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佐々木sideーー

aoiを見つけたのは、本当に偶然だった。

カーソルを合わせて声が流れてきた途端、この人が好きだと、もっと聞きたいと、一瞬で虜にされたんだ。





愛想笑いって何?

そんなことわからない。生まれた時から自然に笑顔を振り撒いていた。

私が笑うと周囲も笑う。可愛がってくれる。

私はとりあえず、素直で、従順で、可愛い存在になればいい。

そうしたいのかとか何にもわからなかったけど、それが私の「役割」だった。

ーーけど、それだけじゃいけないとわかってきた。

笑っていては逆にいけない時もあるし、周りに合わせて気の利いたこととか、なんかよくわからない診断とか、日本に住んでいるのに韓国の話とかしないと。

小学校高学年くらいから、なんか周りに置いてかれたように感じることが多くなった。

幸い母がフランス人で父が美形の日本人という遺伝子から綺麗な顔立ちで産まれられたから、いじめとかの心配はなかったけど‥。

「なんか、疲れたなぁ‥」

新しい環境に不慣れで、めんどくさいこともたくさんで、

こう思ってしまった中1の時の話。



食後か‥Youtubeでもみよ。

私は『ワニのわーちゃん』というアカウントを使っている。

好きなもの、とかよくわからないけれど、とにかく食べることが好きなのだけは自信を持って言える。

だから、たまに大食い系ユーチューバーやスイーツの紹介にコメントやいいねを押していた。

YouTubeは、好きな物を見て、好きに楽しんで、ショート動画だと時間が溶けちゃうけど、本当に私にとって自由にのびのびとできる大事なコンテンツだ。

カーソルをクルクル回して遊んでると、おばあちゃんから電話が来た。

「もしもし?」

「まいちゃん、元気していますか?」

この父方のおばあちゃんは、世間一般にいいう「味噌汁の冷めない距離」に住んでいるが、会えなかった日が続くとこうして電話をくれる。

「うん、おばあちゃんこそ元気?」

「わたしゃもう元気が有り余って困るくらいですよ。今日の電話はねぇ、今度ハンカチ作ってあげるって言ってたでしょう?」

「うん、あ!デザイン決まったの?」

「そうなんですよ。小花の刺繍を隅に入れようと思うんだけど、明日図面を持っていくので、どの色がいいか考えておいてください。それじゃあおやすみ」

「ありがとう!おやすみ」

おばあちゃんは、自分の好みを押し付けないけれどこちらが欲しいと言えばなんでも作ってくれる。

それに、落ち着いた性格、シャンとのびた背筋、人生の先輩として見習いたいことばかりで、そんな人の声を聞けて少し元気が出た。

「裁縫かぁ、私にもできるかな」

検索欄に裁縫、と普段は全く関心を持たないワードを入れてみる。

中学生になったのだから、新しい趣味を持ってみるのも悪くない。

しばらくスクロールしたけど、なんかやたらオシャレなやつか激渋なおばあちゃんのしかないなぁ。

やっぱ私に裁縫は向いてないのかもしれないな。

『自分に裁縫はできないんじゃないかと思っている皆さん。今日は、そんな方に向けて簡単な手編みを紹介します』

心の声を読まれたのかと思うくらいジャストなタイミングで、優しい声が流れてきた。

まるで春の小川みたいにクリアで、心地よい響き。

アイコンには、黒字に白で「aoi」とあるだけ。

シンプルで、はっきりしたその色合いに惹かれて、気づけば全画面にして動画を再生していた。

『ポイントは、手にきつすぎず、ゆるすぎず巻くことです。圧迫しないように気をつけて』

ポーッとしばらく聞いていたけれど、せっかくなら私もやってみようと思い立った。

「ママ、毛糸ない?」

「毛糸?この間お義母さんが持ってきたくれたものがあるよ」

「それ以外ないの?」

「ないねー」

おばあちゃんからもらった毛糸でおばあちゃんにマフラーをあげるってどうなんだろうと思ったけれど、きっとないよりはずっといい。

「それちょうだい」



毛糸は、淡い桜色の優しいグラデーションで、編むこちらがワクワクしてきた。

もう一度最初に戻って再生する。


「む、難しい‥」

aoiさんのはあんなに綺麗なのに、私のはくるんと不恰好に丸まってしまった。

『もし失敗してしまったら、短く切ってコースターにしても可愛いですよ』

画面の向こうで微笑んでいるのが伝わる柔らかい声で言われ、ほっと安心する。

『それでは皆様、いい夢を』

「おやすみなさい」

思わずそう返してから時計を見ると、結構いい時間だ。

そろそろ寝よう。





久しぶりに思い出した、私の推し様との出会いだ。

それから毎回「投稿ありがとうございます」と動画に投稿し続け、aoi様の投稿を楽しみに生きている。

趣味とはっきり言えるものができて、推しもできて、裁縫も上達して、本当に感謝しかない。

そんな、そんな推し様の声を聞き間違えるわけがない!!

「瀬戸蒼です」

aoi様‥?ああ、aoi様だ!!

そして家も近くて、入塾した塾の息子は蒼様‥。

会えたらいいとは思っていたけど、

「やっと会えた‥」

推しに毎日会える、幸せな生活の幕開けだ!!!

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