第16話〜新たなメンバー【ルナ・フォード】
俺は今ギルドにいる。
あの夜のあと俺はいつも通りにダルカンの家に行き、着替えをとって大衆浴場に行き、風呂に入ってから寝た。
そして朝起きてやっとミーナとルナのことを思い出した。これからの事を話さなければならないことがある。
ミスターアイリスに聞いた話なのだが、グリムのようなAクラス以上の賞金首は捕獲に携わったメンバーと一緒に王都へ運ばなければならないそうだ。
なぜなら過去に捕らえたもの以外が王都まで送還している途中に逃げられたという事例があるからだ。
なのであの時一緒に戦った俺、ミーナ、ルナの3人は近いうちにグリムを連れて王都まで送還しなくてはならない。
だからそのために話す必要があったのだが…この世界の不便なところは迅速な連絡手段がないことだ。だから仕方なく2人が来そうなギルドで待ち伏せしている次第である。
「遅いな…」
この騒がしいギルドの中。たった1人で机に座り、昼間からエールを飲んでいる。
何だか恥ずかしくなってきた…
「あ、レンじゃん!」
「レンさん!」
ギルドの扉方面から何だか懐かしい声が聞こえる。あんまり時間は経ってはいないんだが
1日挟んだだけで長い間会っていないような感覚になってしまう。
「ちょうど良かった。さっきダルカンのところ行ったんだけどね」
「まぁ、座りましょう」
相変わらず両目に巻いた包帯は外していない。そんなルナの姿を見ているうちに2人は俺の横へと座る。
「あっちに行けよ」
「いえ、こちらの方が見やすいので」
「そうよ。今から大事なもの見せるから」
そう言って取り出したのは巻物のようにグルグル巻いてある古そうな紙。
「何だこれ?」
「この国の地図よ」
ミーナは机に地図を広げてみるが、それは国の地図っていうよりこの大陸の地図って感じだ。
「ミーナさんこれ大陸地図じゃ…」
「ん?まぁ、いいのいいの」
どことなく適当なミーナ。彼女は地図の南側の国の中心を指した。
「ここが今いる宿場町アイリスの場所よ」
「へーここが国の中心なのか」
「で、ここが王都です」
ミーナとルナが地図を指差しながら交互に喋った。
俺はというとこの不思議な街の配置に驚いていた。この地図を見る限り他の国は中心に王都なるものが設置されているが、この国はこの宿場町が中心に来ている。王都は少し中央の国よりだ。
「で、これがどうしたんだ?」
「私たちはね近いうちに王都に行かないとならないの」
「あぁ、それなら聞いた」
「そうなの?じゃあ今からすることも分かる?」
少し驚いたようだが、それは一瞬で次はクイズ形式に問題を出してくる。
「いや、知らないけど」
「レンさん…迷惑なら断ってくれていいんですけど…」
この話を始めてからあまり元気のないルナは本当に悲しそうにそう言ってきた。話の本題が分からない俺はそれに首をかしげる。
「レンさん…ル、ルナを…パーティに入れてくれま…せんか?」
言葉を詰めながら勇気を振り絞り放つ言葉。彼女はそれを言った後すぐに下を向いてしまった。
するとミーナが口を開く。
「あのねレン…これは報酬を分配するのに必要なことなの」
まだうつむいたままのルナの代わりにルナをパーティに入れるように仕組むような言葉を放つミーナ。
正直パーティなんて誰が入ろうと知ったことじゃないがまぁ、別に断る理由はないだろう。
「報酬とか関係なく別にいいが…それに決めるのはミーナの方だろ?だってパーティリーダーはミーナなんだから」
その瞬間パーっと明るくこちらを向くルナ。その顔は少し赤くなっているようだった。
「本当!?」
「ああ、じゃあ早速編成するか」
「はい!お願いします!」
非常に嬉しそうに振る舞うルナ。なぜそんなに嬉しそうなのかは分からないがとりあえずギルドのカウンターへ行く。
「ミーナさん今回はありがとうございました」
「え、いや、それは私じゃなくて…」
「いいさ」
カウンターへ行った俺たちは突如大男にお礼を言われた。それは主にミーナに向けられたものであるがミーナは申し訳なさそうにこちらを見る。それに俺は一言応えるだけだった。
「で、サリマン。私たちパーティにもう1人入れたいの」
「はい、編成ですね。ではハンターカードを提示してください」
俺とミーナは自分のカードを提示するが、ルナは困ったように俺たちを見つめたり周りを見渡したりした。
「まさか、持ってないのか?」
「…はい」
申し訳なさそうに俯く彼女はなんだか見ていられなかった。俺はスッと金貨を出し、ルナにこう告げる。
「早く作れ」
「え?良いんですか…」
目を見開き、驚いたように俺を見るルナ。ミーナといえば少し満足そうに腕を組み頷いていた。
出すのはお前じゃないだろ…
「では…お言葉に甘えまして…」
少し照れたようにその美しい銀色の髪を耳にかけながら筆を取る。そして初めて俺がハンターカードを書いた時のように書く。
そういえば俺のカードを作ってくれた人は誰だったんだろう。作った2日後にはいなくなるなんて…よく分からないな。
あまり深くは考えなかった。
「はい!できました!」
「ではすぐにできますので少々お待ちください」
「へ?なんで?」
「な、なんでと言われましても…」
俺のときとはなんだか違う。いや、これは個人によって差が出るものなのか?
