第9話〜初クエスト(後編)
目の前には全体的に細い3m越えの大男。腕は異常なほど長く、その身長で膝より下まで届いている。上半身は裸で下は黒のズボンを履いている。それに周りを取り囲むように配置された山賊風の男たち。目の前の男のおかげで小さく見えるがそれでも結構でかい。
30人くらいに囲まれる馬車。それに怯える依頼人。腰を低くして、大きな大剣を構えるミーナ。武器もなにもなくその場にいるだけの俺。
そして俺たちの状況を見た大きな男はゆっくりとその口を開く。
「俺の名前は【グリム・ハーヴェー】俺の事は知らないことはないだろう?そこで1つ取引だ。ここに荷物を素直に置いていき、命を助けてもらうか。もしくは逆らい両方とられるか。どちらか選べ」
指を一本、二本たて、ニヤリと不気味な笑みを浮かべるグリム。反対の手では背中にかけた剣の柄に手をかける。
それに合わせるように大剣の持つ手に力の入るミーナ。
沈黙のにらみ合いが続く。実際の時間にすれば一瞬なのかもしれない。しかし、この緊張と威圧の中では時間など皆無だ。
「いや、あんた誰だよ」
沈黙を破ったのは俺だった。この世界に来てたった3日目なのに関わりあっていないやつのことなんか知っているわけはない。それにコレは俺の初クエストだ。失敗なんかで終わらせる気はさらさら無い。
「へ〜、俺のこと知らないと?」
「ハンターさん!ここは置いて逃げましょう!」
余裕のある声で自分がまるで上の立場のように振る舞うグリム。俺の言葉を聞き、慌てる依頼人。しかし俺はやめない。
「俺はなこれが初めてのクエストなんだよね。だから邪魔しないで欲しいかな?」
「くっくっく…じゃあ、2番目の道を選ぶということで良いんだな?」
不敵に笑うグリム。イライラの頂点に達している俺の笑顔。両者周りから見ればとてつもなく不気味なことだっただろう。
しかし不意に背中を向くグリム。柄から手を離し代わりに腕を高く上げる。
「やれ」
その瞬間周りの男たちの低い雄叫びが辺りにこだまする。そして最初にサーベルを持った男が俺に向かい斬りかかる。しかし、振り下ろす瞬間に後ろに回り込み容赦なく首をへし折る。
「使えるなこれ」
そう言って拾い上げたのはいまさっき殺したやつのサーベル。とても軽く切れ味もある。
そして次にこっちに来た男を切り捨てる。
依頼主を護るように配置される俺とミーナ。
降りかかる斬撃を軽く受け流し空いた懐に横に線を入れる。血が溢れ、中身がグズグズになって出てくる。
「ははは!はっはっはっはっは!」
あの初日の事を思い出す。血飛沫が空に花火のように打ち上がり、地面に紅い水たまりを作り出していく。臓物が腹から溢れ出し地面へと流れ出す。
「レン!真面目にやって!」
そんなことを言いつつも死体の山を着々と作り上げていくミーナ。俺は怖気付き始めた盗賊どもを自分から殺しにかかる。
肉の切れる感触。骨を砕く音。全てが俺を潤していく。人間なんて殺したことはなかったがもしかしたらコレが1番俺に向いていたのかもしれない。
最初はどう見ても俺たちの劣勢だった。こちらは3人いや、2人に対しあちらは30人以上の群勢。どうやっても普通の世界なら勝てるはずがない。しかしここは違う。
ここでは武器を持つことも殺すこともすべては自由。自己責任だ。それに魔法という弱者の奥の手間である。
1人から3人ぐらいが束になっても相手を殺してはいけないという一線が無いため、こちらは致命傷をドンドン負わせることができる。
「はい、4人目〜。5人目〜」
流れ作業のように斬りつけていく俺。魔法で戦闘不能に追い込んでいくミーナ。
どちらも手を緩めない。
すると盗賊の数が異常に減っていることに気がついた。恐らく多くて半分しか殺していないのだが、残りはグリムと雑魚3人だけになっていた。
