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佐々木と登校

「あ、えと、その、これは…小林!」

僕が意味のない言葉を呟いているあいだにも

「おは!良かったら一緒に行く?」

「はい、お供させていただきます」

登校人数が一人増えていた!?

「あ、大丈夫だった?瀬戸」

「あ、うん。勿論」

ここで否定したら2人で行きたかったみたいでキモい。



「それでそこのケーキ屋さんがさぁ〜」

「なるほど」

佐々木の前でつり革につかまっている僕らに

「ごめん、座っちゃってよかったの?」

と佐々木。

「全然大丈夫」

なんか佐々木って、気とか使うんだな…。

2人の会話にうまく入れない気まずさを誤魔化そうと、電車の広告に目をやる。

宝石の売買から不動産の宣伝に目を移したところで

「お出口は〜左側で〜す」

という車掌さんの声。

普段のアナウンスがこんなにも温かいものだったなんて…!



懸念していたように学校の駅で同級生と会うことはなかったけれど、校舎についてからもそれは成り行きで3人で行くことになる。

「おはー佐々木」

「おはよ、まい!!」

うん、おはよ!と笑顔で返す佐々木を見て、僕たちの存在はなんも気にされていなくて、完全に佐々木とは別物だと考えられているのだと痛感する。

「これじゃぁ別に慌てることなんてなかったじゃないか‥‥」

安心感に息を吐き出しながら、自意識過剰という四文字がふと頭に浮かぶ。

ぶわっと顔に血が集まって行くような感覚に思わず手で覆ってしまった。

つんつん

佐々木が僕をつついている

「今度あったらまた一緒にこよーね」

甘い香りと共にこちらを振り向いて佐々木は言った。

教室の喧騒にかき消されてあまり聞こえなかったけど、言った。

ーーーそんなこと言われたら、意識しちゃうじゃんか‥。

自然と佐々木を目で追いかけているのに僕が気がつくのは、まだもう少し後のこと。



「キリーつ、れい!さようならぁ」

HRが終わった途端、ポップコーンが弾け飛ぶみたいな騒がしさに包まれる。

「蒼、祐希、この後ゲーセンでも行かない?記念すべき第一回の遊びで、プリクラでも撮りに〜」

「男3人で、プリクラ‥?」

「男だけで入れるんだっけ?」

「場所によってはね」

だいぶ面白そうだが、

「ごめん、今日バイトあってさ‥。」

「あーそっか。オーケー!ちなみにどこの店で働いてるの?」

「親が、塾やってて」

「塾だと冷やかしいけないな〜」

「そもそもこないでよ」

塾のうちの子というのも、ただでさえあまり面白いことを言える自信がない僕の印象を固くして僕を追い込んだ。

でもそんなの気にしないまことは、本当に優しい。

「じゃ」

「うん、また明日〜」

そう、塾には同級生は来れない、来れないんだけど‥


「いるんだなぁ‥」

「?あぁお帰りなさい?」

自分の家に帰ってきて佐々木におかえりを言われるとか、意味わからなすぎる状況である。

「ただいま‥?っそれは何を食べている‥んですか?」

「これ?ぴっちょだよ!一個いる?」

有名な個包装のグミを差し出してくる。

「じゃあ、遠慮なく‥」

うちはあまりグミなどを食べないので、ものすごく珍しいものだ。

包みを破かないように慎重に剥がして口に入れる。

ふわっと甘い葡萄の味が香った。

「‥もしかして、朝ぴっちょ食べてた?」

「うぇ!?ばれた‥」

あの朝のドキッとを返せ!

そう喉元まででかかったが、それを口に出すと僕が変態兼迷惑クレーマーみたいになってしまう。

「いつも食べてるんですか?」

「いやぁ一日十こまでにしてるから‥」

「それ制限の意味ある!?」

よくそれでこのプロポーションを維持できるわけだ。

「あ、ここ座っていいよ」

「どうもです」

僕の家のはずなのに完全に佐々木のペースに乗せられている。

おかしい。

佐々木の隣の椅子に座り、若干遠くへ離しながら問題を覗き見る。

3x+5x=

なぜこんな初歩の初歩を高校生にもなってやっているのか。

不思議になって見ていると、佐々木が威勢よく答えを書いた。

3x+5x=6x

え??自信だけはすごかったけど、え??

「8xじゃない‥?」

「え??あ、‥うーん。あ、ほんとだ!!」

そんなに悩む!?ダメだ、想像以上に佐々木はバカかもしれない。

「それでよく受かりましたね‥?」

「態度は良かったし後文系だから、推薦でね!!」

「推薦もらえるんだ‥」

「うーん、今日はここを終わらせないとなんだよね‥」

「8時半まで空いてますよ」

「ほんと?じゃあ残ってく!」

「うん」

佐々木は想像以上におバカでも、やる気はあるみたいだ。





部屋に戻って宿題をやると、もう7時50分を針が回っていた。

「あ、父さん。佐々木さんは8時半まで残ってくみたい」

「おおーそうか。‥偽名やめたんだな」

「僕にバレちゃったからね‥。」

「なんていうか‥変わった子だよな」

「うん‥」

「あっそうだ!クッキーでも持っていってあげたらどうだ?」

気分を切り替えるみたいに父が言う。

確かに普段からこの時間まで残っている人はあまりいないし、佐々木にも休憩が必要だろう。

「うん、わかった。」

レンジでチンしてホットミルクを作り、お皿に数枚のクッキーを乗せて階段を降りる。

「いい匂い‥!!」

こちらをじっと見つめる佐々木からちょっとだけ目を逸らした。

なんだろう、最近僕の心臓がおかしい。

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