サリマンは奥へ行き、すぐに戻ってきた。
「できました」
「…………」
なんだかこれは俺でも1日かからないような気がするが…まぁいいか。
「ついでにパーティの腕輪と登録も済ませました」
「あんな短時間で…」
俺は少しがっかりしたように言う。なんだか俺の1日を返して欲しい気分だ。
「これでお揃いですね」
ニッコリとこちらを振り向くルナ。その顔はなんだか幸せそうだった。その時あの大衆浴場での出来事を思い出した。
あれは父親だったのだろうか?随分高圧的でまるで…
俺はルナの姿を改めて見直した。服装は確かに普通のところより少しボロい程度だが腕や足には少しずつ傷やあざができている。
これは…DV…そんな言葉が頭をよぎる。しかもこれは陰湿系のやつか?
「ルナ…服めくってみろ」
「え!?な、なんでですか…」
「いいから…」
彼女はとても恥ずかしそうに応える。そしてミーナは唖然として言葉も出なかった。そして俺は自分の想像が当たっていないことを願うように悲しい眼差しでルナを見る。
「は、恥ずか…しいですよ…」
両手で顔を覆って真っ赤な顔を恥ずかしそうな態度をとる。
俺はその言葉を聞かずルナの腹のところにまで目線を下げ、服を少しめくる。
「ちょっ!レン!」
「レ、レンさん!」
「チッ!やっぱりか…」
舌打ちをし、唇を噛み締め拳を握り締める。俺の中ではぶつけようのない怒りがこみ上げてくるのが分かる。
「許せねぇ」
「だからレン!何して…ってどうしたの!?」
「こ、これは…」
ルナの右横腹の部分。そこにはひどいあざがあった。おそらく探せばもっといたるところにこのようなあざや傷があるだろう。
目に見えるところよりひどいものが…
「ルナ…これは?」
「ル、ルナが悪いんです…機嫌を損ねてしまったから…」
家庭内暴力の被害者は自分が悪いと思ってしまう傾向にあるという。この世界でも例外ではないのかもしれない。
それは自分の中にある怒りをそっと鎮め大きく深呼吸をする。
「まぁ、いい。ルナ、ミーナ。2日後にこの街を出て王都に行こう。そのためには準備が必要だ。だから明日は3人で買い物をしよう。分かったか?」
無理に笑ってみせる俺。彼女たちはそれに少し疑問を持ちながらも承諾してくれた。
「じゃあ昼にギルドに集合ね!じゃあ!」
そう言って立ち去るミーナ。それと一緒にルナも離脱しようとするがそれを俺は止める。
「ルナ…お前の母親はどこにいる?」
「母は2年前に他界しました…今は父と二人暮らしです」
「そうか…だったらお前の親父はいつ頃起きる?」
「霧が終わる時間には…起きてます…」
この世界には時計というものが存在しない。なのでその時間帯…例えば昼なら太陽が真上の時、夕方といえば空が赤くなる時、夜といえば暗くなった時。ここでの霧が終わる時間ってのは早朝。俺も一度見たことがあるが感覚でいうと5時から7時の間というところだろうか。
「早いな…」
「はい、昔、薬草屋を行っていたので…その影響かと…」
「分かった。詳しいことは明日話す。引き止めて悪かったな」
俺はルナに背を向けギルドを後にする。ルナは最後に一度お辞儀をして俺の後をついてきた後別れた。
俺は何だか胸糞悪かったので今日はダルカンの家でゆっくりすることにした。




