最悪な人生の終え方…
この俺金井 蓮は恵まれていた。
いきなり何の話をしてるんだと言われるかもしれないが聞いてほしい。
俺は自分で言うのもなんだが勉強、運動、芸術、全ての才能を持って生まれた。それに俺には生まれながらにして地位まで獲得していた。金井カンパニーの社長の息子。3人兄弟の長男。将来その会社を継ぐであろう。
しかも俺は家族にも友人にも恵まれていた。よく漫画やアニメであるような「常に一番を取れ」なんて言う事もなければ、周りの友人達にその才を妬まれいじめに遭う事もなかった。容姿も人に褒められる程度には良い。
誰が見ても人生イージーモード。何もしなくてもたいがいの事は出来るし、将来も約束されている。
しかし俺はそのすべてに甘え、溺れる事なく
日々人の何倍も努力をしている。周りからも認められている。
ここまでが俺が今まで思っていた自己評価だ。
しかし、本当の周りの評価はどうだろう。
確かに彼は様々な才能を持って生まれてきた。容姿も悪くないし、天性の努力家なのは確かに周りも認めている。
だが、「認めている」と「妬んでない」はまったく別なのだ。
両親はないも言わない?それは言わなくても勝手に1番を取るから何も言わないのだ。
友人は妬んでない?そんなわけはない。
生まれながらにこんなにも恵まれている人間は他にはいない。ただの天才なら簡単に蹴落としにかかっているだろう。
しかし、彼はそれを持っていたとしても人より努力をする。ゆえに誰も追いつけないのだ。だから友人のそれは「認める」ではなく、
「諦める」という感情に近い。
そんな事を今更ながら悟らされた。
家へと帰る途中に車通りの多い交差点があり、横断歩道がある。
そこの1番前に俺は位置していた。
いつものように、足を揃え車が通り過ぎるのを見て、信号が赤から青に変わるのを待っている途中。大きなダンプカーがやってきた。
いつものように通り過ぎるのを待っていると。
トン
誰かに背中を不意に押された。
俺の体重は完全に前に傾き、咄嗟に左足を出した。やばいと思い、引き返す動作に移した時にはそれはもう目の前まで迫ってきていた。
「ーーーッ!」
声にならない声を発し、感覚がスローモーションになった。スピードの出ていたダンプカーが、驚く人たちの顔が、前のめりになっている俺の体が…
そしてそんなスローモーションの中、驚く人たちの中に見てしまった。
同じ学校の制服をきたやつが笑っているのが、手を前に出し不敵に笑っている口元が。
どんな顔をしているかハッキリ見てやろうとした瞬間全身にかつて受けた事のない衝撃と痛みを感じた。
所詮スローなのは俺の感覚だけ、実際には1秒2秒の出来事なのだ。
俺はそのまま宙を舞った。
そして頭から地面に叩きつけられた。
頭が痛い。異常なほどに。耳も聞こえない片目が機能していない。体の感覚がなく指一本たりとも動かす事も出来ない。そんな恐怖を味わっていた。
いくら才能を持とうとも、いくら努力をしようとも、どんなに恵まれた人生を歩もうとしても『死』は非情に平等に与えられる。
俺は神を恨んだ。同じ学校のやつを恨んだ。
己の運命を呪った。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。
そんな事を地面に大きく広がった血の池を見ながら思った。
しかし少ししてから思ったことがある。
今は溢れるように血が出てきている頭の傷の痛みや、まったく自由に動かない体に絶望を感じるより、 これから死ぬのかという恐怖より、何より心が痛かった。
気づけば俺は涙を流していた。
17という若さで死ぬことで泣いてるんじゃない。かと言って殺されることに対しての悔し涙でもない。
ただただ悲しかったのだ。
もう少し直接言って欲しかった!至らない点があるなら「直してほしい」と言ってもらいたかった!才に嫉妬してるならもう少しだけ態度に出して欲しかった…
なのに、こんな陰湿なやり方…あんまりだ…
誰なのかも、なんでこんな目に遭わされているのかも、せめて全て最後に知っておきたかった…
気づけば涙は血と混じり、ドロッとしたものが少しだけ緩やかになっていた。
そして最後の力を振り絞り、俺のこの世で最後のセリフを吐いた。神にも、慕っていてくれたと信じていた友人、両親、弟たち、見知らぬ他人にも向けて…
「い、いい人生だった…」
俺は何かを我慢するように、歯を食いしばりながらそう言った。
たかが17の若僧が何を言っているんだ?と思われるかも知れない。こんなことを言っても悔しさは微塵も紛れない。だからといって恨みの言葉は発しない。そんな事を発してしまえば心本当に壊れてしまいそうだ。すでにズタボロの心が…
俺はそんな事を最後に思いながら意識は無情にも遠く遠く、ずっと遠くに遠ざかってしまった。
その時、一筋の光が真っ暗だった空間に射した。そしてさっきまで俺は無様にも地面に転がっていたはずなのに今は体も自由に動く。聞こえなかった耳、見えなかった目が復活していることに気づいた。
「なぜだろう?」
多くの闇と一筋の光しか射し込んでいない、静かで悲しくて、何もない空間。
まるでここは俺の心の中なのかと錯覚してしまうような光景だ。
確かに死んだ。ここが天国なのか地獄なのかはたまたその中間。今から閻魔様のようなものが出てきてどちらに行くべきか審判するところなのか。
俺は勝手な想像を巡らせ、フッと鼻で笑った。
しかし、本当に何もないところだ。
歩いているうちに どんどんさっきの光から遠ざかって行く。本当ならじっとしていた方がいいのかも知れないが、今の俺は使命を受けたような気持ちになっている。あるところへ、ある場所へ…と
明確なことは何1つわからない。でも本能が
こっちへ、こっちへと誘ってくる。
どこへ進んでも闇と闇…何もない。
「はは、来世は何になろうかな…人間はもう懲り懲りだ。選ばせてくれるかは分からないけど…」
そんな馬鹿な独り言を呟いたその時、目の前に大きな扉が現れた。
扉は石のような素材が使われており、灰色だ。なぜ灰色かと分かるかはその扉が発光しているためだ。その扉には模様が彫られていて、美しい女性が鳥と会話しているような絵だと思った。
すると不意に「ギー」という音とともに重たそうに扉が開いた。中からは優しい光がどんどん射し込んでくる。吸い込まれるような、
誘われるような感覚に陥り。
俺はここをくぐらなければならない。
そう思った時には体が勝手に動き出していた。一歩ずつ確実に扉へ光へと近づいていく。
そして俺の右足が光に重なった時。
ブワッ!
物凄い風が扉から吹いてきた。それと同時に光が俺を優しく包み込みあたりが闇から光へと変わった。
「うわっ!」
しかし、光の空間は一瞬だった。
次の瞬きの瞬間にはその空間は消えていて代わりに目の前には小さな平地とその奥には深そうな森が広がっていた。




