第37話〜港町アルトラ
揺られる馬車の中俺は目をさます。
「起きたか?もう着くぞ」
鞭をしならせ馬の背中に叩きつける音がする。それと同時にこちらを振り向くグリム。
「ああ…」
俺たちは様々な街を経由し、8日間かけて目的の街まで着いた。その名も港町アルトラ。
潮風が街の中まで吹き、磯の香りを運んでくる。まだ街に入っていないのにそれがよく分かる。
新たな気候。新たな土地。期待に胸を高鳴らせたあの頃の俺は何処へやら、着いてしまうと意外とさっぱりしたものだった。
「…ここにも手配書か」
「そうみたいだな。俺は慣れっこだけど」
街に入って早々に見つけたのは俺の絵が描かれた手配書。写真じゃないしあまり似ていないが、ギリギリ分かるだろう程度の代物だ。
「下手な絵ばっかり描きやがって…俺が描いた方がよっぽど上手い」
「おいおい、自分の首を絞める気かよ」
「まさか…冗談だよ」
他の街でも思ったがこれだけ手配書が貼られているのに俺はともかくグリムが気づかれないのは何故だ?
手配書の顔がいくら似ていないからといって、よく見れば判るはずだし、ただでさえ目立つ大男だ。
「今はそんな事考えても仕方ないか…」
恐らくこの国の人たちはこういうものにはあまり関心が無いのかもしれない。
「どうでもいいがどうするんだよレン」
「お前に名前教えたっけか?」
「いいや、勝手に聞いてただけだ」
「そうか…まあいい。魚介類を食べたいからな。早く店に行こう」
脂っこいのは苦手な方だ。肉か魚かと言われれば魚。ご飯とパンかと言われればご飯を取る。
そんな俺は今、ごく普通の食事処に来ているわけだが…ただの魚料理なのにこんなにも美味そうに見えるのは何故だろう。
「い、いただきます」
「俺も食おっと!」
「グリム。お前は金払ってないだろ」
「ケチ…」
俺はグリムを軽く睨み料理に手をつける。
「旨っ!」
「頼むよ!金持ってないんだって!知ってるだろ!?」
「はいはいまた貸しな」
「了解!」
俺はグリムに金を渡し、グリムは小遣いをもらった子供のようにカウンターへ走って行った。
この街につく前もこんな感じで俺に金をせびってきた。俺が渡すのを渋る度にあの夜のことを交渉材料にしてくる。
何でも交渉材料になるのはこの世界のいいところだが恩でもここまで長引かされると迷惑だな。
「はい!俺も頼んできた同じやつ」
「ご馳走様。あれだな白米が欲しくなるな」
「いや、待てよ!」
「分かったから離せ」
立ち去ろうとする俺を必死で掴むグリム。振り払おうとするがさすがグリム。そのパワーはとてつもなく強い。
「座るから」
「最初から置いていこうとするな」
たわいも無い会話が店の中に響く。つい先日知り合ったばかりなのに古い友人のような感じだ。
思えばこの世界に来てまだ1ヶ月ほどしか経っていない。濃密な時間を過ごしてきた証なのだろう。
「ふぅ…いろいろあったな」
「何がだ?」
「何でも。ほら、食べたならどっか行くぞ」
「急かすなよ。ほら、まだ口の中に残ってるだろ?」
「汚い見せるな」
口の中を指差し見せてくる。食事の後だし気分が悪くなる。俺は無理やり連れ出す。
目的も何もなかったが何か行動を起こさなければならないと思った。
もしかしたらこの気持ちが表情に出ていたのかもしれない。俺の様子を見ていたグリムが重い口調で話す。
「お前…なんか焦ってるのか?」
「…いや、そんなことは無い」
「嘘だな…目がマジだぜ?」
「は?」
「これは疲れだな。いろいろ溜め込んでるだろ?」
俺はグリムに言われガラスに映る自分の姿を見てみる。そこにはくっきりと目の下にクマを作っている自分がいた。
何でだ?しっかりと寝れているはずなのに…やはり新しい環境だからストレスが溜まっているのか?
「お前が何を悩んでいるかは知らないが、1ついい場所を知っている」
「どこだ?懺悔室か?生憎懺悔することなんて無いんでな」
「違うぜ…」
人差し指を左右に揺らし、怪しく微笑むグリム。そして俺の耳元まで体制を下げ静かに耳打ちする。
「奴隷オークション?」
「ああ、この街にはな夜になると奴隷オークションが開催されるんだ」
「毎日か?」
「さぁな、行ってみないと分からない」
「何でそこへ行った方がいいんだ?」
するとグリムは途端に呆れた表情になり、俺の額を人差し指で突く。
「バーカ、溜まってんだろ?性奴隷でも買ってパーッとしようぜ」
「そんな事ならそこらの怪しい店にでも入ればいいだろ?」
「長い目で見ればそっちの方が得だし、要らなくなったら売ればいいだろ?」
別に何も感じはしないが、つくづくこの世界は腐ってると思う。まさかとは思ったが本当に奴隷制度が未だに浸透しているなんてありえない。
しかし…
「分かった」
「よし、決まりだな。じゃあもう直ぐ日も暮れる。会場に行ってみるか」
「…そうだな」
そうして奴隷オークション会場へ向かう。
こんな事をしていても良いんだろうか?こんなところで1日を消費しても良いのだろうか…そんな事を考えながらも歩みは止めない。




