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家は塾

「ふぁぁあ〜。午前で終わってよかったぁ。もう明日から数学あるとか、キツいねぇ。」

「ほんとだね」

「俺、勉強、嫌い‥」

「蒼は?勉強すき?」

「んー、嫌いじゃないかな」

「何その焦らした告白への回答みたいなの〜」

「ははっ‥でもマジで、みんながいうほど嫌いでもないしオタク級に好きにも絶対になれない」

「あ〜、わかる〜〜」

うちの学校は何駅か帰れる最寄り駅があって、方面によって利用する駅が違う。

仲良くなったまことも田淵も、家が同じ方面だったのは幸運だ。

「じゃ、俺たちあっちだから」

「ん、また明日な!」

池袋で山手線に乗り換えて帰る。

「次はー、大塚ー」

「よいしょっと」

あれ?さっきと同じ視線を感じるような‥。気のせいか。




「ただいまー」

「おかえり!どうだ?新しい学校は。友達できたか!?」

「あーうん。席運がめっちゃよかった」

「よかったな!!今度連れてこい」

「お、おお。急だな、流石に」

「あっはははそうか。じゃあ連れてこい!」

「話聞いてたか!?」

親父は子供の頃からずっと丸坊主だ。

筋トレが趣味なため見た目は相当いかついが、そんな見た目からは想像できないことに家は個人塾だ。

塾というか、自習をしつつ質問に親父が答えてくれて、問題が欲しいと言ったら作ってくれるところで、中学生から高校生の大学受験を専門としている。

「今日から一人お前と同い年の新入生がいるから、もし見かけたら優しくしてやれよ」

「うん」

一階が塾。二階が自宅。

そして塾の名が‥「真面目に受験(ガチスタディ)」!!

僕の名前は母さんがつけてくれたのでよかったと、心から思う‥。




部屋に入ってベッドに倒れ込み、スマホのナインを開く。

ナインは今幅広く使われているコミュニケーションツールだ。

〈これでいい?〉

〈おう、さんきゅ〉

〈早速グループナイン作れてよかったよ〜〉

〈明日、弁当一緒に食べよう?〉

〈ーなんていうか、結構田淵って繊細だよな〉

〈わかる〜。まぁとりあえず流れで食べようとかじゃないんだね〜〉

〈っそんなのはいいだろ!〉

〈はいはい、可愛い可愛い〉

〈あ゛ーーーー〉

少し話して彼らのことがわかってきた。

田淵は結構繊細で可愛いところがあり、見た目こそ怖いが性格は人懐っこい。

まことは天然でゆるふわな雰囲気だけど煽ったりする癖もあって、多分怒らせると一番怖いタイプの人間。

男子にだってグループはあるのだ。これから仲良くしていけるだろう。

「蒼ー、お線香あげなくていいのか?」

「あ、うん。今行く」



僕の部屋の隣がリビングで、母の仏壇が置いてある。

「高校一年生になりました。新しい環境で頑張るよ」

写真の中で満面の笑みを浮かべている母に挨拶して、供え物のクッキーを取りにいく。

「父さん、僕のクッキーってどこ?」

「ああ、そこの棚。それにしてもほんとうまいよなぁ」

お菓子作りが好きで、その中でもクッキーは本当によく焼く。

‥‥生前は母さんも、これが大好きだったな。

「蒼ー、お供えしたら今日もバイトしてくれるか?」

「うん」

「じゃあ下で待ってるからなぁ」

「はいはい」

父の塾では、僕はよくバイトとして働かせられている。

もちろんお小遣いも追加でもらえるし、良いバイト先だと思う。



塾に降りて行くと父が机を拭いていた。

「そうだ、バイトの前に飯食べてろ。俺はもう食べたから」

「はーい、卵あるっけ?」

「あるんじゃないか?」

「じゃ、オムライスにするよ」

「うん」

キッチンはもはや僕のパーソナルスペースで、使いやすく整理してある。

卵をとろとろに炒めて、チキンライスを包んで‥完成!

「あむっ。ん〜」

食事は僕のこの上ない至福だ。

何があっても美味しいご飯だけは死守したい。

だから料理も頑張っている。




「今日は新しい子が来るって言っただろ?だから特別綺麗にしてくれ」

「はーい」

机を拭き、椅子を並べ直し、床を掃いて、拭いて。

単純な作業で時間が溶けて行く感覚は嫌いじゃない。



「よし、そんだけ綺麗になればいいぞ。ありがとう。あーそういえば新しく来る子さ‥」

「うん?」

「名前秘匿したいんだと。」

「‥へ?」

「それは蒼にも、らしくってさ。その子が来たらなんて呼んで欲しいか聞いてあげてくれ」

「どういう‥こと?」

カランカラン

ドアに取り付けてある、涼しげな鐘が鳴った。

「どうぞ」

「お邪魔します」

そう言って入ってきたのは、髪の毛をお団子に整えて、メガネにマスクで顔のほとんどは見えないけれどなんとなく地味ない印象を持つ子だった。

服装は黒のパーカーに黒い細身のズボン。

不織布の白のマスクのサイズが合ってなくて、少し不恰好な印象を覚える。

まじまじと見つめていたら、メガネの奥の漆黒の瞳とばっちり目があってしまった。

「あー、えっと」

「体験入塾に来ました。クロコダイルと呼んでください」

「いや、はい‥?」

「だから、クロコダイルと呼んでください」

名前の秘匿の方向性が想像と違うっ!!

「よろしく、クロコダイルさん‥?」

「はい、よろしくです、瀬戸蒼さん」

父が名前を話したのだろうか。

どうやら普通の入塾生とは一味違う子に出会ってしまったようだ‥。

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