ⅢーⅤ
いつも微笑んでいる横島さんが、笑顔に変わったんだ。
その姿を見ていると、同級生の異性ということを急に感じてしまった。学校の女子が、俺の家にいるのだ。
下手したら、付き合ってるんじゃね? みたいな噂がたっても可笑しくないことだろう。
まあ多分、それが夏海の耳に届けば一瞬で消されるだろうけどね。
それだけは全力で阻止したい。
高校まで来て、俺は夏海のものだ宣言されても困る。そんなこともうないとは思うけど、気を付けておかないとなんないよね。
「あれ? 冬樹さん、どうかしたのでしょうか」
見つめている俺に気付いたようで、横島さんは不思議そうに問い掛けて来た。
どうしよう。滅茶苦茶恥ずかしい。顔が赤くなっているのが、もう自分でも分かるくらいだった。なんか、赤くなってるって思ったらさらに恥ずかしくなってくる。
「お兄ちゃん、もしかして浮気ですか? まさかそんなことはないと思いますけど、万が一浮気をしたときにはどうなるか分かってますよね」
俺と横島さんの様子が、夏海に気付かれてしまったらしい。どうにかして誤魔化さなければ。
そして俺は、かなり雑な誤魔化し方を実行することにする。
「そんな訳ないじゃないか。はっはっは、俺は夏海だけが大好きだよ。浮気なんてしない、余計な心配さ。はっはっは」
かなり適当で棒読みな台詞だったが、多分これで大丈夫だと信じている。
まあ少なくとも、見つめていたことは誤魔化せる。夏海の方に行けるから、横島さんに答えなくて済むのだろう。
「もっと心を込めて言って下さい。お兄ちゃん、どうして本当の気持ちを素直に言えないのですか? 夏海はいくらでも言えますよ。大好きです、お兄ちゃん結婚しましょーうっ!」
どうにか正しい道に戻してはあげられないものか。
まあ多分、俺の力じゃ無理なんだろうけど。他の人の力も借りて、いつか普通の妹に戻してあげないとだよね。
「なーちゃん、静かにして下さい。作業を続行しましょう」
俺が困っているのを察してくれたのか、唯織さんがそんな親切なことを言ってくれる。
珍しいな、どうしたんだろう。あの唯織さんが俺のことを助けてくれる、なんてさ。それとも偶然なのかな? 本気で作業を急がないとヤバいパターンだとかさ。
「あっはい、ごめんなさい。お兄ちゃんが素直にならないと、夏海は他の人に盗られちゃいますよ? こんなにも夏海好きの人はいるんですから」
ウィンクをして、夏海は作業に戻ってしまう。少しきゅんとしてしまったのは、気のせいだと信じている。




