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第0話〜最悪な始まり【後編】

 ドスッ!ドスッ!


 深い深い森の奥。そこから聞こえてくる不審な音。まるで何かが跳ねながらこちらへと向かってくるようなそんな音が聞こえる。

 だが、まだ彼ら彼女らの耳には届いてはいない。これから訪れる厄災の足音を。


 「えっとどこに住んでいたんですか?」

 「えっ、えっとそれは秘密かな…」

 「なんだ?言えない事情でもあるのか?」


 俺たちはあの自己紹介からだいぶ打ち解けていた。もともとしゃべるのは苦手な方ではないし、何だかこうやって話していると落ち着く。今まで悪い夢だったように思えてくる。


 「そうじゃないけど…」

 「まあいいさ、これからどんどん知っていけば」

 「そうだな」


 こんなほっこりとした空気は長い間感じてなかったように錯覚してしまう。

 とても濃い時間を過ごしてきた。1日がこんなにも長いと思ったのは初めてだった。


 そう思った瞬間だった。


 「「キャー!」」


 複数の女性の声が、悲鳴が聞こえてきた。

 それもただの悲鳴じゃない。喉が裂けるような高い悲鳴。耳がキーンとするような甲高い悲鳴がこの平地に響いた。

 そんな事は予想もしていなかった俺たち3人は驚きを隠せなくて目を丸くした。


 しばらく状況が飲み込めなく硬直状態にある俺たち。いや、何も悲鳴の理由がわからなかったわけじゃない。


 俺たちは悲鳴を聞いた瞬間にそっちの方を素早く向いた。そしてその光景を見た。いや、見てしまったのだ。


 ーー上半身を噛みちぎられた人間とその後ろでその上半身を貪る怪物を…


 悲鳴を上げた人間も本能的に発しただけなので、自分の次の行動が考えつかないようだ。

 かくゆう俺もその場で立ち尽くしていくのみだった。


 白い毛むくじゃらの丸い球体のような生物。

 巨大なケサランパサランのよう、パックマンの白くて毛が生えたバージョン。

 見た目はこんな感じだろう。

 しかし、こんなイメージには程遠い口、球体の半分くらいまで裂けている。鋭く尖った牙が生えた口の中で喰われた上半身がコネコネとされながらズタズタにされていた。


 「ーーーッ!」

 「逃げろー!!」


 そんな龍弥の声に物凄い反応を見せる29人、

 一斉に悲鳴や懺悔の言葉が飛び交い、バタバタと逃げ回り、全員が森に逃げようとする。 

 まさに混沌、今この場は恐怖に染まった。

 人の恐怖は人に伝わり、パニックは連鎖となり状況を「正確に判断する」という過程を吹き飛ばした。


 よって全員が気づく事が出来なかった。

 ーーーもう既に逃げ場はない事に…


 「え?」


 ガフッ!


 森へ逃げようとしていた1人の女の子の腕はもう一匹のモンスターにバックリと食べられていた。


 「あ…ああ…あ…ああああああ!」


 顔をグシャグシャにして、涙をボロボロと流しながら自分のなくなった腕を見つめている。

 そんな彼女を俺らは3人固まったまま見つめていた。そして逃げ惑う人も全員…

一瞬の静止だった。その瞬間に3人目4人目と次々にバックリ、バックリと半身が飲み込まれてしまった。


骨が剥き出しになり、血しぶきが空中で花火のように飛び散り、緑色の芝に紅い花を咲かせた。


 もう既に囲まれた後だったのだ。最初の1人が喰われた時点で俺たちのゲームオーバーは決まっていたのだ。

 必然的に中央に集まり、ドンドン後退してくるのに対し、その化け物はそれに応じて前進してくる。


 20匹はいるかもしれない。


 ガフッ!


