第34話〜牢獄の交渉
「…きろ」
何か聞き慣れた声がする。セトレア?違うなこれは男の声だ。だったらハイル?いや、こんな声ではなかった。王?マリーフィア?どちらにも当てはまらない。
「おい、起きろ」
ゆっくりと目を開く。すると天井だろうか?冷たい岩肌が視界に飛び込んできた。
そして声のする方向を見る。
「やっと気がついたか」
「グ、グリム?」
「おぉ、覚えていたのか」
「…なんだこれ」
グリムを見る時に気付いた。俺が牢屋の中にいる事を。俺とグリムは鉄格子と通路を挟んで反対側にいる。
「見ての通りだよ…」
グリムは自分につけられた手錠を俺に見せる。
俺は自分の手足が不自由になっているのに気がつく。
「その手錠はな魔封石の手錠と言ってな、接しているものの魔力を外へ出さなくするものだ」
「荷物も服も取り上げられているな。代わりになんだ?この服。下着と布一枚じゃ無いか」
「それが囚人服だ。奴隷服より下着がある分ましだろ?」
なに?奴隷服は下着が無いだと?
それは女性もなのか聞こうとしたがやめておいた。いや、これは単なる探究心で、やましい事はなに1つ無いけどね。
「で、お前は何したんだ?」
「さぁな。偽証とか何とか」
「ハンターカードのか?」
「そうらしい」
「らしい?」
「詳しい事はさっぱりだ。カードを発行したのは獣人と呼ばれる種族だし、その後ギルドに行っても雇っていないって言われるし」
確かに怪しいと思う。だけど何のためにどうして偽証を行ったのかが見当もつかない。
王国が偽っているっていう可能性も捨てる事が出来ないがそこまでして手に入れたい何かが俺にはあるのか?
いや、待てよ。確か、ヒストリア・ヘイムっていうやつが言っていた。私の同僚がカードの事でミス…じゃあ獣人の彼女は…
そんな事を考えているとギーッと重たい扉が開く音が聞こえた。
「…セトレア」
「やぁ、目覚めたみたいだね。どうだい?居心地は?」
「もちろん最悪だね」
「こんな状況でも敵意むき出しだね。まぁ、良いんだけど」
するとセトレアはどこからか持ってきた椅子に腰掛け、足を組む。
「早速だけど本題に入らせてもらうね」
「…ああ」
「君には1つだけ了承してもらいたい事がある。これは対等な立場での取引だ。別に強制はしない」
「対等?こんな牢獄に枷までしてか?ボロ布をまとわせ、俺の自由を奪いながら対等と言えるのか?」
セトレアは少し笑いながら「それもそうだね」と言いながらポッケに忍ばせていた鍵を取り出す。
そしてあろうことかその鍵を俺の牢屋の中へ放り投げた。
「…どういうつもりだ?」
「手足の枷を外すと良い。あくまで私は君と対等な取引をしたいんだ」
セトレアは手のひらを二回叩く。すると再び扉が開き、服と剣を両手に持った騎士が入ってきた。
「これは君の着替えとドレインだよ」
「…着替えろと?」
「これで対等だ。ただ、鉄格子をお互い挟んでいるだけ」
黙って鎧と剣を受け取る。そしてセトレアに後ろを向かせ自分の装備を身につける。
「で、本題は?」
「君に頼む事はたった1つ。この国の奴隷兵士になって欲しい」
「何か言うのは全てを聞いてからにしよう」
「正しい判断だね」
そうして話された事はこうだ。
なぜ、奴隷兵士になって欲しいか。それは近々ティリア王国との戦争が勃発するかもしれないからだ。
このトリニスタは兵の数も少なく、正面から戦っては間違いなく敗北してしまう。なので俺の力で敵の戦力を最大限削り勝利へ導いて欲しいということだった。
俺の力については教えてもらえなかったが、そのくらいの力が俺にはあるということか。
「俺がそんな特攻隊のような条件を飲むとでも?必要な対価も言われてないし」
「そうだね、君への対価はね、命の保証だよ」
「…俺のか?」
「まさか!もちろん君の仲間のだよ」
さっきまでの陽気な雰囲気とは打って変わって真剣な口調で話すセトレア。
「君の仲間2人は、私たち王国が預かっている。生かすも殺すも君の返答次第。どうだい?やってくれるよね?」
「……………」
「私たちには時間が無い。この戦争はいつ来てもおかしく無い。だから今ここで決めてもらう」
俺の心情は穏やかだった。冷静にセトレアを見つめる。
「なぁ、俺はさあんたらにどう見られていたわけ?」
「ん?そうだねぇ。彼女たちをえらく気に入っていたようにも思えたね、他のものに向ける視線とは全く違ったからね」
目の事はシュミカにも何か言われたような気がする。しかし、今はそんなことどうでも良い。
「…全く、俺は仲間思いのいい奴に見られていたらしいな」
「…どうしたの?」
俺の不敵な笑みに若干違和感を持ち、傍に置いていた剣に手をかける。
「俺はな…あいつらに情は湧いていない。ただ、流れでパーティーを組み、共闘し、グリムを護送する為だけにここに来た」
「え?」
「あんたは俺の評価を間違ったって事だよ」
俺のピリピリとした殺気に気づき、椅子を放り出して後ろへ飛ぶセトレア。
俺はドレインを抜き、己を強化する。そして鉄格子を切り裂く。
「…それでいいんだね?結局君はここを抜ける事は出来ないよ?こんな事もあろうかと私が来たんだからね」
負けじとセトレアも自慢の剣を抜く。
スピードだけでやり合えば俺は手も足も出ない。ここは狭い。そこを活かすしか無いだろう。
「全く君の剣はあくびが出るよ。遅すぎて」
セトレアは高速で俺の懐に入ってくる。しかし、俺はこれを待っていた。
「へー、学習したね」
あの時と同じ行動。ならば強化する部分は決まっている。みぞおちだ。あの時はあそこからペースを崩された。だから、最初からみぞおちに集中して強化していた。
「あぶね」
俺はドレインを大振りし、セトレアを一旦下がらせる。
「でも、いくらかわせたところで君1人では勝てないよ?」
「それはどうかな?」
その言葉と同時にセトレアの突きが俺に向かってくる。それの軌道をかろうじて逸らし、再び大振りで引かせようとするが今度は受け流されてしまう。
リーチも多少俺の方が長い、通路も狭く簡単にあたると思っていたが全てをそらされる。
俺は様々な角度から剣を振り下ろし、いろいろなものを切り裂いていく。時に壁、時に鉄格子。
通路が狭い事によって守りやすいが攻撃しにくいのはこちらも同じだ。
「君が何度それを振るおうが私にはかすりもしない。君1人の実力はその程度なんだよ」
「ああ、俺1人では勝てないさ」
俺はドレインを納める。
「あれ?諦めるんだ。意外だね」
それにつられ、セトレアも剣を納め張り詰めた警戒心を解く。
「1人ではな?」
「どういう…」
「スペル・ウォーターバインド」
その呪文を唱える男の声がする。すると縄のような水が、セトレアを取り囲みきつく締め上げた。
「あーあ、たく…お前、一つ貸しだからな」
「なん…だと…動けない」
「バカ言え、こっちがどれだけ苦労したと思ってやがる」
俺とそいつは少しだけ笑みを浮かべ目を合わせる。
俺の目線の先。そこには手が異常に長い大男が手首を摩りながら立っていた。
そう、その男の名はグリム・ハーヴェー。




