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第11話〜グリム討伐依頼

起きてみると既に夕方だった。昨日の初クエストでは相当の疲労がたまっていたのだろう。あちこちが筋肉痛になっていた。


「痛ッ!体動かすと…あ…」


ここでやっとルナとの約束を思い出した。昨日の夜は気まずさのあまりついつい依頼の内容を聞いてしまったのだ。


「ヤバっ!急がねーと!」


俺はいつもの制服に着替え、ダルカンの診療所からギルドへと向かった。


日は既に落ち始め、約束の夕方は過ぎ去ろうとしていた。

俺はとりあえず走る。


やっとの事でギルドに着いたが、日は既にくれていた…


「お、遅れてすまん…ん?」


いつもの様にギルドの扉を開ける。しかし、いつもの様な騒がしさはそこにはなかった。

辺りにまばらに人がいるくらいで賑やかではあるが、いつもよりは活気がなかった。


「おーい!レン!遅いよ!」


そんな空間にこだまするミーナの声。いつもより静かなギルド内に響き渡る。


「悪いな」


そんな2人に軽く謝り、席へと座る。


「あの、依頼の件なのですが…」


「ああ」


突然に真剣な表情になり、一枚の依頼書を提示してくるルナ。俺にも緊張が伝わってくる。そして同時にテーブルの上に出された彼女の目と同じ様にグルグルと巻かれた長細い物体。


「何これ?」


「あのコレはドレインという剣です」


「本当に?」


途端に青ざめるミーナ。ルナの「ドレイン」という言葉に反応した様に思えた。


ドレイン…吸収とかそう言った類なのか?でも、剣にそんな名前をつけるなんてどういうことだ?


そんな疑問をよそにミーナは勝手に説明を始めてくれる。


「魔剣ドレイン…大昔に大陸一の鍛冶屋が手がけた神器級の剣」


「はい…その通りです」


ゆっくりと首を縦にふるルナ。


何ことだかさっぱりわからない。ここの世界に来て何度この言葉を思い浮かべただろう?

理解していない俺は置いていかれ2人で話は進められる。


「どうやって手に入れたの?」


「昔、私の祖先は領主の妻だと聞いています。多分その時貰い受けたものかと…」


「またずいぶんなものを貰ったわね」


「はい…私たちには扱える代物ではないので…」


「私でも使えないわ」


俺はのけ者にされたまま黙っているのは好きではない。このまま話を続ける様ならこの依頼は断ってもいいだろう。


「あのな、俺にも教えてくれよ」


さすがに寂しくなった俺はここに来てようやく口を開く。


「あ、ああ、ごめんね!えっとねドレインっていうのはね…」


おもむろにグルグルと巻かれた包帯を取る。

その中から出てきたのは普通の剣。豪華な装飾も神々しいオーラも何も感じはさせなかった。ミーナが鞘から抜くまでは…


「うおぉ!スゲー!」


鞘から抜いた瞬間純白の刀身が現れた。

これなら神器と言われても納得がいく。それ程までに美しい剣だった。

しかし、それを抜いたミーナの顔は青くなってげっそりとしていた。


「だ、大丈夫か?」


「いいえ」


いつもの軽い雰囲気すら感じない。何だか遠くを見ているし口元がかすかに緩んでいる。


「ドユコト?」


「あのですね…このドレインっていう剣はですね、持ち主の魔力を吸うんです」


「でも…」


コレは異常だ…何てったってこんなにげっそりとしているミーナは初めて見た。まあ、会って間もないんだけれども…


「そうよレン…この剣はね普通には使えないの…魔力値が500以上なければ抜くこともできないわ。戦闘に使うのは1000もなければダメね。それでも足りないくらい」


「はぁ」


正直この剣の話をされても分からないし、何でこの剣が厄介なのか知りたいんだが…


「何でこんなにいいものが厄介なんだ?」


「こんなの常識よ!魔力の高いものは剣を持つ必要がない!1000ともなればなおさらよ」


お酒を飲んで少し復活したミーナはいつもの調子で喋り出す。


この世界に来てまだ一週間経ってないんですけど…と言う言葉を飲み込みながら黙って話を聞く。


「この剣には需要がないんです。魔力の高いものは魔道士になり、低いものは剣士となる。しかしコレは対価に大量の魔力を要求し、なおかつ効果は身体能力強化だけだと聞きます」


「なるほど…でも俺は1200あるし大丈夫でしょう」


「「へ?」」


「レン?それ本当?…そんな訳…」


「凄いです!これなら使えますね!」


満面の笑みになるルナ。やっぱり自分の持ってきた報酬に需要が生まれるのがよほど嬉しいのだろう。

しかし、ミーナは浮かない顔だ。自分より魔力値が高いのが悔しいのだろう。


「どうかしたか?」


「いや、何でも…ない。ただ自分より高いのが悔しいだけ…だよ」


歯切れの悪い言葉に違和感を感じながらもここでは気にしてはいなかった。


「じゃあ、俺がグリムを倒せばこれがもらえるんだな?」


「どうかよろしくお願いします!」


席から勢い良くたち、銀色の髪が揺れるほどお辞儀をするルナの姿は藁にもすがる思いだということがよく分かった。

どれだけ辛いことがあったのか、断られ続け、傷ついた日もあっただろう。それでも諦めず呼びかけ続ける。しかし、彼女の武器は高価だか、需要のない剣。しかも相手はグリムだ。誰も受けてはくれなかったのだろう。


彼女はいつしか泣いていた。深くお辞儀をし、依頼書がくしゃくしゃになるまで握りしめている。


俺はこの時に思う。


最初は確かに私怨だけの行動のつもりであったが、今の俺はそれだけじゃない。今後の人生この子の願いを聞かなくて後悔はないのだろうか?いや、いつか振り返ってみるときっと今この時は後悔の一面になるだろう。


「お前の依頼は俺たちが受けた。安心して任せてくれ」


「いいの?レン?」


「個人的にも恨みがあるしな」


その時ここに来て最初に思ったことが頭をよぎる。なぜこんなにも人が少ないのか。ハンターはみんなどこへ行ってしまったのか…


嫌な予感がする。


数の少ないハンター。こんな時間までなぜ帰ってこないのか…


「おい、2人ともいつもいるハンター達はどこへ行った?」


「え?あ〜、みんな南山へホワイトウルフの討伐に行ったよ。知らなかったの?もう何日も前から討伐隊が組まれてたのに」


「しかし、それにしても遅いですね。昼には出かけたのに」


この言葉で嫌な予感はさらに高まる。何日も前から決まっていた掃討作戦。帰ってこないハンター。「怯えて暮らすがいい」


「マジかよ…」


「どうしたのですか?」


俺の表情に疑問を持ったルナが話しかけてくる。だが俺は頭の中のことで手一杯だ。


もし、俺を殺すなら今日という日を奴は逃すだろうか?いや、こんなチャンスは2度と訪れない。「無力さを痛感させる」このことから奴にとってはアウェイで戦うと宣言するようなものだ。


考えれば考えるほど不安は積み上がっていく。もし、ここに来てしまえばこの街は壊滅する…


「ヤバイぞ…」


この時はまだ気づかない。レンの結果に至るまでが遅すぎたこと。何よりもう既に災厄は既に手が届くところまで来ていることに…


「キーッ」とギルドの扉がゆっくりと開く。





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