 飽きてしまったのか1匹がスピードを上げ1人に喰らいついた。脚だけを残して全てを飲み込んだ。

 それを合図とするかのように一斉に襲いかかってくる。


 「クッ!武器を取れー!」


 そんな龍弥の掛け声も虚しく、一人一人が逃げることだけを考えている。

 そんな俺たちの前にもとうとう順番が回ってきた。

 こんな時何もできない、何も考えられない自分に嫌気がさす。しかしこればかりは仕方がない。


 そんな時だった。


 「た、助けて…」


 穂花だった。彼女はもうガクブル状態とても動ける状態になかった。それにさっきの言葉も相当振り絞って出した声よようだった。


 「わ、わかった」


 背中に穂花を抱え、武器の山のあるところまで後退させられた。


 「もう逃げ場はない!」


 そう言い、自分を奮いたたせ、自分の足元にあった細身の大剣を手に取った。


 確かにここから助かるのは不可能に近い。

 しかし、穂花には恩義がある!人の優しさに触れさせてもらいもう一度信じる事が出来たのは彼女のお陰だ。

 だからこそ!


 「1秒でも長く長く生きさせてみせる!」

 「じゃあ私のために死んでくれる?」


 とても冷たい言葉だった。さっきまでの声とは全然違う。怖く冷たく寂しい。


 「え?」


 あまりの変貌ぶりに驚き後ろを向こうとする

 ーーーしかしまた俺はあの感覚を味わう。


 あの時と同じ感覚。突き飛ばされダンプカーに撥ねられた時と同じ感覚。

 冷たく心が痛くなる感覚に襲われた。

 背中をトンッ!と押され、体重が前のめりになる。目の前には口を開けたモンスターが待ち構えている。


 もう、ここで俺の人生は終わるんだな…再び裏切られまた殺される。


 悲しい人生だと思い、己が喰われる様をゆっくりとなる風景の中驚く程冷静に見ていた。


 ーーーだが、俺の生への執着が凄かったのか

 それはよくは分からない。だが次の光景は体が勝手に動いた。


 前のめりになる体、待ち構える巨大ケサランパサラン。左手に持っていた剣…

 とっさに右足を前に出し、それを軸に時計回りに回転。片手に持った剣は両手に持ち直し、その勢いで モンスターを斬りつける。

 すごい切れ味だった。奴は真っ二つに割れ、

 間も無く絶命した。


 「ははは…ははははは…」


 急にこみ上げてくる乾いた笑い。


 「なんだ、俺には殺しの才能もあったのか」


 こんなにも、気持ちのいいものなのだと思った。真っ二つに割れたモンスター、それを切り裂いた剣、 殺った時の感触…全て夢のようだった。


 どうせ、2度も裏切られたこの命…誰にも必要とされず捨て駒にされる人生。 

  急にバカらしくなってきた。この殺戮の光景がじゃない。俺が生きていることに対してだ。


 同胞を殺された仇とでも言っているように襲いかかってくるモンスター。

 それを横に逸れてかわし、相手が背を向けたところで刺しこむ。ただ、これだけでは絶命しない。最後の力を振り絞り抵抗してくる。だが、俺は容赦なく上に向かってその剣を振り抜く。当然のように絶命。


 「2匹目〜ははははは…」


 それからも切り続けた。刺して、割って、斬り裂いて、俺は紅い返り血にまみれながら戦った。


 「3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18…はっはっはっ!」


 ここに来て初めて金井 蓮は死んだのだときづいた。気づいた時にはもうモンスターの姿は無かった。


 「はあ、はあ、おい!何人生きてる!答えてくれ!」


 龍弥の声が聞こえた。それつられるようにみんながみんな生存の声を上げている。


 ーーー全部で7人生き残った。男3人女4人だ

 その中には穂花の姿もあった…


 「蓮!無事だったか!」

 「………」


 俺は何も応えない。なんせほとんど俺が片付けたのだから今お前らが生きていけてるのは俺のお陰だからだ。


 「大丈夫ですか?」


 穂花が何事も無かったかのように喋りかけてくる。しかし、俺はこいつにお礼をしなくてはならない。俺からの感謝の意だ。


 「ありがとう先生。俺は穂花のおかげで変われたよ」

 「え?何のこっ…キャッ!」


 俺は彼女の足を右から左へとすくい転かした。


 「じゃあな」

 「おい!今は一丸とならないといけないだろ!」

 「足手まといにしかならない」


俺は冷たく言い残し、その場をさった。


 人は簡単には信じてはいけない。信頼を寄せても確実に裏切られてしまう。俺の甘い部分は完全に死んでしまった。


 そう思いながら金井 蓮は森の闇へと消えていった。

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