「逃げたか?」
サーベルを肩にかけ、帰り血まみれの俺はニッコリと笑いながらグリムの方向へ向き直る。しかしグリムの余裕の表情は崩れない。
そして静かに口を開く
「スペル・ウォーターレイ」
一直線に放たれた2つの水の線は俺、ミーナ、依頼主を瞬時に通り過ぎ馬車の車輪に直撃し、粉々に砕いた。
「あ?何してんだ?」
「くっくっく…逃げられても困るんでね、俺も頭を使ったんだよ」
ゆっくりと剣を取り出すグリム。それは剣というよりもナタに似ている。草を切り分けるような鉈を巨大化させたような剣だ。
「依頼主さんよ、スペアの車輪はあるか?」
「あ、ああ…あるが…」
「じゃあ、ミーナと一緒にそれを取り替えて逃げてくれ。時間は稼ぐ」
「な、何言ってるの!勝てるわけ…」
「早くしろ」
俺はミーナに無理やり指示を通させる。
こいつがどれだけのやつなのかは知らない。
だけどここで引いたら記念すべき初クエが失敗で終わってしまう。
「それだけは避けねーと」
俺が今すべきなのは積荷の安全。依頼人の保護。目の前の敵の殲滅。
「レン!もう終わったよ!」
「ふぁ!?」
「馬車ってそんなに軽いものだっけ」とか思いながらも目の前のやつからは目を離さない。サーベルを握る手に汗を感じる。
「早くアイリスへ行け!」
「なんでよ!2人でやったほうが…」
「俺たちは雇われてるんだ!荷物の安全と依頼人の保護を優先すべきだろ!」
背中を向けたまま柄にもなく怒鳴ってしまった。しかし俺にとってはそれだけ重要なクエストなのだ。
それからは無言だった。馬の鳴き声が聞こえ、馬車がガタガタと音を立てながら遠のいていく。
「さてやろうか」
「くっくっく…」
瞬時に振り下ろされた鉈。目で追うのが、紙一重で避けるのがやっとなほど鋭く早い一撃。ギリギリで避けたもののその威力で吹き飛ばされる。
「マジかよ…」
鉈の威力でバックリ割れた地面を見ながら、ツーっと頬を伝って流れてくる汗…冷や汗…
初めて死の恐怖を感じる一撃だった。普通ならここでは怖気付き相手に許しをこう場面だろう。だがしかし
「テイション上がるぜ…」
心臓の高鳴る音が聞こえる。血流が早くなってくる。最高に生きてるって感じがする。
リーチでは圧倒的に俺のほうが劣っている。だが全然負ける気が起きてこない。
「俺…死んでもいいや…」
「あ?」
気分の高まっている俺に横からの一撃を食らわしてくる。だが、剣を巧みに使いその上を飛び越える。
「お前の攻撃。確かに強力で速い。だが、おお振りすぎる。だがら…」
一気に懐に入り込む。俺は瞬間移動的な速さでは攻撃を繰り出せない。だがらそれを補うように流れるように全てをさばく。
「もらった」
俺の攻撃は完璧だった。相手の懐に入り、いつものようにはらわたを引きずり出す…はずだった…
「キィィン」という金属音と共に俺の一撃は跳ね返される。
「え?」
跳ね返したものでそのまま攻撃してくるグリム。俺は上体を後ろにそらし、かろうじてその一撃をかわす。
グリムが持っていたものは短剣だった。大鉈を振り回していた方とは逆の手で短剣を自分の腕のように扱っている。
するとグリムはニヤリと笑い喋り出す。
「お前生意気だな。決めたぞ。お前は屈辱と無力さを痛感させてから殺すとしよう。だが、ここではまだ準備不足だ。今日は見逃してやるがお前は絶対に殺す。今日の夜かもしれないし、何年も先かもしれないだが必ず殺す。その時まで怯えて暮らすがいい」
「はあ?何言って…」
一瞬にして目の前が真っ暗になる。煙幕だ。
やつは煙幕を使い俺の視界を奪いそのままどこかへと行ってしまった。
「怯えて暮らすがいい」その言葉を残して…




