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第1話〜「金井 蓮」は死にました

 俺は今日を持って死んだんだと思う。


 じゃあ今こうやって考えているのは誰なんだとと思ってしまうことだろう。


 だが、確かに 金井 蓮(かない れん)は確かに死んだ。 

  1度目は命を奪われ、2度目はわずかに残っていた心さえも粉々に砕かれてしまった。


 これで死んでいないとは言わない。

しかし、神は心を砕かれる代わりに失った命を再びこの身に宿してくれたのだ。


 よってここにいるのは、誰でもない。ただ何もない人間なのだ。


 「なら、ここから始めればいいじゃないか」


 軽く口元を緩め、返り血にまみれた左手を顔の前に持ってきてその手を見ながらそんな事を言ってみた。


 さっきも言った通り死んだのだ。裏切られ傷つき、打ちひしがれたあの時の俺は。

  肉体はあってももうこれは別の人生。しかも過去の記憶つきという特権まで貰っている。


 「なら、もう後悔はしない。誰よりも幸福で誰よりも自由で、誰もが羨む。そんな最高の人生を歩んで行こう」


 雲ひとつない空を見上げ、右手には血の付いた剣を持ち、返り血のついた左手で顔を覆う。

 「 今日、今この時をもって泣くのは最後だ」

 そう心に誓い森の中を歩いた。


  ーーーここはあの殺戮のあった現場。あの忌まわしい平地から森を少し行ったところ…

  地面に入り込むようにできているとある洞窟の入り口。

 この洞窟には獰猛なゴブリンが生息している地域だ。

 そこへこの近くの街である【宿場町アイリス】から派遣された4人組のパーティーが来ていた。


 「なあ、今回のクエストってさ、報酬いくらくらいもらえるんだ?」


 1人のゴツい鎧を着た男が大剣を狭い道の中肩に乗せ後ろを振り向きながらそんな事を言ってきた。


 「ちょっと!危ないからそんな物鞘の中に収めといてよ!」


 振り向いたことにより、こちらに向かってきた大剣を下に避けながら鎧を着た少女が文句を言った。

 そんな光景を後ろの方で見守っていた2人が口を開いた。


 「ははは、【ギル】そんな大剣は納めておいたほうがいいよ。危ないからね。」


 メイスを持ち、白と青を主体とした服を着こなし、四角い帽子をかぶった男が言った。


 「【アルト】と【シャナ】の言うとうりだよ」


 黒いマントを羽織る少女も彼に続いて言った。


 「ちぇ!【ミナ】まで敵かよ〜」


 カシャカシャと鎧の音を鳴らしながら、右手を顔に当てて言った。すでに大剣はしまった後だった。



 ーーーそんな雑談を交えながら洞窟を歩いた。彼らの目的の存在が現れるまで歩いた。

 しかし、その存在は彼らのすぐ側まできていた。だが、洞窟が暗かったためか、はたまた

 油断していたためか、それは分からない。

だがそれは彼らの前に唐突に現れた。


 ドスン!ドスン!


