第13話〜勝利への景色
「毒にはな〜2種類あるんだ。1つは死に至るような毒。もう1つは臆病な奴が持っている時間が経てば消える毒だ。コレは後者の方だがな」
跪いて上を見上げることしかできない俺に対し、グリムは少しずつ歩み寄りながら口を開く。
「人間はなぁ、死の毒に対するポーションはいくらでも作っている。だがな、時間の経過で治るものに対してはさっぱりなんだよなぁ」
手足がしびれる。全く勝てる策が浮かんでこない。まさに絶体絶命…
魔法というのは無尽蔵に作れないようだし、
しかも一個作るのに大分持って行かれるときた。魔法とは言っても万能じゃない。まさかこんなところで痛感させられるなんて…
もし、今ここで俺が魔法を使ったとして何か変わるだろうか?いや、まだ始めて数日しか経っていない奴が使ったってこいつには勝てない。
「どうだ?敗北の感覚は」
「クソが!」
この状況に声を荒らげながらグリムを睨みつける。グリムもそんな俺を馬鹿にするように見下ろす。
気がかりなのは後ろの2人のことだ。こんな状況で背後なんか気にしてる余裕なんてない。聞こえてくる息の音しか情報がない。
「悔しいだろ?自分がいかに愚かなことをしたか身にしみて分かるだろ?」
にたつき、その高い背を屈め、俺の位置まで目線を下げてくる。
「そろそろ自由に動けるようになるな」
グリムはそう言うと自慢の大鉈を高く高く振り上げる。そして俺に向かい、スピードとパワーを兼ね備えた一撃が繰り出される。
俺は目をつぶり、死を覚悟する。
心臓の高鳴りが最高潮にまで達し、その鼓動が耳の痛くなるほど聞こえてくる。
「ほう?」
ゆっくり目を開ける。するとそこには俺から視線をそらし寸前のところで大鉈を止めているグリムの姿があった。
恐る恐る背後を振り返る。そこにはサンダーを出しているミーナがいた。ルナは報酬である剣を持っている。
「グリム…あんた、それを下ろすと…これを食らわすわよ!」
息切れをしながらグリムを威嚇する。しかし、そのサンダーにはグリムを死に追いやるどころか、気絶すらさせられないような弱々しいものだということが伝わってくる。
「くっくっく…くっくっくっくっくっく」
気持ちの悪い笑い声がギルドに響く。こんな油断しているのに何もできないのは悔しすぎる…唇を噛み締め、拳を思いっきり握った。
……ん?
その時気づいた。今、結構な力が入っていたことに。恐らく、毒の痺れが消え始めているのだろう。
しかし、これはチャンスだ。だが、俺はここで何をすることができるのか?魔法初心者にできることなどたかがしれてる。サポート役にすらな…
「スペル・ウォーター」
ここで俺の頭がフル回転し出す。この戦況においてミーナの威嚇はもう続かない。この鉈ももうじき振り下ろされるだろう。
そう考えた瞬間とっさに水の魔法を召喚する。
「悪あがきか?」
「どうかな」
俺は不敵な笑みを浮かべる。もう既に策は考えてある。この絶対的不利な状況で唯一逆転できる方法。
俺の周りに浮かぶ水の球体3つはグリムとその他盗賊の上に向かう。そしてちょうど真上に来た瞬間俺はその形状を維持できなくなった。
魔力が尽きたのではない。コントロールが難しいのだ。
「行け!ミーナ!」
「うん!」
俺は体を倒し、ミーナのサンダーの通り道を作る。それに応えるようにミーナは勢いよく
「レイ!」
勢いよく発射された黄色いレーザー。それは一直線にグリムに向かう。しかし、軽く避けられる。たが、ここからが本番だった。
避けたグリムのその後ろ。盗賊の1人に命中する。すると水で濡れている盗賊たちの体に連鎖的に電撃が走る。
