ⅢーⅣ
「嬉しいですよね。こんなにもたくさん」
夏海は嬉しそうに微笑んでいた。唯織さんも、心から嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
二人は黙々とペンを動かし続けていた。
夏海はピンクの布に、唯織さんは水色の布に何かを描き続けている。
その様子を、俺と横島さんは見つめてしまっていた。その様子に、俺と横島さんは見惚れてしまっていた。
こう頑張ってる夏海の姿は、何よりも素敵で可愛くて……。二人とも頑張ってるから、こんなにも人気なんだろうね。
「これ、ライブでどのように使用するのですか?」
暫く沈黙が続いたが、横島さんが口を開いた。その質問は、確かに俺も思うことだ。
鉢巻のように頭に巻くとしか思えない。しかしそれじゃあ、どう考えたってショコラティエじゃないよな。どう使うんだろうな……。
「チョコレートのリボンですよ。どのメニューもサイズは同じですから、このリボンで長さはピッタリの筈です」
唯織さんが唇に人差し指を当て、明らかに秘密だと伝えようとしている。
しかし声を出さなかったが為に、夏海には伝わらなかったらしい。
「どうゆうことですか? チョコレートのリボンであることは分かっていますよ。あたしもチョコレートを購入し、はがきも送っていますもん。しかし、それをどのようにライブで使用するのかが分からないのです」
おお、さすがは横島さん。つまりこのはがきの中に、横島さんが送ったものも入っているということか。
でも知ってるってことは、公開してるってこと。じゃあ、唯織さんはどうゆうことなのだろう。
「それはですね」
「秘密ですっ!」
答えようとする夏海の言葉を遮り、唯織さんは叫んだのだ。
やっぱり秘密だったんだね。そして声を出さなければ夏海には伝わらないことにも気付いたんだね。
「ライブ本番でのお楽しみですよ。もう、なーちゃんったら。皆を驚かせるんだって、二人で一生懸命考えたものでしょう? 言おうとしないで下さいよ」
サプライズ的なのってことかな? そしてそれを夏海が言おうとしてしまうから、唯織さんが叫ぶ破目になったと。
「ヒントくらいならいいですよ。『ばれんたいんでーこんにちは』です。勿論ご存知でしょう?」
多分唯織さんが言ったのは、多分曲名だと思う。
聞いたこともなくはない。だけど、あまり知らない曲だと思う。だって音楽が全然思い浮かばないもん。
「その曲中に何かを行うのでしょうか。ライブまで楽しみにしていますっ☆」
横島さんは、微笑んだのではなく笑った。




