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午後8時

毎週木曜日の夜更新でいきます!

「その、もう時間遅いから、良かったら‥」

「わぁ!まじ?めっちゃ嬉しい!嬉しすぎて死にそう」

「死ぬ!?」

「あはははっ」

豪快に笑いながらお盆を受け取る。

「わぁクッキーに、ホットミルクまで!?いいの?こんなに至れり尽くせり」

「まぁ」

「でも、ただの塾生徒だよ?」

本当は今すぐにでも食べたそうなのに、こちらの顔色を伺ってくる。

「学校一緒だし、特別サービス的な」

自分で言っておいてなんだ特別って!

こっちが意識してる見たいじゃないか‥。

佐々木もやっぱり目を見開いていたけれど

「じゃあ遠慮なく」

そう言って幸せそうにクッキーを口に入れる姿を見ていたら、さっきの言葉なんてどうでもよくなった。

「私さぁ本当数学がダメダメで」

「‥そうみたい、ですね?」

「ここに入れたのは他の科目がめちゃ良かったからと割と先生と仲良いしお行儀いいから推薦でさ」

「うん」

「でもやっぱり数学がついていけなくなるなって思って、他の塾だと色々な科目も勉強しなきゃいけなくなるから嫌で。それに自分のペースで進めたくてこの塾を選んだの」

「‥そっか」

「そしたらまさかの瀬戸がいてこんなふうにお菓子までもらえちゃうなんてね!私ってほんと運がいい」

「‥‥」

なんか、佐々木も結構大変だな。

どうやって反応したらいいんだろう。

「待って、これほんと美味しい!」

また目の前でコロコロ表情を変える佐々木に思考を中断させられる。

「でもお店のとかとはちょっと質感が違うっていうか‥優しい味。作った人の性格が出てるんだろうなぁ」

「ふふっ。ありがとう」

「これ作ったのはお母さん?」

「はぁはぁはぁはぁ」

だめだ、動悸が止まらない。

「瀬戸?」

「ご、め‥ん」

「え?」

「やめて、喋らないで近寄らないでっ!!」

「え‥」

「ひと、りにし‥てっ」

「うん、ごめんっ」

荷物をまとめる佐々木の背中が歪む。

「はぁはぁはぁはぁ」

苦しい息の中で喘ぎながら、意識はフェードアウトしていった。



「‥ん」

「ああ良かった、おはよう蒼」

「父さん」

どのくらい気を失っていたのだろうか。

「また発作起きちゃったな。因みに1、2分で意識は取り戻したんだが、その後すぐ眠っちゃって」

「そう、だったんだ。ってことは今朝?何時っ?学校は!?」

「今日はもう休めばいい。今は9時過ぎだけど、まだちょっと辛いだろ?」

「‥うん、でも引きずってちゃダメだし‥」

「いや、父さんも心配なんだ。1日くらいは目が届くところにいてくれ」

「わかった」

「それと、今日は塾を閉めるんだけど、佐々木さんだけは来られるようにするから。辛いかもだけどちゃんと自分で説明しなさい。彼女すごく心配していたよ」

「うん‥」

確かに目の前でいきなり人が倒れたらトラウマになってしまうだろうな。

申し訳ないことをしたと言う後悔が募る。

けれどまだ先程の恐怖が残っていて、正直言って彼女には会いたくない。

「まぁまずはゆっくり休め」

「ありがとう」





呼び起こされたトラウマを仕舞うように…

そうだらだらとテレビを見てやたら明るいお笑い芸人の声を聞いて、しばらくは何をしているのかよくわからなくなるような時間が続いた。

お昼は…たしかカップラーメン。

「蒼、そろそろ学校終わる時間だから」

「うん…」

「佐々木さん来るから、下行きな」

「ん、わかった…」

一歩一歩、できるだけゆっくり降りていく。

「あ、瀬戸!大丈夫だった?元気になった!?」

「うん、このとおり…」

「それ見てだれが『あぁ〜元気になってよかったぁ』って言えんのよ!マジで…無理しないでね?」

「うん」

あっちに恐怖を植え付けて申し訳なかったのに、なんて丁寧に心配してくれるんだろう。

こういう人……

「好きになっちゃじゃんか…」

「ん?なんかいった?」

「あ、いや…なんでもないなんでもない!」

やばい、声にでてた…。

「それ、で…?どうしてあんなふうになっちゃったの?お父さんにはトラウマが…って聞いたんだけど」 

「うん。そのことについて話したいけど…これからする話は僕も勿論嫌だし佐々木も気持ちのいい話ではないと思う。それでも、知りたい?」

「…知りたい、教えて欲しい。瀬戸にまた、あんなふうになってほしくないからっ」

純粋な光を湛えた瞳に魅入られる。

佐々木は知らなかった。

悪くない。

…それなのに、それなのに。

まだ一緒に居ようとしてくれるんだ。

出会ったばかりでこんなことになって、切り捨てても仕方ないような相手を、まだ気にしてくれるんだ。

「ありがとう。本当にありがとう」

そんな幼稚な言葉で表すには勿体ない感情なのに、それしか言葉が出てこない。

「ごめん、長くなるからクッキーとってくるね」

「わーい、くっきー!」

無邪気に笑う真っすぐで可愛い少女から目が離せない。

僕は多分…この子が「好き」なんだ。

もちろん、友達として!!

誰にともなくそんな言い訳をしてクッキーを持っていく。

トラウマを話す苦しさも、もうなんてことない。

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