「な、何だと…」
「ルナ!」
「はい!」
一瞬にして感電させられた自分の仲間を見ながら呆然とするグリム。やはり、気絶とまではいかなかったが動きは大分鈍る。
俺はルナから報酬の剣を受け取る。
「悪いなルナ…早めに報酬使わせてもらうよ!」
鞘から純白の刀身があらわになる…がそれ以外何も起こらない…
当然勝ったと思っていた俺はこの事実に驚愕する。
「あ?驚かせやがって」
グリムの横一線の一太刀。それを後ろに後退し、間一髪で避ける。
いくら魔力なるものを入れても自分の中で変化は何も起こっていない。1番自分でよくわかってる。
「どうした?どうした?」
グリムは無邪気な笑みを浮かべ右左上下に大鉈を振り回す。そのスピードとパワーはどんどん上がっていく。最初は何とか反らせていた俺も受けきれなくなり、最後は剣の腹で受けてしまい、後方へ吹き飛ばされる。
「痛ッッ!!」
「こいつら先に片付けておくか」
俺が飛ばされた先にはギルドのテーブルが待ち構えていた。そこへ肩から勢いよくぶつかり、激痛が走った。
しかし、グリムはそんな俺に見向きもせずミーナとルナの方向へ歩いていく。
助けなければいけない。そうは思いながらも体が言うことを聞かない。頭では理解しているのに腕が上がらない。
そんなことを考えている間にも徐々に2人へ近づいていく。
そして本当に何気なく、たまたま剣に目がいった。するとその純白の剣はだんだんと透明に近くなっていった。
「マジかよ…」
そんな剣に絶望を抱いた瞬間…その剣は透明になり、またその輝きを取り戻した。いったい何があったかは分からない。しかし、今は考えている余裕はない。
そして俺はドレインに魔力を込める。
「手こずらせてくれるな〜面倒くせ…まとめて殺してやるよ」
グリムお得意の横へ薙ぎはらうような一撃が2人を襲う…が、それはいとも簡単に止められる。
「くっくっく…何だと…」
ここに来てグリムに初めて焦りの表情が見えた。こめかみに汗をながす。
「グリム…お前の負けだ」
片手で受け止めた大鉈を俺の持っている片手剣で弾きかえす。その大鉈は意外にも軽かった。
「グリム。今なら殺さないでやる」
「ぬかせ!クソ餓鬼が!」
余裕の表情は一気に吹っ飛んだ。グリムは怒りの形相で大鉈を振り回す。だが、今の俺の前にはその重みもスピードも無力とかす。
片手で弾く俺に対し、両手で応戦するグリム。さっきとは立場が反転している。パワーもスピードもすべては俺が上回っている。
その時、「ドクンッ」と言う心臓の音が体全体に響き渡った。だんだんグリムの攻撃は遅くなっていく。感覚が研ぎ澄まされるような感覚に陥った。
次の瞬きの後、世界は白と黒の2色に染まっていた。グリムが攻撃を仕掛けてくるがそれはあくびが出るほど遅すぎる。何か喋っているが遅すぎて聞こえない。
そして、俺の剣と交えるたびに黒の部分が増していく大鉈。生まれて初めての感覚に驚きながらもどこか冷静な部分がある。
そして俺の攻撃…この感覚に入り初めての攻撃は恐らくグリムにとっては一瞬の出来事だっただろう。
俺は自分の感覚の中でゆっくりと右から左へと切り裂く。グリムはそれを受け止めようとするが俺の剣は大鉈の中へと入っていく。
パキンッ!…
次の瞬間にはグリムは自分の裂かれた腹を押さえていた。血が溢れ出し、純白の剣は赤色に染まっていた。
「ーーー…カハッ!」
口から血を吐きバタンと倒れるグリム。それを見た俺は剣を持った腕を天井めがけ、高く高く高く上げた。
俺はここにいる。
そう思いながら俺もバタンと倒れた。




