第27話〜マリーフィア家の夜(前編)
美しいシャンデリアの光がこの空間に優しく降り注ぐ。
やはり、辺りには美しいドレスやタキシードに身を包んだ、いかにも上流階級と言わんばかりのオーラを放っている人々がいる。
1つ1つの動作が洗練されており、全ての動作が美しい…動作がね…
中にはとても美しい人もいる。しかし、やはり周りに多いのが太った中年くらいの男性、女性…
俺が辺りを見渡していると、俺の袖をグイグイと引いてくる。
「誰だ?」
「レ、レンさん…私こんなところにいていいんでしょうか…」
「ああ、いいけど…上をずっと向いているのは止めろ、田舎者だと思われるぞ」
彼女はこの会場に入ってから、真上のシャンデリアを見つめっぱなしだ。
やはり元は貧乏少女。こんな貴族のパーティーなんかとは縁が無かったのだろう。
そんなルナを見ていると、今度は俺の後方から大きな声が聞こえてくる。
「レン!見てこれ!なんだか可愛いけど…小さいね!」
「はぁ〜…」
周囲の視線が俺に集まる。
俺は頭を抱え、深くため息をつく。
ルナの言う通り、本当に俺たちが来て良かったのか不安になってくる。明らかに場違いだ。服装は貴族御用達の店で一級品を揃えてきた。服装に関しては問題無いはずだ。
しかし、高価な服でいくら着飾ろうとも中身なんてそうそう変わらない。黙っていれば2人とも周りに負けることの無い容姿なので、場に馴染むことは容易いだろう。
「レン〜!」
「レンさん…」
「はぁ〜…頼むから静かにしてくれ…」
俺は再度大きなため息をつく。
すると俺は横から突然声をかけられる。
「オッホン。パーティーは楽しんでおられますかな?」
ゆっくりと声のする方へ向く。するとそこには見事にタキシードを着こなした老紳士。
その後ろに控えているのは美しい3人の女性。その3人の顔はどこか似ているので姉妹だと思われる。
「あ、申し遅れました。私この屋敷の主。【ジュード・マリーフィア】にございます。そしてこの子達は私たちの娘】
そう言って、ミスターマリーフィアはその娘と呼ばれる方へ目をやる。
「ご紹介に預かりました。長女【カルラ・マリーフィア】でございます」
「次女【ストラ・マリーフィア】でございます」
「三女【マネア・マリーフィア】でございます」
丁寧にスカートの裾をあげ、お辞儀をしながらこちらに笑いかける。
「では、また後ほど…」
ミスターマリーフィアはこちらを向きながら少しだけ腰を曲げる。
「後ほど?まぁ、いいか」
俺たちはまた3人それぞれ別の場所に行く。
---あれから何時間経っただろう?
ここに来たのは夕暮れだった。しかし、今は日も沈み、夜が訪れた。
依然このパーティーは衰えを見せない。むしろ活気が出てきたと言うべきだろう。
「やばい…暇だ…」
親の立場上この様なところに来るのは初めてじゃない。どちらかというと人より多いくらいだ。
だが、やはりこの様な空間はいつでも疲れる。なぜならあらゆるところに気を使わなければならないからだ。
「レンさ〜ん…いつまであるんですか?」
先ほどと同じ様に俺の袖を引くルナ。
その銀髪の少女は眠たい目を擦りながらある方向を指差す。
「…はぁ〜」
その方向を見てみるとすっかり泥酔したミーナの姿があった。彼女は白いテーブルクロスに顔を埋め、顔を真っ赤にして寝ていた。
「どうします?」
「仕方ない…連れて帰るか」
俺はミーナの方に手をかけ、思いっきり揺らしてみる。
「エヘヘ…や〜め〜て〜よ〜」
「ダメだな…」
アイリスの時もここまで泥酔することは無かった。よほどここの酒がうまかったに違い無い。
するとまたしても後方から声が聞こえてきた。
「オッホン。疲れましたかな?」
「すみません…こいつすぐに帰らせますんで」
「いやいや、これは仕方の無いことです。やはり慣れていない場もいうのは疲れるもの。どうですかな?今夜はここに泊まっていけばいい」
「え、でも悪いですよ…」
貴族の家に泊めてもらうなんて息が詰まりそうだ。ここでも結構神経すり減らせてるのに
泊まるなんて絶対ヤダ!
「遠慮せんでも」
「いや…」
俺の話を聞かずに手を2回叩く。するとどこから来たのかメイドが4人現れた。
「この者たちに客室を」
「「「「かしこまりました」」」」
そう言うとメイドは俺とルナとミーナを一人一人が抱え運んでいく。
「じゃあ、お言葉に甘えましょう。レンさん」
「それが良いわぁ」
「まぁ、良いか…でも、下ろせ」
「お客様…ここが寝室になります」
「ありがとう…でも、降ろして?」
「かしこまりました」
ドンと扉の前に降ろされる。あの2人が一緒で無いのは他の部屋に行ったからだろう。
俺はベッドに腰掛け、ふと思ったことがあった。
(あれ?この部屋をそれぞれ3人分ってすごくない?)
そこはまるでホテルのスイートルームの様だった。こんな物をタダで貸しだそうだなんてやはり王国一の財力を誇るマリーフィア家。
なんだかとても甘い匂いがする。
俺はベッドに思いっきり突っ込む。やはりあの空間は俺にもだいぶ疲れるところだった。
「今日は長い1日だったな」
パーティーなんてどうでも良かったが、まぁ、来てみて良かったと思う。
やはりこの先のことを考えれば少しでも貴族と関わっていれば有利なこともある。何も財力だけじゃない。権力や人望などもあるだろうという判断だ。
「寝よう…」
明日も特にすることはないが、俺たちが常日頃から不規則な生活をしているとは思われたくない。やはり好印象を植えつけられるのは早起きな方だ。
俺はゆっくりと瞼を閉じる。すると心臓の鼓動が聞こえてきた。別にこれ自体は問題じゃない。問題なのは俺の胸が高鳴っている状態であることだ。
冷たい汗が額に滲む。血流が早くなり、息が荒くなる。
(毒かもしれない…)
一瞬そう思った。
だが、これは違う。言いづらいが…これは性欲が高まっていると言うべきだろう。
「まずいまずい…なんでいきなり…まさか…」
俺は辺りを見渡した。しかし、特に変わったものはない。だが、絶対にあるはずなのだ。お香の様な物が…
そんな状態の俺は胸を締め付け、この甘い匂いの正体を探す。
ガチャリ
ドアの取っ手をひねる様な音がする。
「ハンター様…」
そこから顔をのぞかせる声の主…それは茶色の長髪の女性だった。




