⑼ ダメーッ!
次の日の朝、起きてリビングへ行くと、明里は恥ずかしそうな顔で部屋から出てきた。
「おじさん。おはようございます」
「ああ、おはよう」
「昨日、早速書いちゃいました。私の名前」
「えっ、ああ……でも届出は」
「はい、わかってます。あの紙、私がもらったという事で、いいんですよね」
「ああ、そのつもりで渡した。この先、破り捨てるなり、明里の自由にしてくれ」
「後で返してくれって言っても、返しませんよ!」
「ああ」
明里は私の返事を確認して、満面の笑みを浮かべた。
私は明里に伝えた。
「昨日の紙を渡した事で、私はこの先を明里に預けた事になる。本当に私と生涯を共に過ごせるのか、この先の4年間で良く考えてほしい」
明里は私の目を見て答えた。
「はい。おじさんとのこの先、預からせて頂きます!」
・・・・・・
その後、朝食を2人で頂き、今日の予定を話し合った。
「ここの区役所へ行ってみたいです」
「なんだそれ?」
「4年後、昨日の紙を持って、おじさんと行くところ」
「えー?」
「いーの。そこでランチしましょ」
「あーそういう所の食堂って美味しいよね」
「そう。定番のカレーライス。行こ行こ」
「……解った」
という事で、区役所へランチを食べに行く事になった。
実に変わった遠足である。
・・・・・・
区役所の最寄りの駅で降りた。
そこから歩いて5分ほど。
明里と並んで歩いていると、前方から子供連れの女性が歩いてきた。
その女性とすれ違い、私は振り返った……良かった。
明里が話し掛けてきた。
「素敵な女性ですねーあれ、おじさん、人妻も守備範囲内ですか?」
私は無視した。
明里は私の手を握って恋人繋ぎして歩きだした。
ふと、明里が振り返った時、その女性も振り返っていた。
明里の足が止まった。
その女性は穏やかに微笑んでいる。
その時、明里はその女性が誰であるか、気付いたようだ。
明里はその女性に会釈して、再び前を向いて歩きだした。
今、私達が向かうのは、区役所の食堂のカレーライス。
私は明里に話し掛けた。
「あー昨日渡した紙だけど」
明里は不安そうな表情で顔を上げた。
「明里が大学院に入れたら、届け出日は6年後に書き直そう」
明里は即座に返した。
「ダメーッ!」
明里さんと……結婚?
このような事、許されるでしょうか!
次章の第12章が最終章となります。
最終章は4話で完となります。
独りで堕ちて行くおじさんを、暖かい目で見送って下さい。
次回:漠然とした不安




