第35話〜王都編完結…脱走と別れ
「ったく、拷問なんかしやがって…まぁ、もう治ったけど」
「グリムハーヴェー…君たちは組んでいたようだね」
「まさか、俺はこんなところで会うなんて思っても見なかったよ」
青い水のロープで何重にも縛られ、さすがのセトレアでも抜け出せないでいる。
さすがグリムといったところだ。
「こんな単純な拘束で私を長い間止められるとでも?こんなの魔力を分解すれば…」
そう言うとセトレアを拘束していたロープはブクブクと煙を立てまるで沸騰しているような状態になった。
「スペル・ウォーターバインド」
「クッ!」
そんなセトレアにさらにキツくロープを巻きつける。
「こんなもの…え?」
「残念だな。それは俺が長年かけて作った魔法だ。簡単には分解されない。いくらお前であってもな」
禍々しい殺気を放ちながらこちらを鬼の形相で睨んでくるセトレア。それを見下ろすように位置するグリム。
そして思いっきり手を振りかぶる。
「まて、グリム。まだ殺すな」
「…なんでだ?こんなにも無力なセトレアはもう2度と来ないぞ」
「…待て」
「分かったよ。お前に従う」
ゆっくりと上げた手を下す。
「じゃあ、早く行かないとな。時間はないぞ?」
「分かってる。でも最後に」
俺はセトレアに近づき、相手の顔の位置まで視線を下げ、口を開く。
「俺はお前に負けた。今何度立ち向かおうと歯が立たないだろう。だがな、きっと俺は戻ってくる。強くなってな」
「負け犬の遠吠え。いいわ、その時を楽しみにしてるわ…くれぐれも逃げない事ね」
気分が悪くなるほどの殺気。やはりまともに戦っても秒殺されていた事が嫌という程分かる。
「済んだか?じゃあ行くぞ」
「…ああ」
そうして俺たちは牢獄を後にする。
道中遭遇した騎士はグリムが叩きのめし、順調に外へと出た。
外へ出ると警鐘が王都に鳴り響いていた。至る所に火がつき、煙が立ち上っていた。まさにパニックの絶頂と思えるほどいろんなところから叫び声が聞こえてきた。
「どういう…」
「お頭!お迎えにあがりました」
「ああ…ありがとう。全員に逃げるように伝えろ」
「分かりました!」
後から聞いた話。グリムはもともと脱走計画を俺たちと戦う前に部下に伝えていたらしい。
「万が一俺が負けたら、ハンターフェスの後に助けに来てくれ」
なぜハンターフェスの後かというと、ひと段落ついて警備は多いが気持ち的に緩くなるらしい。その後には本番である王国誕生祭が控えている。だから、そこで気を抜かないと持たないらしい。
これを聞いた時、あの夜の会話はなんだったんだ?と思ったが別にどうでも良かったし聞かないことにした。
抜け目のないやつだ。
「で、どこへ逃げる?アイリスには帰れないぞ?」
「任せる。いや、やっぱり港の方にしてくれ。魚が食べたい」
「こんな時に呑気なもんだ。大したやつだぜ」
ワイバーンは使えない。誰も操縦できないし、この混乱では気が立っているだろうとのことだった。
「適当に馬車でも拝借するか?」
「グリム。お前に全部任せる」
「勝者の命令は絶対ってね。仰せのままに」
「くだらないな」
俺たちは誰のかも分からない馬車を奪い、街の外へ行く。
グリムの仲間が来なかったらこんなにも簡単に王都を抜け出せなかっただろう。
「俺の家族はすごいだろ?」
笑いながらこちらを振り向くグリム。やはりこいつはやっぱり笑顔が苦手なようで不気味に見える。だが…
「ああ…そうだな」
思った以上に順調に街の外へ飛び出す。
馬車はワイバーンほどではないにしろ歩くより圧倒的に早い。
王都がどんどん遠ざかっていく。もう既に夜であるのに王都はまるで夕日が射しているようにオレンジに光り、黒い煙が上がっていた。
そんな光景を見ながら、自分の心が痛む感触がする。
俺は軽く胸を押さえ、王都から目を離す。
俺たちは混乱の王都を後にする。いつかまた、ここに帰ってくるために。セトレアに再戦するその時まで…
---本当はミーナとルナは王国に囚われてはいなかった。あれはセトレアの策略。確実に言うことを聞かせるための枷としてついた嘘だ。
そんな彼女たちはもちろん宿にいた。
レンが囚われたことも、まして脱走したことも知る由もない。見ているのは混乱に包まれる王国の様子。
「なに…これ?」
盗賊たちがなにを奪うわけでもなく。ただ、暴れている。傷つけるわけでもなく物を壊しているだけ。
まるで目的は王都を混乱させる事のように。
騎士たちの対応が追いついていない。
そんな光景をただ呆然と見ているミーナの袖を引っ張り何かを指差す。
「ミーナさん!あれ!」
その指の先には…レンだ。レンがいた。
「ちょっと!レン!どうし…」
そこで気がついた。横にいる大男の存在に…もちろんそれはグリムのことだ。なぜ一緒にいるのか、馬車に乗りどこへ行こうとしているのか。
「レンさん!どこへ行くのですか!」
混乱の中、ルナは柄にもなく大きな声で叫ぶ。
するとレンがこちらを振り向き、自分の腕についていたパーティの証であるブレスレットを投げる。そして…
「じゃあな…」
たった一言。それが理解できなかった。
彼女たちはその場に立ち尽くし、走り去る馬車を眺めていた。すると横から新たな声がする。
「お主ら!あの者の知り合いか?」
「え…えぇ」
「どこへ行くのじゃ!」
「わ、分からない」
真紅の髪。その少女はあまりにも必死な表情で問いかけてくる。しかし、今の状況も理解出来ない彼女たちには答えることはできない。
「まだ、礼も言ってない…わしの性分に反する。どうじゃ?お主ら一緒に追いかけんか?」
「でも…さっき…じゃあって…」
「お主らはそれで納得するのか!そうは思えん目をしとるがの」
「そ、そうですよ!納得いきません!早く馬車を…」
ルナがそう言いかけた時にいたる所の城壁の門が閉まる音が聞こえた。
既に周りにいた盗賊の姿は消えていた。まるで煙のように…
「罪人!グリムハーヴェー!その仲間レンが脱獄を図った!これより王都を封鎖する!」
いたるところで同じようなセリフが聞こえてくる。これで簡単には出られなくなった。
「こんな時に…」
「嫌なタイミングじゃの…」
「…そうね」
彼女たちがレンを追うのはまだ先になる。




