⑵ 検討会議
次の日、会社に出社すると、メンバーは早くから全員出社していた。
昨日納品してもらったメカが気になるようである。
さっそくメンバー全員で検討会議を開いた。
「昨日、メカ3台を無事に納品してもらいました。早速動作確認を行ったのですが、色々想定していなかった問題が発覚して……じゃあリーダー君から説明してもらえますか」
「はい、昨日納品してもらったメカにAヘッド、Bヘッドを装備して、立体造形物の作成を試みたのですが、途中でヘッドが目詰まり起こしてしまい中断しました」
碧が質問した。
「当然ヘッドが目詰まり起こす事は想定内で、定期的にヘッドのコンディションを整える操作は仕様済みでしたが、それとは異なる問題ですか?」
「はい。そういったレベルではないのです。コンディションを整えたヘッドが、1ラインの途中で目詰まり起こしてしまうのです」
始めて聞く問題に、碧、綾乃、千広は、深刻な表情を見せた。
綾乃が聞いた。
「原因は、解っているのですか」
「このシステム、AヘッドとBヘッドがαとβを噴射させながら一直線を走る訳ですが、おそらく、最初のAヘッドが噴射したαを、2番目のBヘッドが空気と共に巻き上げて、噴射口に付着してしまう。その結果、αとβが出会う事で、固まってしまう」
千広が言った。
「なるほど、この方式の利点が、欠点となってしまった訳ですね」
そう、この問題、解決しないと、この3Dプリンターは使い物にならない。
碧が聞いた。
「2番目のBヘッドが巻き上げているのは間違いありませんか? もし巻き上げているのが最初のAヘッドであれば、2つのヘッドの距離を離すとか、進行方向に向けて同列ではなく、縦に並べれば軽減するのでは」
インテリ君が言った。
「なるほど、2番目のBヘッドを、数ライン遅らせた情報で噴射させるのですね」
千広が発言した。
「そうですね、巻き上げているのは、Aヘッドか、Bヘッドか、それとも両方か、調べる必要ありますね」
私は発言した。
「そう、このように、どんどん提案してほしい。みんなから出してもらったアイディアで、行う価値がありそうな物から実験していきたい。実はこのプロジェクト、今月の中頃、デモを行って欲しいとの事だ」
「えっ」
一同に緊張が走った。
「はい」
リーダー君が手をあげた。
「造形物の0.2㎜上を、高速でヘッドが移動する。最初に噴射したαが、空気によって、巻き上げられる。だったら、空気を抜けばいい」
綾乃が訊いた。
「それは、装置全体を密閉した容器に入れて、空気を抜いて動かすという事ですか?」
「はい、ただし、気圧を下げれば気化するでしょうから、α及びβの特性に変化を及ぼさない程度に下げて動かせば改善できるかと」
しばし、沈黙が続いた。
次にインテリ君が手をあげた。
「私は、造形物との間0.2㎜を、もっと開けられないかと考えています。もう少し開けられれば、相当改善されると思います」
おお、2人とも、昨日帰ってから、色々と対策を考えてくれていたようだ。
千広が質問した。
「造形物とヘッドの間を広げれば、目標ポイントに命中させるのが難しくなるのでは?」
「ええ、それと、動いているヘッドから、αとβを落下させるので、αとβには進行方向に向けて慣性力が働きます。つまり真下ではなく、斜めに落ちる為、落す位置と着地する位置のズレを加速度センサーから計算して補正させているのですが、距離を開けると精度が落ちる事が予想されます。そこで、ヘッドからの噴射速度を上げられないかと考えています」
私は発言した。
「なるほど、ちなみに動いているヘッドによって、落下させるαとβに生じる慣性力の問題だけど、いっその事、ヘッドを固定して、造形物の方を動かせば、αとβに慣性力は働かず、まっすぐ落ちる」
すると、みんなの表情は微妙だった。
綾乃が言った。
「ヘッドではなく、造形物側を動かすのですか?」
千広が言った。
「動かす台に、造形物を固定しなければいけませんね。でも最初の1層目はどうやって固定しましょう」
碧が言った。
「いや、同じ事です。確かに落ちるαとβに慣性力は働きませんが、造形物を動かすのでしたら、落してから着地するまでの時間で、ズレがおこります」
「お~」
私は声をあげた。
みんなから、どっと笑いが出た。
よし、これでみんな、もっと気楽に思い付きを語れる空気になった。
全て作戦通りだ。
……という事にしよう。
綾乃が発言した。
「あの、これは解決策ではなくて、改善策なのですが……現在は、レールの上に乗せられたヘッドが、電車のように高速で移動する事で生じる空気の流れによるものですよね。まあ、実際はレールの下にぶらさがった格好ですが、このヘッドの形、なんか山手線みたいで、もっと空気抵抗を考慮した、新幹線のような形状にしたら、少しは改善されないでしょうか?」
一同、沈黙した。
このアイディアの何がすばらしいかというと、簡単に対応出来るアイディアだからだ。
そして、効果の大きさは解らないが、間違いなく改善される。
パチパチパチと、全員から拍手が出た。
碧が発言した
「これは、シミュレーションも含めて、粘性と流体力学を専門としているチームに、形状等、相談してみては、いかがでしょう」
「ああ、やみくもに新幹線型を作るより、きちんとシミュレーションしないと。私から話をしてみる」
「そこ、第1研の部隊ですので、私も同行します」千広が言った。
「ああ、助かる」と私は言った。
みんなの様子から、今は、これ以上のアイディアは出ないようだ。
「では、今日の検討会は、ここまでとして、これからは毎日同じ時刻に検討会を開きましょう。今後も、何かアイディアが浮かんだら提案して欲しい。で、取り合えず、リーダー君のアイディア、気圧を下げた時のαとβのデータ、佐伯さんにお願い出来るかな」
「了解しました」
「それと空気抵抗シミュレーションの部隊への相談、同行してほしい」
「了解しました」
「次に、インテリ君のアイディア、噴射速度を上げる実験、そもそもこのヘッドの設計はインテリ君だから、インテリ君にお願いしたい」
「了解しました」
「次に、水瀬さんからの、誰が吹き飛ばしているか。AヘッドかBヘッドか、それとも両方か? それを綾乃さんに調べてほしい。どんな結果も、洩れのないように」
「了解しました」
「次に、一直線上に並んだAヘッドとBヘッドを、水瀬さんのアイディアどおり、縦に並べたい。メカの改造、リーダー君にお願いしたい」
「了解しました」
「AヘッドとBヘッドの位置を、縦軸、横軸方向にミクロ単位で調整可能に。それと各ヘッドの傾き調整も加えて」
「了解しました」
「次に、その場合、制御プログラムの改造が必要となる。このプログラム、外部に発注したものだが、新しい仕様追加を水瀬さんにお願いする」
「了解しました」
「αに対してβの遅延ピクセル数、遅延ライン数等、後からパラメーターを送る事で自由に変更可能なように」
「了解しました」
という事で、作業を開始した。
なんとか、デモに合わせて結果をださないと、このチームの存在に疑問の声が上がる。
このチームを存続させたい。
私は今、そんな気持ちで一杯である。
次回:6-05 めずらしいですねえ




