第19話〜王都への道のり(前編)
ワイバーンの乗り心地はそこそこ。
飛行機のように速いとまではいかないが生物にしては十分速い。
風を切る音は聞こえるがこんなにもオープンなのに全く風が来ない。しかも、結構な高さを飛んでいるはずなのに息苦しくもない。
乗った後すぐになぜか聞いたのだが、これも風属性の魔法の一種であるという。
「魔法って便利だな」
不意にそんなことを言い出す俺に顔をしかめる2人。
アイリスを出てたったまだ1時間ほどしか経っていないが景色が目まぐるしく変わっていく。
平原だったり、山だったり、谷だったり…
まぁ、それの繰り返しなんだけど…
そんな事より俺は今とてもピンチだ。
「な、なぁ…お前らもう少し離れてくれないか?」
「だって狭いんだもん」
「そ、そうです!」
このワイバーンは結構狭い。こいつも結構な大きさなのだが、やはり俺たちと龍乗りの人を乗せてると狭く感じる。
今、俺たちは胴の部分に座っているわけで、俺を真ん中、その後ろにミーナ、俺の前にルナというポジションである。
これは生物であるため座席なんかは用意されてなく、シートベルトもない。もし落ちたりなんかしたら間違いなく死ぬ。
なので細心の注意を払わなければならない。
だが…
「もう少しくらいなら離れられるだろ?」
「限界ぃ〜」
「嫌です!」
「え?いや?」
「あ、いえ、何でもないです…」
急に俯くルナ。その顔は少し赤かった。
「じゃあ、せめて場所を変わってくれ…」
「え?なんで?」
「いや、その…胸が…」
「胸?」
そう、今ミーナは俺の腰に腕を回している状態。そしてその結果、胸が俺の背中に押し付けられているのだ。
はたから見れば羨ましいシチュエーション。だが、年頃の男子には耐え難い拷問なのだ。
「あ、当たるんだよ!だから、ルナの方が安全っていうか…まぁ、いい意味でないっていうか…」
「ひ、貧相って意味ですか!?」
「ふふーん、仕方ないわねぇ」
誇らしげにルナを見るミーナは俺の腰から手を離し、前へと移る。
「羨ましいですねぇ。両手に花だなんて」
そんなことを言うのは帽子を深くかぶった龍乗りの…青年…だと思う。
手綱を持ち、鞭を持っている方の手でさらに深く帽子をかぶる。
「そんなんじゃないですよ」
俺は笑いながら軽く冗談を流す。
「ムゥ〜」
よく分からない唸り声を上げるルナは俺の背中から腹にかけて手を回し、苦しいほど締め付けてくる。
(なんか余計なこと言ったかなぁ)
「なぁ、俺の扱い雑なんじゃないか?」
ここでやっと思い出したことがある。
「あ、やばい忘れてた」
俺はミスターアイリスからもらった装備を取り出す。実は出発前も忘れていて別れの挨拶を済ませている時慌てて渡してくれたものだ。
中身は見てないんだけど…
「いや、違うだろ?俺だよ俺!」
「うるさいな…」
「あ、忘れてました…」
「はぁ〜」
そう、俺たちは忘れていた。グリムという大罪人を…現在は尻尾にロープでグルグルくくりつけてある。
そのグリムは時折揺らされるワイバーンの尻尾。それはかつての強敵の戦力を削ぐのに有効だった。
気分が悪そうにするグリム。こいつの顔は真っ青だった。
「顔色悪いなお前」
「当たり前だ。こんなのに乗せられたのは初めてだからな」
(少し休ませてやるか?)
