第26話〜すりの少女【シュミカ・ヴォルケーノ】
突然だが、俺はギルドに来ている。
この3日でやっとの事で見つけたギルドだ。ちなみにハンターフェスの参加申し込みはすでにセトレアが済ませているようで、ギルドは見つけただけ無駄だった。
しかし、やはりギルド。とても騒がしい。こんな昼間だというのにエールを片手に大笑いしている大人が沢山いる。
「働けよ…」
そういう俺もギルドの中央で1人エールを楽しんでいる。なんらこの人たちと変わっている事などない。
「…俺ってこの世界に来てまともに働いてないよな?」
俺がこの世界に来て最初に手に入れた金は、ほぼ強奪に近かった。その次も初クエストで失敗し、お情けの給料。今持っているのだってグリムの報酬だ。
それ相応の仕事をしたといえばしたと思うが…やはり、ギルドで正規に受けたクエストをクリアしたいものだ。
そう思いながら俺は2杯目のエールに手をつける。
すると肩をトントンと指先で叩かれた。
「ん?」
「あのぉ…ハンターさん…」
俺は後ろを振り返る。
するとそこには両手を後ろに回し、悪意に満ちた笑顔を浮かべる深紅の髪の少女が立っていた。
そこで少女は一呼吸間をおき、口を開く。
「それ、わしのじゃ」
その少女は己の可愛らしい姿には似合わないような口調で俺の横に置いてある剣を指差した。
「わしって…呼び方変えた方が…っととと」
いきなり殴りかかる少女。俺はその拳を首を軽く横に曲げかわす。
「お主!それをどこで手に入れたのじゃ!」
空を切った拳をさらに握りしめ、笑顔を消し、怒りの表情に変わる少女。なんだか微妙にその髪は逆立ってきているように見える。
「あ、お前俺の財布取っていったやつだろ?」
「……って!まさか!……あんなに最初の方にじゃと…」
俺の言葉を聞き、一瞬固まる少女。それから顎に手を乗せ何かボソボソ言っている。
「で、何の用だ?」
「…わしの刀返すのじゃ!」
俺の答えに少しの間真顔になりながらも再び怒りの表情に戻し、俺に強く言ってくる。
「だって俺の財布取ったじゃん…忘れた?」
「な、なんの事…かの〜…」
激しく目を泳がし、いたるところに汗を掻く。極め付けには唇を突き出し、そっぽを向く。
「……返したら俺も返そう」
「ほ、本当じゃな!」
「認めたな」
「ぐっ…引っかかったわい」
体重を後ろに傾ける少女。俺の作戦にまんまとはまって自分の罪を認める。
「わ、悪かった!」
それから少女は何も聞いていないのに自分から語りだす。
「わ、わしはの…自分の財布を落としてしまっての…クエスト行くのも面倒だし…どうせなら取ってしまおうと…」
うつむいて喋っていたが、急にこちらを向き、笑顔で指を一本立てる。
「じゃあ、返してやることはないな」
「え!」
本当のことを言うと何を言おうとも返そうとは思っていなかった。
別にスリが悪いとは言わない。こんな世界だ。前の世界のように何が悪くて何が大丈夫かをうるさくは言わないからな。
しかし、その代わりに全てが自己責任だ。やはり自分の行動に相応の責任を持たなくてはならない。
「そ、そこをなんとかお願いできんじゃろうか…それは大切なものなんじゃ!」
両手を勢いよく合わせ、机に這いつくばる少女。しかし、俺は全く引かない。
「俺だってそれは大切だ」
もし、万が一、ひったくりがバイクで自分のバックを取っていったとしよう。その時自分はとっさにひったくりのヘルメットを奪ったとしよう。
さて、問題。この時自分のバックには大したものは入っていません。しかし、ひったくりのヘルメットは大事なもののようで今の場面のように交渉してきます。
あなたはどうしますか?
「なじゃ!こんな金貨3枚しか入ってないくせに!」
俺の場合…
「だからなんだ?俺は意地でも返さない」
「ぐぬぬ…」
いや、それはそうだろう。なんでスリの交渉に応じなくてはならないんだ?
