第23話〜最強の騎士の称号
剣を握る腕にはさらに力が入る。これは俺だけでなくこの空間にいる誰もがそうだった。
背筋を嫌な汗が流れてくる。
「ハイルは血の気が多良いからねぇ」
「面目ありません…」
その緑色の長髪を後ろへやると彼女はこちらへゆっくりと歩いてくる。
「あら、君可愛いね。いや、エルフとは違う美しさかな?」
身長は俺より少し下なくらい。だが、それだけで侮ってはいけない。この小さな体にはとてつもなく大きな力があると本能で分かるくらいだ。
これが本物の強者という者だろう。
「ハイル・ルーンナイト君は私を怒らせたくはないだろう?」
「はい…」
「この酒場だって国の物だが、それと同時にこの店の店主の者でもある。違うかい?」
「いいえ」
あんなにも怒り狂っていたハイルはこの人の登場で急に大人しくなった。ハイルは恐らくこの人の存在を知っていた。だが、他の者は知らなかったらしくとても店内がざわついている。
「だったらここで喧嘩はやめよう。返り血とかで汚したら悪いからね」
「分かりました。勘弁しておきましょう」
「いーや、何か勘違いしているようだけど見逃してもらうのはハイル。君の方だ」
急にキョトンとしだすハイル。やはり自分の方が強いと確信していたのだろう。剣を納め、その場に立ち尽くす。
「君は力の差を図れるようになった方が良い。確かに他の者と比べると君は突出して実力も才能もある。だがね、世の中にはそれを超える者があると知った方が良い」
唇を噛み締め、拳を強く握る。それと同時に殺意のこもった眼差しを俺に向かって放つ。
相当悔しかったのだろう。
(弱いくせにプライドが高いと腹がたつな)
「セトレア様。あなたが師であっても、偉大な魔導騎士であっても今の言葉は聞き捨てなりません」
ハイルは戻した剣を再び抜く。
「ちょうど良い。俺も試したいことがあるんだ」
「ちょっと!レン止めて!」
「はわわわぁぁあ」
パニックになり始める2人は俺を止めようと再度試みる。だが、もう俺たちを止めることはできなかった。
俺は腰に付けてある剣を少しだけ抜き、すぐに鞘に戻す。
「あ?なんのつもりだ?」
「見てろって」
ハイル思いっきり踏み込み、鋭い一撃を繰り出す。しかし、俺はこれを待っていた。
(やっとグリムの裏技が使える)
ドレインの性質は剣を抜いた者の魔力を吸い取り、魔力を込めることで自動的に最高の肉体強化をしてくれる代物だ。このためられた魔力は鞘に納めても使用するまでは無くならない。
カラクリはここにある。魔力というのはコントロール次第で離れたところにも送ることができる。
スペルを唱える魔法も手のひら以外で作れるのもこのためだ。
そしてこれらを合わせる。ドレインのを一度抜き、魔力を貯める。そして納められたドレインに魔力を送る。すると…
「クッ!クソが!全く動かねぇ…」
ハイルの鋭い一撃は俺の親指と人差し指だけで止められていた。ハイルは力を込めているつもりだろうがピクリとも動かない。
「これが差だ」
「クソッた…ウボォ!」
急に吹き飛ぶハイル。なぜなら俺が足で腹を思いっきり蹴ったからだ。
ハイルは後方に思いっきり吹き飛び、テーブルや椅子を吹き飛ばしながら壁にぶち当たる。
「カハッ…」
吐血するハイル。
俺は改めて自分がすごい力を手にしているのだと思った。
本当なら俺には人をあれだけ吹き飛ばす力はない。せいぜい相手に尻餅をつかせる程度だ。
これもあくまで素人だったらの話だが…
しかし、ハイルはまぎれもない実力者。受け身の取り方も、攻撃をかわす術も体に叩き込んでいるだろう。
だが、俺は吹き飛ばした。しかも一撃でノックアウトまで持ち込んだのだ。これは凄いことである。
しかし、これのつかの間の歓喜も一瞬で取り払われる。
「私…なんて言った?」
ニッコリと恐ろしい笑みを浮かべこちらに剣を向けるセトレア。
背中を嫌な汗が通り抜ける。
「喧嘩はするなって言ったよね?2人とも聞いてたの?」
ハイルは気絶している。受け答えれるのは現状俺だけだ。
「俺たちの国にはな正当防衛っていう法律があるんだよ。だから今のはノーカンだ」
「セイトウボウエイ?って何かしら?」
「殺されそうになったら反撃してもいいってこと」
「なぁんだ、そういうことか…でも、ここはトリニスタ。私たちのいうことを聞けないのなら命は無いわよ」
釘をさすかのような言い方をするセトレア。
その美しい美貌からは想像できない恐ろしいほど重い言葉だった。
「でも、今回はこちらが悪いわね。今日は見逃してあげるけど…本当なら騎士に剣を上げることは犯罪だからね」
さっきの表情とは一変して途端に笑顔に戻るセトレア。そして俺に向かい手を出してくる。
「私は【セトレア・オルフェス】この国の魔導騎士を務め、風の魔導騎士団の団長よ」
「俺はレン。ただのハンターだ」
「ただの…ねぇ」
俺とセトレアは握手をかわす。さっきまで敵対していたものがかわす握手は良いものだ。
「じゃあ、私たちはこれで失礼するよ。後、もう一度牢獄に行ってハンターカードの更新してね」
そう言ってハイルをその体で担ぎ、酒場を後にする。ついでに周りにいた騎士達と一緒に。
すると、息を止めていたのか、ミーナとルナは大きく息を吐き、そして再び大きく吸う。
「ちょっとあれって…」
「はい…恐らく…」
2人は顔を見合わせお互いに頷く。
「ちょっと何考えてるの!?」
「そ、そうですよ!」
「へ?何が?」
「「はぁ〜…」」
同時に額に手を当て、大きくため息をつく。
時々思うんだが、こいつらってすでに結構仲良いよな?