 それは石を主な材料として造られたゴーレムだった。

 彼らはここに多く生息しているゴブリンではなくこの存在を処理しに来たのだ。


 「お!お出ましだ」


 鎧の男がそう言うと全員が臨戦態勢へと瞬時に切り替えた。さっきまでの雑談は嘘だったように。


 ギルとシャナは戦士である。なので前線で剣を構える。アルトとシャナは後方支援。

 アルトはいつでも怪我をしていいように回復魔法をかける用意をしている。

 ミナは後ろから攻撃魔法をかけれるように杖を構えている。


 誰が見ても完璧な陣形。強力な前線の攻撃。

 いつでも怪我をできる環境。遠距離からの支援攻撃。


 「完璧だ」


 ギルが大剣を両手で持ち、その存在に思いっきり突っ込んでいった。


 しかし、一瞬だった。彼らの余裕も、笑顔も

 自信もその一瞬で崩れ去った。


 「カハッ!…」


 たった一撃。そのゴーレムは右から左へ拳を動かしただけだった。

 ギルはその素早い一撃を剣でガードしたものの刀身は真っ二つになり、口からは血を吐き

 壁に打ち付けられた。


 「え?ギル?…」


 予想外の出来事にアルトは思わず名前を呼んだ。しかし、返事は返ってこない。気絶したのだ。たった一撃でパーティーで一番の火力を誇るあのギルが…


 その瞬間、パーティーの全員には恐怖が植え付けられた。

 舐めてた。勝てると思っていた。そんな妄想がボロボロと崩れ去っていく中、シャナはどうするべきか分かっていた。


 「…げて…逃げて!」


 そんなシャナの叫びと共に一斉に動き出した。ゴーレムも「ゴォォォ!」という雄叫びをあげ、アルトとシャナはゆっくりながらももと来た道を交代していった。


 すると、黒いものがすごい勢いで来た道を戻って行った。ギルだ…

 彼は死んだふりをしてまで、仲間を裏切ってまで助かろうとした。どんなに醜く無様でも

 『生』の道を選んだのだ。


 それにつられるようにアルトとミナもその場から走り出した。シャナも走り出そうとしたが走れなかった。

 なぜならゴーレムの魔法でいつの間にか足を固められていたからだ。呪文は聞こえなかった。パニックで聞き逃してしまった。


 「た、助け…」


 その言葉を言おうと後ろを振り返った時、仲間たちはすでに背中を向けて走り出していた。悲惨な悲鳴をあげながら…


 「ーーーッ!」


 シャナはここで自分の命は儚くも散ってしまうのだろう。ならばこの光景を目に焼き付けておこう。この世で最後の光景を。


 その時に気付いた。このゴーレムが傷だらけであることに。


 「え?何で…」


 ゴーレムとはどれだけ傷をつけられようとも同じ素材の物を摂取することにより回復する。だが、このゴーレムは治ってはいなかった。指も所々欠損していた。


 「だ、誰が…」


 ふと周りに意識をやってみると悲惨な悲鳴は消えていた。走って帰っても結構な距離があるはずだ。なのに悲鳴は洞窟にはもう反響していなかった。


 しかし、その時ズルズルという音と共に声が聞こえ来た。


 「まったく。悪い奴らだね〜。仲間を見捨てて助かろうなんて、何で無様なんだ」


 声の方向を振り向いた。すると右手にはギル

 左手にはアルトとミナの姿があった。

 全員気絶しているらしい。


 「じゃあ、続きと行こうか?石ころ」


 そう言った少年はギルの鞘から細い大剣を取り出した。ギルのはここにあるのでおそらく自前だろう。


 不敵な笑みを浮かべこちらへと近づいてくる。大剣を引きずりながら…

 ゴーレムも心なしか震えてるようだった。


 「おい、お前、俺が優しくて助かったな」


 彼の目には優しさはなかった。ただ、今を全力で楽しむ子どものような無邪気な、でも、

 残忍な目をしていた。

 いつの間にかゴーレムの魔法は解けて自由となっていた。


 すぐにでも逃げようと思った。しかし体はそれを許さない。シャナは少し離れたところで止まっていた。


 「ゴォォォ!」という雄叫びを再度上げ、ギルに叩き込んだよりも強力な一撃が放たれる。しかしそれを剣を使い体を回転させながら回避し、同時に懐へと飛び込んだ。そして左膝に剣をそのままの勢いで刺し込んだ。

 ゴーレムに痛覚は無い。故にビクともしない。だが異変はすぐに起こった。

 刺し込んだ剣をテコの原理を使い膝下を胴体から引き離したのだ。


 当然バランスを崩すゴーレム。前のめりになる体。引き抜いた剣を瞬時に地面についている右手の肘に刺しこむ。笑みをこぼしながら…


 それからも同じように解体されていくゴーレム。最初の一撃以外まともに叩きこめない。

 関節からどんどんバラバラにされていく。

 ただの剣だ。特別な剣でも切れ味の高い剣でも無い。一般的な兵士が王国から無償で支給されるような剣だ。なのに、屈強だったゴーレムはなす術もなく解体される。


 ーーー気づけば戦いはおわっていた。

 目の前には先ほどまでゴーレムだった石が無造作に転がっている。


 「おい、立てるか?」


 「…へ?」


 見惚れていた。まるで悪魔のような美しい舞だった。誰が見ても見事と手を打つような…

 差し伸べられた手には血が付いており、剣にも同じように血が付いていた。


 「俺の名前は レン」


 キョトンとしている私に向かい、唐突な自己紹介。でも今はそんな言葉は耳に入らない。

 なぜなら彼の表情が、顔が笑っているとしても、目には恨みの炎が映っていたからだ…









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