「仕方ないの…こうなったら実力行使じゃ」
そういう彼女は腕を思いっきり前に出す。
「スペルファイア…」
瞬間このギルドに沈黙が訪れた。空気がパチパチと振動している。肌が痛くなるほどに。
少女の手には見慣れた球体が出現している。
いつもと違うのは色が赤いこと。それと…
「これが密度の違い…」
魔法初心者、初見魔法であっても分かる。これが高密度の球体であることが。
「これを食らいたくなければ早く渡すのじゃ」
「じゃあ、財布を返せ」
「わからんやつじゃ!もうとうの昔に使ってしまったわい!」
「……まぁ、いいか」
彼女はため息をつき、毒気を抜かれたように赤い球体を解除する。
「はぁ…お主は強者の気を漂わせてきておるのに…自信がないの…」
「自信?そんなの関係ない。面倒なことはなるべくしたくないだけだ」
「ほう?その言葉に嘘はないようじゃ。目が語っておる。だいぶ濁っておるがな」
「濁っているということは知らないが、間違いなくお前の魔力に気圧されたわけではない」
2人は笑みを浮かべながら互いの考えを読み取ろうとする。どちらも裏があると思っているのだ。
しかし、そこで俺はあることを思い出した。
「2人探さないと…」
「なんじゃ?」
「もう、焦らすの飽きたし返してやる。俺にはこれは要らないからな」
キョトンとする少女に剣を渡す。
「そういえば名前は?」
「…え?【シュミカ・ヴォルケーノ】じゃが…」
「まぁ、2度と会うこともないだろう」
俺は結局財布は返してもらわずに、ギルドを後にする。
まぁ、懐に余裕があっての行動だが…
---俺はギルドを出た…が…
「手がかりが何もない…」
そもそもあいつらの行動に関して興味がなかった俺は今現在あいつらの場所の手がかりすらない。
まぁ、知ってても地図もないし分からないんだけど…
「一体どこにいるんだ?今夜あるってのに…
服とかも用意しないといけないのに」
そう、これはおそらく…いや、絶対貴族のパーティー。きちんとした正装で行かなければならない。
「ドレスとタキシード…いくらかかるか…」
下手に安物を買うわけにはいかない。恥を掻くのだけはごめんだからな。
ふと、周りを見てみると人気の少ない道に来ていた。ここは主に武器職人、防具職人、その他装飾や革の袋を作る職人たちが店を連ねているところである。
(こんなところにいるわけないか…)
そう思い、来た道を引き返そうとする。
すると…
「ミーナさん!これなんか良いんじゃないんですか?」
「そーね!サイズもぴったりだし!」
「サイズなんかいつ調べたんですか?」
「へへへ。寝てる時にちょちょっとね」
なんだか危なげな会話が聞こえてくる。これで防具の店なんかに入っていたらぶっ飛ばしてやろうと思ったが、どうやら武器の店らしい。
「おい、何やってるんだ?」
「え!レンなんでここ分かったの!?」
「良いじゃないですかミーナさん。ちょうど買いましたし」
「はいよ!にいちゃん良いねぇ!こんな可愛い子たちから贈り物だなんて」
そう言ってそこの店主はミーナに包み紙を渡す。
「はい!レン!」
「どうぞ!レンさん!」
「ん?」
2人は店主から貰った包み紙をそのまま俺に渡す。
「これは…柄か?」
「はい!レンさん!確か新しい刀を…ってあの刀どうしたんですか?」
「ああ…持ち主に返した」
「「え!!」」
俺の答えに2人同時に驚きの声を上げる。あまりにも大きな声だったので俺も店主も思わず耳をふさぐ。
「ど、どうしたんだ」
「だって!結構したのよ!これ!」
「そ、そうですよ!大金貨6枚もしたんですから!」
「…600000って…それはいくらなんでも使いすぎだろ!」
額に手を当て呆れる俺。肩を落としてガッカリする2人…それを可哀想な目で見る店主。
「あ、あのな3人ともあと大金貨3枚で修正するけど…」
2人の視線が俺にいっぺんに集まる。
「分かりました…」
「まいど!」
痛い出費をしてしまった…
俺は金を店主にわたし、その場をあとにする。
「あ、そういえばマリーフィア家のパーティーに招待されてるんだった」
そんな俺の発言を聞き、目を丸くする2人。
口を大きく開け、先ほどのように俺へ視線を送る。
「なんで早く言わないの?」
「マ、マリーフィア…ですか…そんなところに行けるなんて…」
「そんなに珍しいのか?」
2人同時に「なんでそんなことも知らないの?」って顔でこちらを見てくる。
「あのね、マリーフィア家っていうのはね、信頼の置けるものしか誘わないのよ?」
「じゃあ、この招待状は偽物?」
「いや、多分本物…ちゃんと印もあるし、招待状なんか聞いたことないから、多分異例ってことじゃないの?」
3人ともここに来て大きく悩む。これが果たして本物なのか…セトレアを信じていいのか…
「とりあえず行ってみよう」
「そうですね。行って見ましょう」
「ここで考えても仕方ないしね」
「マリーフィア家の位置は分かるのか?」
ミーナはこくりと頷く。ルナはどうやら知らないようだ。
「なら、話は早い。まずはドレスとタキシードを調達しに行くぞ」
「「はーい」」
「中途半端な安物は買うなよ?」
「「はーい」」
こいつらウキウキし過ぎて俺の話を聞こうとしない。まぁ、いいか
「行くか」
「楽しみですね!」
「当然!」
俺たちはマリーフィア家を目指す。
まずはタキシード、ドレスの調達だ。