「あのね、レンさっきの人はね…」
ミーナによるとさっきのセトレアと言われていた人はこの国の魔導騎士。つまり、この国で最強と呼ばれている奴らの1人だという。
その中でもセトレアの剣技はこの国最速。
神速の剣技と呼ばれるほどの速さを誇り、戦った相手は気づかないまま刺身にされていることもあるらしい。
「この国で知らないのは恐らくレンさんくらいかと…」
「きっと他にもいるぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
恐らく龍弥とか生き残った女の子とか…ん?
ここで俺は気がついた。
俺があの集団と別れる前には確かに生き残りは7人いたことに。だが、龍弥の話を聞いてた限り、男は蛇に絡みつかれ、龍弥が抱えて走ったのは2人だ。そのうち1人は死に、もう1人は龍弥と一緒だ。
男は、俺、龍弥、名前は知らない男。
女は、穂花、龍弥と一緒のやつ、それと死んだ奴…
どう考えても1人足りない。
俺はここで気づいた矛盾に顔をしかめる。するとミーナが不思議そうに顔を見上げてくる。
「どうしたの?」
「いや、なんでも無い」
「とりあえず出ましょうか」
俺はなるべく考えないようにした。どうせどっかでのたれ死んでいると思ったからだ。
それより、俺にはやりたいことがある。
「じゃあ、行くか」
「「はい!」」
胸糞悪いこともあったが、次は王都観光。このグリムの金を使い、買い物をするのだ。
---酒場から出て少し歩いたところにいるセトレアとハイルとその騎士団。
「うぅ…す、すみません…遅れを取ってしまい…」
「良いよ良いよ、君には勝てなかったからね…」
気がついたハイルは路地裏で騎士団達に囲まれるように膝枕をされていた。
ハイル自身もこれを慣れたことのように振る舞う。
「なぜ、泳がせたのですか?」
「ん?何のこと?」
「セトレア様…」
「プライベートでは姉さんで良いよ。やっぱりハイルは気づいていたんだね」
この世界には様々な種族が存在する。
その中でこの2人はドルイドと呼ばれる種族である。ドルイドとはレン達の世界では祭司などの意味合いを持つがこの世界では天使の末裔として確立されている。
そんな彼らにはもともと持っている能力がある。
それは相手の魔力値を測ることだ。
「純血のドルイドなら正確なものが測れるけど、私たちハーフはだいたいしか測れない…ねぇ、君たち。彼の情報で魔力値があったろ?それを教えて欲しい」
「はい、確か1200かと…」
「ハイル…どう思う?」
「確実にそれ以上はあるかと…」
「そうだよね、でなければあんなにドレインを扱えない。そうだろ?」
王国は彼に目をつけたのは正解だ。
恐らく彼にさえ使いこなせていないほどの魔力がある。ドレインをあんな使い方できるくらいの魔力だ。
恐らく…いや、あのクリーム色の髪の少女も彼の魔力に気づいている。
「でも…彼のカードは誰が作ったんだろうね?虚偽の記載は作った者にも良いことは無いはずなのに…」
「そうだね姉さん。あいつも、カード製作者も…要注意だ」
「みんな、他の騎士団にこの事を伝えて彼に警戒を寄せるように言って。魔導騎士には私から伝えておく。君たちは彼が、何かしたらすぐに牢獄に放り込めるようにしておいて」
「「は!」」
周りの騎士達は散り散りに自分たちの受けた命令をこなしに行く。そして取り残されたハイルとセトレア。
「ハイル…この王国最高の魔力値はいくらだっけ?」
「…2100です」
「だよね…」
それを優に超える魔力…敵に回して仕舞えば恐らく負けるのはこちらの方…
「いち早く管理しないとね」
「そうですね」
王国はこの日を境に大きく動き出す。




