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第15話〜ギルの恋事情♡

【ヴァイト・アイリス】その人物はこの街の領主であり、ギルの父親でもある。俺はそんな大人物の書斎に来ている。


彼は悲しく、遠い目をしながら窓の外を眺めている。俺とギルはそれをただ見ていることしかできない。

すると彼は低いトーンで口を開く。


「今回の件で6人もの仲間を失った。これは悲しいことだ。私があの時いち早く街の異変に気付いていたらと思って仕方ない」


「………」


未だこちらに振り返らないミスターアイリスを俺たちはただただ見つめることしかできなかった。彼が言っていることが本心からだとわかるからだ。それが本心だけに哀しみの度合いも悲しいほど伝わってくる。


「今グリムを殺しこの気持ちを晴らすのは簡単だ。だが、それをやっても何も帰ってはこない。自分をどんどん下げるだけだとワシは思う」


「なんで親父さんの半分ほどの優しさがお前に遺伝しなかったんだろうな」


こんな状況にも関わらずついギルの悪態をついてしまう。そんな俺の言葉を少し笑いながら「余計なお世話だ!」と小声で返すギルは何だかノリがいい。


「すまないね。こんな辛気臭い話をしてしまって」


そう言いながら振り返るミスターアイリス。そのふくよかな体をこちらに向け、優しそうな顔には涙が伝っていた。

これだけ民を愛する気持ちがあればこの街の領主として抜擢されるのも無理はない。


「しかし、君たちには本当に感謝しているんだ。もし、グリムが捕まらなかったらギルに領主を任せて飛び出して行くとこだったわい」


この人が言うとなんか冗談に聞こえないな…


「ギル。母さんたちを呼んできてくれ」


「分かった」


ガチャリと扉を開き、出て行くギル。そして扉が閉まった瞬間ミスターアイリスは口を開く。


「ギルは上手くやっとるかね?」


「さぁ、知り合って間もないんで」


「そうか…しかし、そんな短期間でギルと仲良くなれるのはすごいと思うぞ。ギルは他人に心を開きにくいのでな」


そういえば出会いは最悪だったな。いきなり気絶させて怒ってギルドに戻ってきて喧嘩寸前のところでミーナに止められて…大衆浴…


これ以上は俺の中で封印している記憶が掘り出されそうなのでやめておく。


「まぁ、良いさ。それより君には礼をせんとな」


再びその扉が開き、ギルと一緒に入ってきたのは3人の女性。みんな華やかなドレスを着飾りしかも美人ぞろいときた。


「親父連れてきたぞ」


「おぉ、来たか。今からお前さんには贈り物をしたいだがそれは採寸が必要でな。協力してくれるかね?」


「もらえるもんは貰っとく」


「では、こちらに」


そう言われ俺は彼女たちについていく。


ーーー目の前には大きな鏡。周りには様々な鎧が置いてある。恐らくギルのだろう。


「では計らせていただきます」


にこりと笑いメジャーを持つ3人の女性。そういえば若そうに見えるが娘たちだろうか?


「あんたらミスターアイリスの娘さんか?」


なんとなく聞いてみることにするが次の返答で恐ろしいことを聞いてしまった。


「いえ、妻です」


「じゃあ2人が娘さん?若いですね」


「いえ、妻です」


「はい、妻です」


「はい?まさかの一夫多妻制!?てか、若いな!」


何だか自分でもとてもおっさんくさいことを言っているとは思っているが正直黙ってはいられない。


「採寸は終わりました。では3日後にはできていますのでその時もう一度この屋敷へ来てください」


採寸は終わったがこのモヤモヤは何だ?なんか…悔しい気がする。あんなさほどドワーフと変わらない体格のくせに…


負けた。そう心の中で思うレンであった。


どうでも良いけどギル以外の奴はいるのか?てか、どれがギルの母親なんだ?


