表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/71

⑶ 私を買いかぶるなよー

 第一研での新規プロジェクト。

 それからは大変である。

 確認すべき項目が多すぎる。


 確実に言える事は、このプロジェクトに碧が居なければ間違いなく破綻していた。

 現在、プロジェクトは碧が回している。

 碧には、今回の問題に対して目途を立てる事に専念してもらう。


 私のストロベリーはチームワークがいい。

 私達は碧が倒れないよう、早急にサポート態勢を組んだ。


 リーダー君には他のチームへの作業依頼。

 しかし、第3研の我々が、第1研の研究員に指示を出す。

 それは実に大変である。

 今の時代、命令で人は動かない。

 こういう時、彼の本領が発揮される。


 インテリ君には他チームからの質問窓口。

 碧が他チームの研究員に捕まって、碧の作業が滞らないように。

 質問は可能なかぎり、私とインテリ君で回答する。


 綾乃には助手として碧を支えてもらう。


 千広には各チームリーダー間の調整役をお願いした。


 そうする事で、全ての情報がストロベリーに集まって来た。

 この流れによって、私のチームが実質的な司令塔となってしまった。


 しかし、碧に任せている基礎検討だが、なかなか思い通りの結果が得られない。

 皆の表情も暗い。

 まあこういう時は、気分を変えるのが一番である。

 私は皆に提案した。


「今日、定時で退社して、みんなで飲みに行こう」

 皆の反応は微妙だった。


 インテリ君が言った「突然飲み会ですか?」

 リーダー君が深刻な顔を向けて言った「なんかこの遅れ、ヤバイですよ」

 綾乃が言った「目途が立ってから、気持ち良く飲みに行きましょうよ」


 だが、一番追い詰められている碧の反応は違っていた。

「え、飲み会ですか? 行く行く行く。行きましょうよ」

 千広が心配そうに言った「……まあ、水瀬さんがそう言われるのでしたら」

 という事で、遅れに遅れている仕事を放り出して、我々は定時で退社した。


 私はゆったりとした個室での飲み会をセッティングした。

 次々と運ばれてくる食事とお酒。

 会社でも、食事しながらの議論は行うが、お酒を飲みながらの議論は出来ない。

 私の経験から、煮詰まった時はお酒飲みながらの議論は好転を呼ぶ。


 次から次へとユニークなアイディアが飛び出した。

 もちろんそれは、しらふの時に1つ1つ精査しなければならない。

 しかし、斬新なアイディアは気持ちが乗っている時に訪れる。


 実際のところ、今日の収穫はあまり無かった。

 だが、一度頭の中をリセットする必要があると感じた。


 2ヵ月掛かる仕事を1ヵ月でやろうとすると3ヵ月掛かってしまう。

 もともと今回のプロジェクト、無謀なスケジュールなのだ。

 こういった時は開き直りが肝心である。

 だからこそ、主任であるこの私は、のほほーんとしていなければならない。


 飲み会を終えて帰宅する電車の中で、私は思った。

 なんだろう、何かいつもと違う。

 そう、色々なアイディアが出たが、なんかみんな的外れである。

 碧もみんなのアイディアを聞いて、しっくりこない顔をしていた。


 なんだろう、もしかして、みんな解っていない?

 今回のプロジェクトの基礎になっている碧の研究、十分な理解に至っていない?

 いや、十分な理解に至っていない事自体、解っていない?

 だとすると、今日は大変な収穫があったではないか。


・・・・・・


 次の日、会社に着くなり私はストロベリー全員の作業を止めて、みんなに伝えた。

「今日1日、私に付き合って欲しい」

 みんなから、不思議な顔を向けられた。


「今日1日、勉強会を開く」

 碧が割り込んだ。

「私も、それを提案しようと思っていました」

 ああ、やはり碧も同じ事を感じていたか。


 会社の会議室を1日予約して勉強会が始まった。

 講師は碧。

 今回のプロジェクトは碧の大学での研究が基礎になっている。

 その内容を説明する。


 様々な方法を試みたが、目的とした結果を出す事が出来なかった事。

 そして、自分の研究に近い論文を見つけた事。

 その論文を読んで、研究方法を改め、目的とした結果を出す事が出来た事。

 今回、それに至る流れを読み取って下さい。


 そんな前置きから始まった。

 私は既に碧の論文を精読しているので一通り理解しているのだが、改めて説明を聞くと、それはそれで興味深い。

 私の思考をなぞるような流れが読み取れる。


 みんなは興味深く碧の説明を受けている。

 そして一通りの説明が終わった所で、最後に一言付け加えた。

「ちなみに最初にお話しした、私の研究を成功に導いてくれた論文とは、2年前の国際会議で主任が発表された論文です」


 会議室から音が消えた。

 そして、みんな納得の表情を浮かべている。


 おーい、みんなー

 私を買いかぶるなよー

 ……おーい。


次回:頭の中で……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