第14話〜領主官邸
目が覚めた。
しかしそこはいつもの場所ではなかった。
ふかふかのベッドにやけに低い天井…
ん?これはまさか…王室とかに置いてありそうな屋根付きベッドか?レースのカーテンまであって…ってここどこ?
いつもと違って厚いカーテン朝を告げる日の光を遮っている。一体今何時なのか、いやそもそもこの世界に来てからおおよそしかわからないけど…
コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。すると扉越しから「入っていいか?」と聞いてくる男の声が聞こえる。
何だか聞き覚えのあるこえだ。
「どうぞ〜」
まだまだ寝足りない俺は眠い目をこすりながらゆっくり応える。
「入るぞ」
そう言いながら入ってきたのは大柄な男。身長180cm…ってギルか…
「何だよその顔。ミーナさんたちに来てほしかったか?」
「欲を言えば」
「………」
サラッと本音を言う俺にギルは若干引きながらも「そんな冗談が言えるなら大丈夫か」と言い、俺がまだ座っているベットの方へと足を運ぶ。
「昨日のことはどこまで覚えている?」
「グリムを倒したとこまで」
少し頭を押さえて考えてみたがさっぱり思い出せない。そこからの記憶がプッツリと途絶えている。
「じゃあ教えてやろう」
待ってましたと言わんばかりに膝を叩くギル。
そこからギルの話は始まった。
ーーー俺が倒れた後すぐのギルド
「レン!レン!大丈夫!?」
「レ、レンさん!」
俺のことを必死に揺するミーナとルナ。だが俺は全く起きない。剣は握りしめたまま、腕は上げたまま。まるで死後硬直のような状態になっていた。
「うぅぅうう…よし、体の痺れが取れたぞ!野郎ども!お頭の仇とるぞ!」
「「「おー!!」」」
グリムは倒したがことはまだ終わってはいない。まだ、複数の盗賊がギルド内にはいるのだから。
「ピンチには変わりないってことね…」
「レンさんは私たちで守りましょう…」
内心彼女たちは諦めかけていた。魔力は底をつき、イビルアイの能力も使いすぎて間を置かなければ使えない。
体力も底をつき、剣すらまともに振るえない。
「何ができるんだ?そんな体で?」
一歩ずつ前へ足を進める盗賊たち。俺のせいで逃げれない2人はそこから睨むことしかできなかった。今のミーナにとっては俺を後ろに抱えながらこの量の盗賊どもの相手をするのは不可能だ。
ルナも消耗しきっている。
しかし、その不安は全て次の瞬間には無くなることとなった。
「取り押さえろ!!!」
大声がギルドの扉の向こうから聞こえてくる。その瞬間にギルドの扉は勢いよく開かれ何十人もの憲兵が雪崩の様に押し寄せてきた。
「くそッ!」
盗賊たちは一切に逃げ出したが、ここはギルドの中。それに対し、憲兵は外でも待機している様で盗賊たちは逃げ場を失いあっけなくお縄についたという。
「た、助かった…」
「助かりましたぁ〜」
緊張がと解け、その場に寝転ぶミーナとルナ。息を切らし静かに目を瞑る。鼓動の音が聞こえる。憲兵たちがこちらに向かってくる鉄の足音が聞こえてくる。
そんな状況に2人も安堵し、ゆっくりと意識が遠くなっていく。
ーーーそして再び寝室での話。
「で、憲兵たちはお前や姉さんたちをダルカンの診療所まで運んだんだが、うちの親がお礼がしたいって言うからここに運んできたってわけ」
懇切丁寧に教えてくれたギル。そういえば今のギルの姿は前見たときとは違った。何だかお坊ちゃんぽいというか…貴族の息子みたいな格好になっている。
前の勇ましい鎧はどこへ行ったのやら。
「なんだよ。そんなにジロジロ見て」
「何だかお坊ちゃんぽいなと思って」
「ほっとけ!」
腕を組んで少し怒った様にそっぽへ向いてしまう。俺はこれが女の子だったら良かったなとかくだらないことを思いながら冷めた目で見守る。
するとギルは何か思い出した様に少し口元を緩めながらこちらに向き直る。
「お前残念だったな」
「何がだよ」
ギルは立ち上がり、腕を組みながら首を上下に振りながら続ける。
「うんうん、ショックなことだよな。俺は姉さんから聞いてるけど街のみんなはグリムを倒したのは姉さんって思ってるぜ?」
「はぁ…そうか」
「え?なに?悔しくないの?だって…」
「そういえばそのミーナたちはどこに行ったんだ?」
ギルの言いたいことはさておき俺はあの2人のことが気になった。ギルは自分の言葉を遮られたことにムッとしながらも口を開く。
その顔は少し悲しそうだった…
「葬式だよ…今回で亡くなったやつの…グリムに殺されたのは全部で6人。山に行ったハンターは幸い眠らされていただけだった」
「そうか…それは気の毒だったな…」
「そんなに気にやむことはない」
目をつぶり、優しく俺にかけられる言葉。こんなことをされたらギルがいい奴に見えてしまう。でもまぁ、ギルの心配は悲しくも外れる。
「別に気に病んでないぞ」
「へ?」
気を利かしてかけた言葉は俺の前に撃沈。思っても見ない回答にギルは唖然としている。
「犠牲者は出たかもしれないが、別に俺は私怨でグリムと戦っただけで別に街を守ろうとか人を救おうとかは全然思ってはいなかったし」
「マ、マジかよ…」
片手を額に当て下を向く。呆れた様にため息をつき、こちらを再度向く。
「まぁいい。人前では言うなよ?」
「わかったわかった」
「そういえば親父から起きたら呼べって言われてたんだった」
なんでそんな大事なことを忘れる?まあ、別にいいけどさ。
「じゃあついてきてくれ」
俺は立ち上がりギルの父親。この街の領主様に会いに行く。
ーーーここはアイリス北西にある集合墓地。
ここにはこの街の憲兵が街を守るために殉職した時に名前が刻まれる碑石がある。
人々はここを守護者の聖地と呼ぶ。
そして今日今ここにまた新たに6人もの名前が刻まれようとしている。
「ああぁぁあ!マルコフ!行かないで…」
悲痛な叫びが墓地に響く。その声だけじゃない。みんながみんな泣き、叫び、怒りの言葉(を発している。
しかし、それを聞き、返事をしてくれるものはもうここにはいない。みんな栄誉のある墓の下で静かに眠っているのだから。
「………」
その碑石にミーナは買ってきた花を置く。その黄色い太陽の様な花は静かに風に揺られている。
全員がここに眠る戦士を見たことがあるわけではない。しかし、見たことなくてもこの街を文字どうり死んでまで守ろうとしてくれた英雄の最後を見届けないものは少なかった。
ゆえにここには何百人もの人が集っていた。
「ありがとうございました…」
小声でそう言ってくるのは誰かの母親だろうか?年配の女性がミーナとルナの元へ言いに来た。
その表情は哀しみに溢れ、唇を噛み締めている。しかし、彼女たちは静かに「はい」と答える。
その女性は石碑の方へ行ってしまった。
あの悔しそうな表情は一生彼女たちの記憶に残るだろう。
いくらグリムを倒したところでここに眠る守護者たちは蘇ってはこない。そんなことを言われた様な気がした。