ーーー採寸が終わり、どこへ行けば良いかわからずとりあえずさっきまで寝ていた寝室に戻ることにしたが…


「どうしたんだ?ギル」


「いや、その…」


図体に見合わず時々弱そうな一面を見せるギル。今も何故だか知らないが口ごもる。


「えっとな…相談があるんだが…」


「何だよ改まって気持ち悪い。別に良いが俺の服と剣は返せ」


本当に何を考えているかは知らないがこいつは俺のドレインと制服を抱えている。


「じゃあ、相談に乗ってくれるか?」


「ああ、分かった分かった」


若干ヤケクソ気味にそれを承諾し、持ち物は返してもらった。


「まぁ、ここでは何だ…さっきの部屋で話そう」




ーーー「お前…マジか?」


俺はギルの打ち明けた相談とやらの内容があまりにもマジ系の相談だったので少し驚いている。

そして俺の出した答えは…


「無理だろ…」


「な、なんでだ!」


「だってお前あの時逃げてたじゃん。死ぬほどカッコ悪かったぞ?」


「うっ…」


こいつの相談とはまさかまさかの恋の相談だったのだ。しかも相手というのが【シャナ】というのが驚きだ。


「領主命令なら逆らえないんじゃないか?」


冗談交じりに言ったつもりだがギルはマジ顔で「一度は考えた」と答え、それは流石に引いた。


「俺は本気なんだ!頼む!協力してくれ!」


いつになく子供っぽく真剣なギルは見ていてとても面白かった。

まぁ、俺も暇だしちょっとぐらいは手伝ってやるか。


「良いぞ」


「本当か!」


俺の方をガシッと力強く握りるギルの手からは物凄い熱を感じた。この告白も尋常じゃなく緊張していたに違いない。


「早速行くぞ!」


「は?どこへ?」


「シャナの家」


「いきなり特攻かよ!」


俺は急いで着替えさせられシャナの家へと向かう。


ーーー玄関先の花にニコニコしながら水をやる長いスカートをはいた少女がいる。

そして通る人にはしっかり挨拶を交わしている。誰が見ても素晴らしくできた少女がギルの心を射止めている張本人。シャナだ。

降ろされた美しい淡紅色の髪をなびかせ家の中へ入っていく。


そして一部始終を狭い路地から見ていた男2人…何を隠そうそれは俺とギル…って


「これってストーカーじゃねーか!」


「すとーかー?って何だ?」


「好きな相手に必要以上に付きまとい、コソコソプライベートを覗く変態の一種だ」


俺の中のストーカーのイメージを反映させる。そして俺の言葉に衝撃を受けたギルは…


「じゃあ、お前もだな」


「ふぁ!?」


突然巻き込んでくるギル。自分を客観的に見たことはなかったのだろう。その顔には焦りの表情が見える。


「お、出てきたぞ」


小声でギルの声が耳にかかる。


ドアが開き、シャナは買い物袋を手に提げている。恐らく食料が何かを買いに行くのだろう。


「行くぞ」


「おう」


何だか楽しくなってきた俺は最初は乗り気でなかったが積極的に自分を汚していく。

正直今更ストーカーなんてちっぽけな犯罪だ。


俺とギルはピッタリとシャナの背後をついていく。時に露店の裏に隠れ、時に後ろを向いて話しているふりをしながらしっかりと見失わないようについていく。


「待てギル」


俺は近づこうとするギルを止める。


視線の先には路地裏を見ながら止まっているシャナの姿。するとおもむろに荷物いっぱいのカバンを肩にかけそちらに歩いていく。


「どうしたんだ?」


「分からないとりあえず行くぞギル」


何だか俺の方が積極的について行こうとしてしまっている。全く雰囲気とは恐ろしいものだ。


シャナはドンドン進んでいく。一本道なのでこれ以上は迂闊には近づけない。


「おい!金出せよ餓鬼」


「ははは!良いぞもっとやれ」


遠くに見たのは小さい子供から金を巻き上げる男2人。


「ちょっと!止めなさい!」


それを制止しに行くシャナ。それに気づく不良2人。


「あ?あんたもなんかくれるのか?」


「ん?あっ!こいつのギルのパーティの奴だぜ」


「だから何よ」


お互いに顔を合わせニヤリと笑う不良2人。


「全くお前らのリーダーがあんなのだからあんたに痛い目にあってもらおうか」


日頃晴らせないギルへの鬱憤を仲間であるシャナにぶつけようとするクズな不良…


「おい、ギル。日頃の行いがここにも出てるぞ」


「そんなこと言ってる場合か」


ここに来ても俺のギルへの悪態をつくのはやめない。それに少しイラっとしたようにギルは答える。


「シャナはああ見えても強いんだ。心配ない」


ギルは完全に見守る体制に入るが、こんなことだからシャナは振り向かないんだろう。


そんなことを思いながら1つアドバイをする


「馬鹿かよ?お前があそこで助けに入ったほうがかっこいいだろ?」