「どうします?レンさん」
「いや、いいよ」
「おい!」
俺はこのグリムを1時間ほどしか見ていないが、あの夜のグリムは何か違った気がする。
というかこいつ盗賊なんて柄じゃないどちらかというと気さくで誰でも仲良くなれるような…そんな気がする。
「グリムお前ってなんで盗賊始めたの?」
「……………」
急にだまりこむグリム。今は尻尾がゆらゆらしている時間なのでその表情はブレてみることは叶わない。
それからさらに3時間。王都まであと約半分のところで事件は起きた。
「ん?なんだあれ?」
俺はそれを見た方向を指差す。
それは遠くにある雲。真っ白い入道雲の中。
白い雲の中にある蛇のようなシルエット。あの大きな入道雲の中にまるで囚われているように大きな蛇の黒いシルエットが浮かんでいた。
「あれって…うぉ!」
急にワイバーンの体制が崩れ、俺たちもそれにつられてよろける。
「え!何急に!」
「ど、どうしました!」
このワイバーンは俺の考えすぎなのかもしれないが心なしかあの謎の生物?がいる雲とは反対方向に行っているような気がした。
「一旦降りますね!」
そう言って暴れまわるワイバーンを見事にコントロールし、地上へと降りさせた。
そこは不気味な森だった。薄暗く太陽の光が届かないじめっとした森の少し開けたところに降りた。
「え、何が起きたの?」
「どうしたんだ?このワイバーン」
俺の視線の先には青く大きなワイバーン。そのでかい図体は小刻みに震え、丸くなっていた。まるで何かに脅えるように…
「ダメですね…まったく飛ぼうとしません」
ワイバーンの頭をさすりながらまたもや深く帽子をかぶりなおす。
「マジか…こっちはグリムもいるってのに」
そう言ってグリムの方向を見る。が…グリムはすでに伸びていた。おそらく取り乱したワイバーンは大きく尻尾を振ったのだろう。
「どうします?レンさん…」
「野宿…しかないな…」
辺りは薄暗い森。前の世界でもこんなところは危険だった。この世界は前の世界にはいなかった化け物もうようよいる。
ここで身を固めた方が安全だろう。
「まずは日の確保だな。あとグリムは木にでも縛っておこう」
「「はーい」」
日はまだ全然高い。再びワイバーンが飛び立つかもしれない。だが、念には念をだ。もし、飛び立てなくても良いように準備はしておかなければならない。
「まずは火の確保、食料の採集。安全の確認。それを徹底する」
---夜の帳が降りた。
辺りは闇に包まれた。明かりがあるとすれば俺たちの目の前の焚き火だけだ。それを輪になり囲んでいる。
結局ワイバーンは飛ばなかった。龍乗り曰く明日には飛ぶだろうとのこと。
「寝るか…」
「そうね」
「そうですね」
「zzz…」
龍乗りはすでに寝ていた。
(緊張感なさすぎだろ…)
「寝てて良いぞ、俺が見張ってるから」
「「zzz…」」
2人もすでに寝てしまっていた。こんな森の中、会って数日の男に身をまかせるなんてどういう神経してるんだ?危なっかしいな…
俺は焚き火の前から立ち上がり、縛られたグリムの元へと向かう。
「おい、起きてるんだろ?」
するとうつむいていたグリムはゆっくりとこちらを向いた。座っているのに俺の背丈とあまり変わらない。少しグリムが小さいくらいだ。
「バレてたか…」
「当たり前だ…結構前から気づいてたよ…で、なんで逃げないんだ?」
「縛っているのはお前たちだろ?」
「お前ならそんな縄簡単に抜けれるだろ?引きちぎることもできるはずだ。魔法を使えばな…俺は空の上だから平気だと思っていた。だが、今は違う」
「そんなことまでお見通しか…」
グリムは少し頬を緩め、こんな表情が出来るんだと驚いてしまった。
そして口を開く。
「疲れたんだよ…初めて負けて自分のしている事に意味なんてない事に気づいたんだ」
「それだけか?」
「ああ、勝者に直接手を下されないのは少し残念だが、最後にこんな旅が出来るんならと思ったんだ」
やはりグリムは根っからの悪人ってことではないと思う。あの日死んだのは街を守る憲兵だけ、その他町の住民には一切危害は加えてなかった。
俺だけを狙っていたのだ。
(もしかしたらこいつは倒されたかったのかもしれないな)
そんな馬鹿な考えを巡らせているとおもむろにグリムは口を開く。
「お前、なんでワイバーンがいきなりああなったのか分かるか?」
「…いや、残念ながらこの世界のことはよく知らないもんでな」
「この世界?まぁ、いい、お前も見たんだろ?あの雲の中の化け物を…」
「知っているのか?」
そう聞くとグリムは突如真剣な表情になる。
「あれはな…ヨルムンガンドっていう古龍の卵だ」




