⑴ 漠然とした不安
会社で進めているプロジェクトは順調に進んでいる。
もう、チーム・ストロベリーは必要ないんじゃないかと思う所だ。
そして社員寮での合宿も終え、我々は通常の生活に戻った。
自宅へ帰ると明里は笑顔で迎えてくれる。
既に明里の頭の中では正妻のようだ。
その時は、何もかもが順調だった。
・・・・・・
ある日、突然明里は400万円の現金を私に差し出した。
明里の母親が再婚した時、明里が独立する為、母親から渡されたお金があった。
しかし、母親の再婚相手は多額の借金を抱えており、母親はその事を知らない。
明里はそのお金で義父の借金を返済した。
その時に出したお金を、義父は返してきたのであった。
そもそも義父の借金とは、友人の保証人になった事である。
友人の事業が失敗し、抱えた負債の返済義務が義父に回って来てしまった。
しかしここにきて、その友人の事業が成功し、迷惑かけてしまった義父に償ったお金である。
明里が私に説明した。
「おじさんが払って頂いた大学の入学金と1年間の学費。それと、この2年間の私の生活費と、私が頂いたお小遣いです。お返しさせて下さい」
「いや、こんな事してもらわなくても」
「このお金は義父から返して頂いたお金の1部ですので、今後の学費は私が支払えます。それと、今後は生活費もお支払いします」
「生活費っていっても、明里には食事の支度や片付け等してもらってるし」
「いえ、私はおじさんと、対等な立場で結婚したいのです」
その時の私は、明里の言った『対等な立場』という言葉を軽く捉えていたようだ。
まあ、明里の気持ちも解る。
明里がそこまで言うなら。
という事で、私は明里の申し出を受け入れる事にした。
しかし、私はその時、漠然とした不安を感じていた。
それは、何か大きくこの先が狂い始める予感だった。
・・・・・・
年を越えたある日、私は上司である第3研の部長に呼び出された。
東北に新規研究所を設立していたのは知っていたが、その所長に私の上司である部長が任命された。
そして部長から、私に来て欲しいとの事である。
今の私がいるのは部長のおかげである。
この話、簡単に断る訳にはいかない。
赴任期間は4年間との事。
明里が大学を卒業するまでだ。
苦しい選択であったが、部長の申し出を受ける事にした。
私は碧を呼び出し、この事を伝え、碧に頼んだ。
「このチーム・ストロベリーを、碧が引き継いでほしい」
そう、何かあった時、碧に引き継いでもらう事を考えていた。
その事もあって、チームネームをストロベリーにした。
碧は私の目を見て、ゆっくりと首を縦に振ってくれた。
そして自宅へ戻り、この事を明里に伝えた。
明里は凍り付いた。
しばらくして、冷静さを取り戻したように明里は話し始めた。
「大丈夫だよ、同じ日本です。毎日だって会えます」
「いや、さすがに毎日は……」
「ネットで顔見ながら、まるで隣にいるように話しが出来ます」
「ああ……そうだな」
「大丈夫です」
「……ああ」
・・・・・・
そして、私の引っ越しの日が来た。
「大丈夫です」
ただ、明里はその言葉を繰り返していた。
まるで、自分に言い聞かせているように。
次回:別居