正直都市伝説臭いが、あんな状況で助けられればコロっと行くかも知れない。そんな甘い考えが頭をよぎった。


「行ってこいギル」


「お、おう!」


そう言って走り出したギル。急いでシャナの前に入り込む。


「お前ら俺のいないところで何してんだ」


「くそッ!いんのかよ!」


「まぁ良い今回は勘弁してやる!覚えてやがれ!」


何と典型的な捨台詞。情けないくらいのポキャブラリーの少なさ。考えればもう少しあったろうに。


「だ、大丈夫か?」


「え、うん…いつもなら自分で何とかしろっていうのに…どうしたの?ていうかどうしたのギル。あの人が目覚めないと出てこれないんじゃなかったの?」


「ああ、レンのことか?それならもう…」


そう言い切る前にシャナは喋り出す。歯の口調は何だか早口になる。


「レンくんって言うんですね?じゃあ目覚めたんですか?だったらあの時のお礼を言わないと!じゃあ何か持って行ったほうが…」


そんなシャナの反応に少しだけ肩を落とし


「ああ、な、何でも…良いんじゃない…のか?」


元気のなくなるギル。俯向くギルはトボトボとこちらへ向かい、俺の肩を軽く叩き「任せた」と言い走って行ってしまった。


「え?ギル!」


「ギル?どこへ行く…の…」


路地から出てくるシャナと目があう俺。正直路地の話は聞いていたが俺にバトンタッチする意味が分からない。


「レ、レンくん…ですか?」


「あ、ああ…」


うわ!気まずい…


「あの、どこか…行きますか?」


頬を赤らめるシャナ。そう言いながらスタスタと前を歩く。


こんな時どういう対応したら良いのかわからない。どうしよう…


「あ、ここ私の好きな店なんですよ!」


そこは見覚えのある外観。文字は分からないが匂いは覚えている。ロッドバイソンの串焼きが売ってある場所だ。


「じゃあ2本ください」


「ほいよ」


彼女は2本の串焼きを受け取りそのうち1つを俺に渡してきた。


「あ、ありがとう」


「いえ、本来なら私たちが全員でお礼をしなければいけないんですけど…今はまだこれだけということで」


「いや、別に良いんだが」


彼女は串焼きをとても美味そうにかぶりつく。俺もそれを見習い思いっきりかぶりつく…

が1つ気になることがある。こっちを見る視線が後ろから感じる。


「ギルだな…」


「何か言いました?」


「いや、何も」


さてはあいつ気になってついてきたな…情けない奴だ。


「あ、アクセサリーの店がありますよ!1つお土産用に買っていって良いですか?」


そう言って彼女が立ち寄ったのは魔法アクセサリの店。その中のネックレスを頼み、名前を彫るように指示している。


まあ、30分くらいだろうと踏んでいた俺は次の言葉に驚く。


「じゃあ、夕日が見えるまでここで待っていてね」


店主の驚きの言葉。確かに日は傾きかけているが夕日までは何時間もあるぞ!?しかし、頼んでしまったものは仕方ない。


「じゃあ座って待ちましょう」


「じゃあギルのことでも聞かせてくれ」


「良いですよ!」


そして俺たちは椅子に座りながらギルのことをいろいろ聞く。その時の彼女の顔はとても楽しそうに、幸せそうに話してくれた。




ーーー日が傾き、空が赤く染まる頃にそのアクセサリは完成した。ビックリしたのはまだギルがついてきていたことだ。

そして俺たちはちょっとした橋の上で足を止める。


「あ、ここ夕日が綺麗に見えるんですよ!」


確かにとても綺麗だった。夕日も、それに照らされる彼女も。不覚にもギルが惚れるのもわかると思ってしまった。


「…あの、ですね…改めてあの時はありがとうございました」


突然改まってあの時のお礼を言うシャナ。


「いや、俺も金をもらわなかったら路頭に迷っていたからな」


彼女はクスッと少しだけ笑夕日を背にして俺にこう告げる。


「ギルとは仲良くしてほしんです。ギルは一見喧嘩っ早くて、怒りっぽいところもありますが、実は本当に優しい人なんです。だから街の人にも早く気づいて欲しいと思っています」


「ふっ、日頃の行いを直すことだな!」


俺は彼女にではなくギルに聞こえるように言った。彼女は何のことだかわからなかったようだがギルにはしっかりと伝わったようだった。




ーーー屋敷に届け物ができたので俺は屋敷に向かっている。片手には紙袋。


そして屋敷の扉を叩く。するとそこから出てきたのはミスターアイリスの妻一号だった。


「何のご用でしょう?」


「ギルにこれを渡して欲しい」


俺はだったそれだけを伝へ屋敷を後にする。


あの中にはシャナが作ってもらったギルの名前入りネックレスが入っていることは後に知ることとなる。




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