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第0話〜最悪な始まり【前編】

 目の前には小さな平地と深い森が広がっている。朝だろうか?鳥のさえずり、立ち込めた薄い霧、湿った空気にかすかに濡れている地面。


 俺はそこに立っていた。

 神秘的…かつてこの言葉が心の底から浮かんだことはないだろう。

 ふと空を見上げて見ると現代の空ではあり得ないくらいとても、とても青かった。


 「あ、あの〜」

 「え?」


 真上を向いたま動かない俺に話しかけてきた人がいた。

 女の子だ。茶色い髪に黒い瞳、前の世界だったらさぞ「美人だ」ともてはやされたであろう容姿。そんな女の子が俺の肩に手を置こうとしたのが、急に振り向いたことに驚き、少し手を引っ込めた状態になっていた。


 「何で?泣いてるんですか?」

 「マジ?」


 右手の指で右目の下辺りをさすってみると確かに水滴が付いていた。

 不思議とここが死後の世界や夢の世界だとは思わない。現実だということが何となく分かる。

 前の死に方があまりにも印象に残りすぎて、

 この光景を見て涙が出たのだ。この涙は本物だと言い切れる。


 「いや、何でもない」

 「そう、ですか…」


 そういえばいつからこの子はいたんだろう?


 そう思い、辺りを見回してみた。

 すると、自分以外にもたくさんの人たちがいるのに気がついた。

 こんなところにざっと30人はいる。背の高いもの、逆に小さいもの。太っているものに痩せているもの。

霧がかかっていてシルエットしか見えない今は男が女かは分からない。


 そう思った瞬間にだんだん霧が晴れて行った。

 あたりの霧が晴れ、周りの光景がうんと見えやすくなった。そこには男女半々くらいで30人はいる。さっきのシルエットでの予想どうりだ。


 そんな人以外にも見えるものがあった。

 目の前に積まれた武器の山だ。一体何に使うのかはわからない。大剣、短剣、レイピア、

 弓に矢、杖、メイス、モーニングスター、これ以外にも変わった武器が何種類か置いてあった。


 それとなく気になり、ゆっくりとその山に近づき、「どうせ本物ではないんだろう」と思いながら1本細身の長い剣、諸刃の剣のような剣を手に取った。


 何キロあるかは分からない。だが刃の部分を触ってみた時起こった。


 プシュ!


 「痛ッ!」


 俺はその物凄い切れ味で指をパックリ切ってしまった。これは間違いなく本物だ…


 これだけじゃない、全てが本物…ここにある全てが高い殺傷能力を持った武器、そう思った時、俺の腰は抜け、その場にへたり込んだ。


 「だ、大丈夫ですか?」


 話しかけてきたのはさっきの女の子。その瞳に映っていたのは怪我をした人差し指だった。


 「なにしてるんです!?」


 彼女は大声で叫んだ。決して恐怖の叫びじゃない。ただ心配する人の声だ。


 その声を聞きつけて周りを呆然と徘徊していた残りの人が集まってきた。その目にはやはりこの剣の山が映っていた。


 「おい!何してるんだ?」


 そう話しかけてきたのは筋肉質の青年だった。黒い革のコートを着て、黒の髪は上へ跳ねていた。


 「いや、剣の山が気になっちゃって」

 「違う女の方だ」


 目標はまさかの俺でなく彼女。黒髪に夢中で気づいてなかったが彼女は俺の右手を取り、自前であろうハンカチで応急手当をしてくれていた。


 「大丈夫ですか?」


 俺はこの言葉にウルっと来てしまった。さっきも言ったように、死に方が殺人だったので

 心では信じようとしていても、頭ではやはり疑心暗鬼になってしまっていたのだ。

 しかし、彼女のような優しさに触れて俺の思っている事は何て愚かなことだったのだろうと思ってしまったのだ。


 「あ、ありがとう…あっ、これは手当してもらっただけで…」

 「そうか、ならいいんだ」


 しれは彼の目を見てしゃべる事が出来なかった。上を向いているからだが下を向けない理由がある。

 なぜなら下を向いたら涙がこぼれてしまうからだ。ここに来て2回も涙は見せたくはない。


 俺の指にハンカチを結び終えた彼女は少し黙って、何かを言いたそうにはしているがその一言が出てこないような素振りをした。


 「お前はどんな死に方をしたんだ?」


 急にわって入ってきたのは黒髪のガチムチ、

 言いにくそうにしていた彼女に代わってその質問をしたようだ。彼女は目を背け唇を噛み締めていた。


 「お、俺は…ダ、ダンプカーに撥ねられちゃって…」


 本当のことは言えなかった。俺にとってこの事実は抹消したい記憶であるが、決して忘れることのできない最悪の記憶だ。

 また口にしてしまうことによって記憶が再確認されることを恐れたのだ。


 「そうか…」


 彼はとても悲しそうにその一言を放った。

 考えてみれば俺はここのことを何も知らない。なのにあいつは勝手に納得したように振舞っていた。俺より情報があるのは確かだ。


 「知ってることを全部教えてくれ!」


 とっさに出てきた言葉がこれだ。この機会を逃しちゃいけない。絶対に行かせてはならないと…


 彼は背中を向けていたが、ため息をついてこちらに向き直った。俺の横にいる彼女は今にも泣き出しそうになっていた。


 「別にいいが、それとお前は歳いくつだ?」

 「17だけど」


 彼はやはりと言った顔で、口元に手を当てた。


 そして彼はゆっくりと自分の知っている全てを話してくれた。


 ・ここにいる人間はすでに全員死んでいる事

 ・1番最初に来たのは自分である事。

 ・それも1時間ほど前だという事。

 ・この剣の山は俺の召喚と同時に現れたという事。

 ・ここにいるのは全員が17である事。


 「これで全部だ」


 「ありがとう」


 全くと言っていいほど情報がない。こんな事は非現実的な事であり、全員死んでいる。

 それに全員17歳…俺は頭を抱えていた。

 ここに送り込んだやつの意図が分からないのだ。統一性はあるがどんな目的なのかがつかめない。


 左手を当てて、その手を右手で握る。これが俺の考えるときの癖である。

 そんなところを見たのか1人の男がこっちに歩いてきた。異常なほどテイションが高く何だが生き生きしているようだった。


 「何考えてんだよ!もっと楽に行こうぜ!」

 「え?なんで?」

 「だってよ!これってアレじゃね!異世界召喚ってやつ!」


 異世界召喚?俺はこの言葉をどこかで聞いた事があった。確か魔王か何かを倒すために元の世界から送られた勇者だったりじゃなかったり…詳しい事は知らない。


 「やった!初めて死んでコレってマジでヤバくね!」


 そんな男はピョンピョン跳ねながら森の方へ走っていき


 「おー!俺のチート能力!覚醒せよ!」


 右手を上にあげ腰を軽く落とし、そんな右手の手首を左手で掴んでいる。相当力んでいるようにみえた。


 「あんな馬鹿は放って置こう。それと自己紹介がまだだったな。俺は飯田 龍弥(いいだ りゅうや)って言うんだよろしく」


 ガチムチは案外といいやつだった。人は見かけに寄らないというのは本当だろう。


 「わ、私は石田 穂花(いしだ ほのか)っていいます」

 「俺は金井 蓮よろしく」


 そんな平穏は束の間の出来事だった。俺たちの軽い自己紹介が終わった後、悲鳴がこの平野に響いた。

 この悲鳴はこれから起こる惨劇とこれからの俺の人生を決めてしまう事となる。


 しかし、今の俺は何も知らない。




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