は把握してないのか?」
「地図みりゃ分かる」
なんだ、分かるんじゃないか。
まぁ、あの奴隷娘のせいで余計な出費をする羽目になったが、それ以上の情報を期待してみよう。
金はまだあるから心配ないがな。
「じゃあ、地図を買おう。どこに売ってある?」
「この街の?」
「当たり前だ」
「それならどこにでもあるぜ?そこの道具屋にも、薬屋にも、防具屋、武器屋にも売ってある」
グリムは辺りを指差しているだけだが、周りからはものすごい視線を感じる。
やはり、ここまで大きい男は街中で迷惑なほど目立つ。
「まぁいい、適当に道具屋にでも行ってみるか」
「へーい」
どこでもいいのなら、1番近くにあった道具屋の扉を開く。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「地図。この街の地図だ」
「はいよ。で、どれにする?」
店主は奥の方に行き、3種類の地図を両手に抱え、カウンターに広げる。
1番安そうなのはこの、街の家や重要なギルド、領主の家などが区切られただけで、文字は何も書いていない地図。
でも、2番目と3番目の違いはよくわからない。所々違うところが見えるが、間違い探しのように難しい。
「2番目と3番目は何が違うんだ?」
「あー、それはね。2番目の方が5年前の地図、1番目と3番目が1年前の地図だ。オススメは3番目だね」
「じゃあ、それくれ」
「金貨3枚だ」
ニヤリとしながら指を3本立てる店主だが、呆気なく俺の手から渡される金貨を見て疑問符を浮かべていた。
「おいおい!本当にいいのか?」
「何がだ?」
「金貨を3枚も…」
「時間が惜しいからもう行くぞ」
「ま、毎度あり…」
足早に店を出て行く俺を見て唖然とする店主だったが、全く気にせずグリムに話を振る。
「で、どこにある?」
俺は早速、今買ってきた地図を広げる。
「ああ、この十字架のあるところだ」
あっさりと街の至る所を指で指し、十字架のある場所を教えてくれる。
というか、さっき見た5年前の地図にも十字架のマークがあったような気がするが、この地図には無くなっている。
潰れてしまったのか?
「……全部で13か。俺の見たところも入れて14か。長い戦いになりそうだな」
「忘れてないだろうな?本当にいるかは分からないんだぞ?」
「分かってるって」
ここから見える大きな塔…それを目印にまずは1番近い教会に攻め込んで見る。
「失礼します」
グリムでも少しかがめば楽に入れるような大きな扉を開け、中を確認する。
あまり大きくない教会で、少し首を振れば全てが見渡せてしまう。
美しいステンドグラスに映る母性に溢れ、優しい笑顔を浮かべている女性の足元。
そこには教卓のような台があり、神父のような男が、立っていた。
まずは話しかけてみよう。
「あの〜。人を探してるんですが…」
「どのような人を?」
「………おい、グリム」
「いや、知らねーし」
そういえば、教会の場所だけでなく、そいつの特徴とか、どんな雰囲気だとかすらも聞いていなかった。
「…やっぱいいです」
「神のご加護があらん事を」
「はぁ…ダメだこりゃ」
おそらく見れば一目で分かるはずだ。
だってそいつは相当の手練れで、あのヒストリアとか言う謎の女性から1人の少女を護ったのだから。
よってあの神父は雑魚オーラプンプンなので間違いなく違う。
「次行くか…」
「本当に見つかるのか?」
「さぁな」
「全く確証がないなぁ」
旅は道連れ。
こいつには最後までとことん付き合ってもらう。
で、なんだかんだで次の教会に着く。
しかし、もちろん不発。さっきの教会と比べればこちらの方が大きいし、その分期待も大きかったのだが、中にいたのはまたしても弱そうなおっさんと農民数人だった。
「本当にいるのか?」
「やめろグリム…まだ2軒目だ」
…と思っていたが、残念ながら次も不発。
その次も、その次も、不発だった。
現在6軒目に向かっているが、やはり疲労感がすごい。
なのでここは一時休憩をとって、食事でもしようということになった。
魚料理が食べたかったのもあるが…
「で、どうするよ。まだまだ半分以上あるぜ?」
「グリム…あんまり疲れる事を言うな。あと8軒だろ?分かってるって」
この街は広い。
おそらくアイリス並には広いと思う。
いくら教会が割と固まったところにあるとは言え、移動時間は半端じゃない。
滞在時間はほとんど一瞬のなのだが、全てを移動時間で削られていく。
「はぁ…なんかため息ばかりが出るな」
「それは俺の方こそだぜ?だってよ。このグリム様がこんなに歩かされて、こんなにちっさい椅子に座らされてるんだ」
確かに、すべての店が大きいテーブルや椅子を置いているわけではない。なので今のグリムはすごく窮屈そうに椅子に座っている。
そんな事を考えていると俺たちの頼んだ料理が運ばれてきた。
初日は奴隷オークションのせいで何も食べられなかった。いい気分転換にはなったが、その分苦労も増えた。
いや、そんなことはどうでもいい。俺は本当に迷った。煮魚にするかフライにするか…
「ハルデオのフライとホワイトウルフの丸焼きでございます」
グリムの頼んだものは本当に高かった。
金を借りている身分で本当にいい気なものだ。
それにしてもハルデオっていう魚…どのような魚なのかは皆目見当もつかない。ただ、見るからに白身魚っていうことかさだけが分かる。
「い、いただきます」
「俺もー」
俺はフライにがぶりとかぶりついた。味は本当に一般的な家庭に出されそうな白身魚のフライの味。
アジとかに近いと思う。
でも、なんだかとても懐かしい味だ。
「ふぅ、ごちそうさま」
「美味かったぜ〜」
「なんで食べ終わるタイミングが同じなんだ?」
あのホワイトウルフの丸焼きは結構デカかったはずなのだが、俺のフライが食べ終わると同時に食べ終わりやがった。
「まぁ、俺たちは盗賊だからな。早く多く食べなくちゃ行けないのさ」
「そんなもんなのか」
俺たちは食事も終え、体力も割と回復した。
さて、あと8軒…頑張るか。




