第10話〜宴の夜に
俺がアイリスに帰る頃にはすでに日は暮れかけていた。遅い馬車に乗ってたった数時間。
しかし歩くと結構な距離になる。
あの煙幕が晴れた時グリムはすでに俺の前には居なかった。30人程いた盗賊たちは俺が見た限り最後にはグリムを含め4人しか残ってはいなかった。
俺は悔しさを噛み締めながらも、死んだ盗賊から金目のものを回収した。
アイリスに帰り、すぐに依頼人の元へ行った。そこには依頼人に拘束されているミーナの姿があった。ミーナは俺を見るなり、縛られた椅子をガタガタと揺らし、涙を浮かべ「良かった」と言った。
そしてその時依頼人から今回のクエストは続行可能か聞いてみたが、答えは「NO」。
実はあのグリムの魔法により破壊された車輪はスペアに取り替えることでこの街まで帰ってこれたが、その時車軸が折れてしまい今日明日では出発できないらしい。
しかし、荷物も命も取られなかったため依頼人のおっさんは大満足。
失敗に終わったが、報酬をくれるという依頼人の申し出を断り、俺の初クエストは失敗に終わった。
「グリム・ハーヴェー…グリム、グリム、グリム、グリム」
怒りの形相で呪いの言葉のようにあいつの名前を呼ぶ俺。その隣で少し笑いながら歩くミーナ。
俺たちはこの屈辱的な結果を報告するために今ギルドへと向かっている市場の道。
「まぁ、命があっただけいいじゃない」
少し笑って今回のクエストの結果にも満足したような表情をしこちらへ向くミーナ。
「グリムってなんだよ!本当に腹立つな〜」
「後で教えてあげるから。あっほらついたよ!」
俺が「グリム、グリム」とブツブツ言っている間に目的地に着く。そして重苦しいため息を吐きギルドへ入る。
「お!今日の主役の登場だ!」
誰かが大きな声で俺の方を見て叫ぶ。すると一斉に視線が俺の方へ向けられる。
その瞬間耳が痛くなるほどの大歓声。
「お前スゲーな!」
「ああ、グリムを追っ払っちまうなんてよ」
そんなことを言いながら俺に近づいてきて、馴れ馴れしく肩を組もうとする腕の軽く避け、この異様な光景に唖然とする。
「ね!レンはこれだけすごいことをしたんだよ」
笑いながら俺の顔を覗き込むミーナ。ギルドの奴らもみんな笑顔だ。
「いや、俺を出しにして楽しみたいだけだろ…これ…」
「そんなことないって!」
他愛もない会話をしながら騒がしいギルドの中をカウンター目指して突き進む俺とミーナ。
「すまん。クエストは失敗した」
「いえいえ、先ほど依頼主から報酬を受け取りました。今回は失敗してしまったが、また今度…と」
「良かったじゃない!」
サリマンはジャラジャラいう小袋を取り出し、いかつい顔で笑いかける。
袋を開けてみると大金貨2枚と金貨3枚銅貨2枚が入っていた。
「なんか中途半端だな…」
「え!?失敗したのにこれは凄いよ!しかもBクラスだよ!」
「いえ、今回のクエストはSランク指定の犯罪者を追い払ったのですから」
Sランクというのもわからない。どれだけのランクがあり、これは何番目なのかを知らないからだ。
頭をかき、騒がしいギルドへと耳を傾ける。
そして、騒がしさがいつもの何倍。酒を飲むみんなの喜び度合いでことの大きさを測る。
「たかが追い払っただけでこれか」
「まあ、そんなこといいから食べましょ!」
朝のように手を引くミーナ。それにつられ、空いている机に座る2人。
「おい、なんでこっち側に座るんだ?」
「いいから、いいから」
笑顔で向かいに座らず俺の隣に座る。
「あ、あのね…その、今日のさ、レン…かっこよか…」
「あのっ!」
頬を赤らめながら恥ずかしそうに何かを言いかけたが、突如入ってきた高い声に遮られた。
「誰だ?」
「あの私…貴方に頼みたいことが…」
俺はこいつを見たことがあった。それは両目を包帯で隠した異様な銀髪のショートの少女。
「あんた、イビルアイよね?」
言葉を遮られたせいか露骨に機嫌の悪くなるミーナはちょっと嫌味を言うみたいにそういった。
「イビルアイ?」
「そう、呪人の一種ね」
「呪人?」
「神様に気に入られて呪いをかけられ、生き残った人に与えられるスキルみたいなものね」
「スキル?」
「種族によっては魔法以外に元々持っている能力があるの。それをスキルっていうのよ」
疑問を解決するために疑問が生まれる。そんな会話に若干イライラしながらも表には出さずに冷静を装い話を聞く。
「あの、よろしいでしょうか?」
2人だけの会話に入り込む隙のなかった彼女はここぞというタイミングで会話に入ってくる。
しかしすかさずそれを打ち切るミーナの声。
「貴方。こんな宴の席で仕事の依頼なんて無粋よ」
「え…ご、ごめんな…さい…」
ミーナの声にシュンとする彼女。目線は下へと向けられ少し唇を噛み締める。そして「ではまた明日にでも…」と言い残しギルドから出て行った。
「ミーナあんな言い方はなかったんじゃないか?」
「へ?私は普通に接してたけど?」
この時初めてビデオカメラがあったらと思った。このあっけらかんとした顔にその映像を見せつけやりたいと。
「それにあの子の依頼は厄介なの。報酬も曖昧だし…」
「で、どんな内容なんだ?」
「知らなくていいわよ。あの子の依頼はギルドで正式に許可されてないの。だからいつもここで受けてくれる人を待ってるの。当然私も声をかけられたことがあるわ」
「へー」
ボーッとしながらイビルアイの少女を考えながら乾いた返事をする。
イビルアイとは種族の名前だろうか?しかし、呪人とも言われていた。神の呪いに打ち勝ち、与えられた能力だと。
「どうしたの?」
「ん?いや、なんか不思議なことばかりだなと」
頭の上に?を浮かべるミーナ。
不思議なことだ。こんなにも時間が経っているのにまだ一週間と経ってはいない。とても長くとても濃い。
「まあいいや、何頼む?」
「いや、何があるかも知らないし」
肘をつき顎を乗せる。その時に気付いた。
頬にあるカサカサとした感触。それを取ってみると赤い粉が机に落ちる。
「血の塊か…」
それにしても騒がしい。淡い光に照らされるギルド内。あらゆる種族が一緒に笑っている。肩を組み、盃を交わしている。
微笑ましい光景だ。前の世界でもなかなか見られない光景だろう。
そんなことを考えている横では、すでにジョッキ2杯を飲んでしまったミーナがいた。
「レンはエールとか頼まないの?」
「エール?酒のことか?」
未成年なのに飲めないと思いながらもなんだかうまそうに見えてくる。
風呂上がりに一杯やったらさぞかし美味いんだろうなとつい思ってしまう。
「俺、風呂入ってくる」
おもむろに席をたち、そんなことを言う俺を見ながら3杯目のエールに手をつけるミーナ。
「え〜、あとで一緒に行こうよ〜」
「何でだよ!」
十分によっているミーナの言葉に鋭くツッコミを入れる。また、あの夜のような思いはしたくない。
「ちぇ〜」
顔を真っ赤にしながら机に伏せるミーナの姿を見てギルドを出る。
「まずは服買わないとな」
そう言いながら、大衆浴場へと向かう。
この時はあんな面倒なことになるなんて俺は思っても見なかった。




