第8話〜初クエスト(前編)
朝の陽の光が窓を通過して俺のいる部屋へと流れ込んでくる。昨日のように窓辺には2匹の鳥。実に気持ちのいい朝だ。
俺は軽く伸びをし、窓を開け換気をする。
再会の夜から一夜が明けた。あの3人のうちの1人。ベットに横たわり、ダルカンに叫ばれていた少女は亡くなった。死因は蛇の毒によるものだった。もう1人と龍弥の方はただストレスと疲労が溜まっていただけらしい。
しかし、俺はこの結果に後悔はしていない。「もしあの時俺が残っていれば」とかそんな甘いことは考えていない。ここは前の世界とは違うのだ。常に命の危険と隣り合わせだということを早めに理解しなくてはならない。全てが自己責任の世界なのだ。
気になったのは龍弥の話だ。
俺が離れてからの真実の公表。偽物の穂花。
ヒストリア・ヘイムという人物。イレギュラーという単語…
「あー!もう分かんね!」
言葉を短く切り、苛立ってしまっている。頭を強く掻き、自分の考えていることが想像の域から出ていないことが分かっているからだ。
「まぁ、今は考えても仕方ない」
そう開き直り、この世界に来てからずっとお世話になっている制服に袖を通す。
「しかし、前にも思ったけど服買いたいな 」
この服は戦闘がしにくい。1番最初のも、その次のも動きやすい服だったらもう少しあっさりと勝てていると思う。
「よしっ!行くか!」
両膝に喝を入れ、勢いよくベッドから立ち上がる。今日の目標はハンターカードと通行証の回収だ。
扉を開け、ダルカンに一言挨拶をし、それから出て行く。
ーーーいつ来てもこの市場は賑わっている。まるで休息を知らないように。
今回の目的地が見えてきた。他の建物とは一線を引くほど大きな建物。そう、ギルドである。
やはり自分には大きすぎる扉を開き、中へと入る。すぐさまカウンターへと向かう。
一昨日の耳の生えた彼女に合わなければならない。
カウンターのところに肘を乗っけ、チリンと目の前にあるベルを鳴らす。すると出てきたのは…
「何かご用ですかな?」
「!?」
出てきたのは大男だった。耳が生えた少女が出てくると思っていた俺は目の前にいるものを見て驚いた。
そして大男は自分の頬を少し困ったようにかく。
「す、すみません…誰か代わりのものを…」
こんななりで丁寧な口調。そして腰の低い態度。あまりにも見た目とのギャップでさらに驚いてしまう。
「え、いや、いいんだ」
両手を大げさに振り、そうではないことをアピールする。
「そ、そうですか」
「えっと、一昨日発行してもらったハンターカードと通行証を受け取りに来たんだが」
「はい、担当は誰でしょうか?」
「担当?」
「カードの発行に携わったもののことでございます」
俺は眉をひそめ、指でつむじの部分を掻く。
知らないのだ。何も…彼女の名前は知らされてないし、特徴といえば耳が生えているというぐらいで後は全く覚えていない。
「名前は知らないが、耳の生えた少女だ!」
両手を頭に当て、耳が生えていたことをアピールする。しかし、この世界には耳の生えたやつなんて何人もいる。実際街中を歩いているだけでも数え切れないほどだ。
駄目元だった…だが…
「ん?うちには獣人のものは過去にも今も雇っておりません」
「はぁ?」
わけが分からない。じゃあ部外者が俺のカードを作ったってことか?なんで?何のために?
「一応名前を教えてもらえますか?」
「レン。それだけだ」
「分かりました。探してきます」
そういえば今更ながらこいつの名前を思い出した。確かサリマンとか何とか…
サリマンは奥の棚を物色しはじめた。するとすぐに戻ってきて俺の前にカードを提示した。
「はい、ありました。レンさんですね」
「おう、ありがとう」
俺はサリマンから真っ白なプレートを受け取る。少し重いし、プラスチックか何かというよりは水晶に近い肌触りだった。
「レ〜ン!クエスト行こ!」
昼間から大きな声をあげて、ギルドの中に入ってきたのはミーナだった。彼女はクリーム色の髪をゆらゆらと左右に揺らし、手を振りながら笑顔でこちらへ歩み寄ってくる。
周囲は彼女に釘付けだ。
もともとものすごい美少女だ。それだけでも注目を集めることができるが、今回はそれプラスらしい。あちこちから「ずっとソロだったのに」とか「くそっ!羨ましい!」何とかいう妬みの声まで聞こえてきた。
って…え?俺に言ってんの!?
