第20話〜王都への道のり(後編)
「ヨルムンガンド?」
神話とかに出てくる様なやつ…だよな?
「ドラゴンにはな、4つのランクに分けられているのは知ってるな」
「あ、ああ」
「ドラゴンってのは生物界の頂点だ。その中の古龍ってことは生物の中で2番目に強いということだ。まぁ、世の中にはそれを超えるやつもいるが…」
ここからは長いので要約…
ヨルムンガンドとは古龍の一種だという。
あの入道雲のようなものは奴らの卵だという。普段なら他の雲と大差なく違いがわからない。
だが、今回は違った。あの化け物は孵化の直前だったという。だから、くっきりとシルエットが浮かんでいたし、あの中で蠢いていたという。
それを感知したワイバーンは本能的にその卵と距離を取り、自分の存在を出来るだけ消していたということだ。
「そんなに恐ろしいのか?」
「恐ろしいのかなんてものじゃない。奴は死の龍と言われている。その由来はやつの出す見えない毒だ。それは常に体から発せられ、それを吸ったものはすぐに絶命していまう」
「じゃあ、もし、こちらの位置がバレていたら…」
グリムはこくりと頷く。
恐らく最初のごちそうにされていただろう。毒でなす術もなく殺され、喰われていたであろう。
(やはりこの世界は油断できんな…)
俺は改めて意思を固めた。
「そういえばお前が盗賊になった理由を聞いてなかったな」
あからさまに顔が暗くなるグリム。うつむき、俺の顔を全く見ようともしない。
過去に何かあったのか、どんな人生を歩んできたのか、聞きたいことはあるが、やはりこんなことでといつめることもないだろう。
「言いたくなかったら言わなくていい…ただ少し気になっただけだ」
「…くっくっく。教えてやるよ…また今度な…」
そう言いながら俺を見上げるグリム。あの時の様な不気味な笑顔だが、恐ろしいだけではなく瞳の奥には暖かささえ感じさせた。
「お前ともっと別の知り合い方をしていたらいい友達になれたかもな」
俺は軽くそんな冗談を言ってみる。すると
「…かもな」
小さい声で返してくるグリムの声が聞こえた…
俺はそれからグリムからいろんなことを聞いた。さすがに盗賊を始めた理由は教えてはくれなかったが…それとこの剣の裏技も教えてくれた。実践してみたがこれはなかなか使える。
実戦で使うのが楽しみだ…
「聞きたいことがあるんだがいいか?」
「あれ以外ならな」
「ルナのことなんだが…」
「ああ、イビルアイの…全く覚えてないがな…」
確かにそうかもしれない。ルナの言っていたことは別に直接手を下されたわけではないが、荷物を取られたせいで死んだと…
俺はとりあえずルナから聞いたことを話したすると意外な答えが返ってきた。
「俺は確かに四年前から馬車を襲っていたが俺は商人を殺してはいない」
「ん?どういうことだ?」
グリムが言うにはたくさん襲ったが、グリム自身は殺していないという(憲兵を除く)。
しかし、1番最初に襲った馬車は仲間の1人が誤って殺してしまったそうだ。
恐らくそれがルナの母親が乗っていたという馬車だったのだろう。
俺はこの話を聞き、何も言わなかった。その代わりに乾肉をしけたツラをしているグリムの口の中に突っ込み焚き火のところへと戻った。
「お客様グリムとお話になられていたのですか?」
そう言ってくるのは例の龍乗り。彼は焚き火の前に体育座りをしていた。
「起きてたのか」
「えぇ、やはり大罪人と一緒ですと不安にもなります。それにグリムを倒したのはあなたではなくミーナという人だと聞いています」
「ああ、そうか…」
これは前にも言ったと思うが、グリムは俺が倒したのではなく、ミーナが倒したということになっている。本来ならここで否定はしないが、明日には出発すると思うし、何より今日ねれなかったことで居眠り運転なんてされたら困るからな。
「いや、俺が倒したよ」
「え?そんなんですか?」
驚いた様に口を開ける龍乗り。そいつは帽子を押さえたまま顔を近づける。
まだ、帽子をかぶっているのか…
「嘘はついていない様ですね…」
「分かるのか?」
「勘ですね」
そう言いながら俺の傍にある剣に興味を持ったのかそれについて聞いてきた。
「これでグリムを?」
「ああ」
「どこにでもありそうな物なのに…相当あなたの腕が立つんでしょうな」
口元を緩め、ニヤリとしながらそんなことをいってくる。
「いや、これはドレインという剣だと…思う」
「ほ、本当ですか?それがかの有名なドレインですか…」
「知っているのか?」
「ええ、それは需要のない神器で有名ですから」
ここに来ても褒められてはいない俺の愛刀…なんだか俺がバカにされている様だ。
しかし、やはり神器と呼ばれるだけの力はあるという事…需要があればもっと有名になれたろうに…
「だから心配せずに寝ろ」
「じゃあお言葉に甘えて…」
龍乗りも眠りにつき、俺の警備にも一層気合が入る。
そして夜が明けた…
「ふぁ〜、おはよう」
「おはようございます」
髪をボサボサにしながら寝ぼけ眼をこする2人がやっと起きてきた。龍乗りは割と早くから目覚め、ワイバーンの調子を見ている。
ちなみにグリムはまだぐっすりと寝ているのでまた尻尾にでもくくりつけておこう。
「お客様大丈夫です」
そう言って片手を大きく上げ振る龍乗り。俺もそれに答え「おう」と一言。
グリムを縛り付け俺はミスターアイリスから貰った装備を身につけワイバーンにまたがる。
「軽装でよかったね」
「ああ」
もし、ギルの様な重装備だったらこのワイバーンには乗れなかっただろう。
まぁ、そんなのだったら最初に気づくけどね。
「じゃあ飛びますよ」
「よし出発!」
そう言った瞬間ワイバーンは羽を羽ばたかせて宙に浮く。その高さはどんどん高くなっていく。
「またここか…」
目覚めたグリムは自分のいる位置に絶望しつつも、仕方ないという顔で目を瞑る。
一応周りを確認したが、雲ひとつない快晴。ヨルムンガンドとかいう化け物のいる卵も近くになし。孵化した可能性もあるが、ワイバーンが怯えていないので大丈夫だと信じよう。
ちょっとのハプニングもあったが無事に王都を目指す。
「そう言えばグリムと何話してたの?」
「知ってたのか?」
「聞こえるわよ。全然笑い声はしなかったけど」
「まぁ…な」
俺はあのグリムの言っていた事をルナに話そうかどうか迷っていた。まぁ、いってもいいんだけど真実でないかもしれないし、襲ったって事は事実だから…いいか。
景色が目まぐるしく変わっていく。
相変わらず風を感じれないのは少し寂しいが飛行機とは違って進んでいるということがよく分かる。
この世界に来て1番最初に思ったのは文明の圧倒的差だ。高層ビルの様な建物はないし、周りを見ても車は走っておらず代わりに馬車が走っている。
最初は本当にこんなところでやっていけるのか不安になったものだ。
だが、いい事もあった。
この眩しいほどの青空。魔法という未知の存在。本物の凶器。
これらは間違いなく前の世界では体験できない、見る事のできない存在だろう。
「ここに来てよかった…」
「「え?」」
不意に出た言葉に反応する2人。
そんな事は気にもせず移り変わる景色の中に目をやる。
目指すは王都…次の舞台へ…