そんな周囲の目にも言葉も気にせず俺の方へ歩いてくる。
「ねぇなに行く?」
手を後ろに回し、座っている俺に対して見下ろす感じで見てくる。
「いや、何があるか分からないし…」
「じゃあ!見に行こう!」
そう言って無理やり俺の手を取るミーナ。そして俺はその勢いで椅子を立ち上がらせられる。そして、手を握ったまま掲示板のようなところへと連れて行かれる。
その時の周りの目が痛い…
「この中から好きなのを選んで!」
そう言ってミーナが指さしたのは沢山の紙が貼られた掲示板。そこには依頼の内容を示すであろう文が書かれ、中にはモンスターの絵付きのものまである。
中にはあの白いケサランパサランも…
すると横に1人の少女が立っていた。身長はミーナより少し小さい銀色の髪のショートヘアーの少女。その子が1枚の人の顔が描かれた紙を握り、こちらを見ていた。
少し異様なのはその子が両目に包帯をぐるぐると巻いているのにも関わらずこちらを見ていると感じるところだ。
何かを言いたそうにしているが、何も言わない。上げられたては俺に触れるかと思えば触れない。ちょっとよくわからない。
しかし、それはとても短い間だった。すぐに正面を向いてしまい、俺には目もくれなくなった。
まぁ、いいか
「さて、どれにしようかな…まぁ、読めないんだけど…」
「あ、そっか!」
「じゃあ、ランダムで」
そう言い、目を瞑る。右手をゆっくりと上げ、掲示板と依頼書の位置を確認する。そして
「これ!」
勢いよく取ったのは、文字の多い依頼書。箱の中に入っている剣と、どこかの街を書いたもののようだ。
「あ、コレって護衛の依頼だね」
「護衛?何かを守るってことか?」
「そう!コレは今度隣町で行われる武器市場で出品する剣を守るって依頼ね」
「あ〜」
俺はポンッと手のひらを叩き納得する。
「受付ってどうするんだ?」
「あ、コレはね討伐クエストとは違って依頼書を渡して依頼主に連絡を取って貰えばいいの」
俺たちはそうして依頼書をサリマンに渡しに行く。
「かしこまりました。ハンターカードの提示をお願いします」
俺は今さっき受け取った白のカードを出す。それに対しミーナが出したカードは…
「はい!」
「ん!?」
ゴールド!金!俺のものがみすぼらしく見えるほどゴージャスな金色のカードだ。それを見るなり、サリマンは「うん」と頷き、さらに続ける。
「ではパーティの登録を行ってください」
するとミーナが何かを俺とミーナのハンターカードを見ながら書き出した。それが終わると2人分の腕輪を支給された。
「これをつけて、今から伝える場所まで行ってください」
「「はい」」
それから場所を指定されそこに行くことにする。
ーーー左右を森で囲まれた一本の細い道。今乗っている馬車が2台も通れば限界かもしれないほどだ。
ガタガタと揺れる馬車の荷台。俺の目と鼻の先には鞘に納められた剣が箱の中に入っている。
俺は柱の部分に頭を乗せリラックスしていると車輪が小石につまずき大きく揺れる。そして頭を思いっきり打って苛立たせる。
今から行く街、隣町と言っていたが馬車で2日と少しかかるらしい。だいたいこの馬車も車と比べれば相当遅い。道もしっかり整備はされておらず乗り心地はいいとは言えない。
しかし、金を稼ぐには苦労がつきものだ。これが耐えれなければこの世界では生きてはいけない。
あのアイリスという街は、宿場町としても有名だが、その他武器、防具ともに品質が良いという。さらにお財布に優しい時たものだ。
人気も出る。
それと今はよだれを垂らしながら寝ているミーナがこの馬車に入り、教えてくれたことがある。
このクエストは俺1人では受けられないそうだ。このクエストはBクラス。しかし、俺のカードはCクラス。同じクラスでないと受けられないそうだ。だからこのようなクエストを受ける時は誰かランクの高いパーティに入れてもらうくらいしかできないようだ。
白はCの証、銅はBの証、銀はAの証、金はSの証、黒はSSクラスのカードだそうだ。
「こんなにもランクが違うのか」
その時ふと思った。
なんでミーナは俺と組んだんだ?この国には俺以上のやつなんて山ほどいるだろうに、しかも彼女は人気がないわけじゃない。むしろありすぎるくらいだ。
「考えても仕方がないか」
そう思い、目をつぶった瞬間。馬車が急停止して、俺たちは慣性の法則に従い前の方へと飛ばされた。
「え?なに?」
片手で垂れたよだれを拭きながらムクッとミーナが起き上がった。
「いや、分からない」
2人は状況を知るべく馬車の外へと飛び出す。
すると目の前にはニタニタと笑いながら様々な武器を持っている集団があった。その格好は一目見ただけでわかるような山賊ファッションで布が少なかった。
「な、なにこれ?どういう状況なの?」
「んなこと言われてもな〜」
2人は状況を把握すべく馬車の前側へと走る。
するとそこには大きな男。周りのやつもそこそこ高いやつらだが、そいつはその中でも飛び切り高く、腕が異常に長い男が立っていた。




