⑴ 私のプロジェクト
今日は、近くの神社で夏祭りが予定されている。
明里と一緒に行く予定を立てていたが、休日にも関わらず、出勤しなければならなくなった。
「まあ、お祭りは夜だし、仕事終えるのは、それほど遅くならないから」
と言って、仕事終えたらお祭りに行く約束を交わした。
今、私の研究室で進めているプロジェクトは、新型3Dプリンターの開発である。
休日出勤しなければならない仕事とは、注文していたメカの納入である。
3Dプリンターは、各社様々な方式での開発が進められている。
私の研究室で進めているのは、インクジェット方式。
いわゆる紙に印刷するように液体を吹き付け、それを固体化させながら何層も重ね、立体を作る方式である。
液体を吹き付けて層を作る為、層が薄く、樹脂を溶かしながら作る積層造形方式に比べて、なめらかな表現が可能である。
現在この方式で主流となっているのは、光硬化性インクを吹き付け、紫外線の照射によって固体化しながら層を積み上げていく方式である。
そして、我々が取り組んでいるインクジェット式は、光硬化性方式ではない。
第1研究所が開発した、2種類の液体αとβを混ぜる事で固体化(結晶化)する混合方式。
原理は、αとβをインクジェットプリンターのように吹き付けて固体化させる。
出来た造形物は、紫外線や熱に強い。
その3Dプリンターの為のメカを発注し、そのメカが完成した連絡を受けた。
現在、チーム・ストロベリーは、第1研に常駐しているが、これは常駐前から進めていた第3研のプロジェクト。碧と千広の途中参加によって、開発の目途を早めるよう、上から言い渡されている。
よって、本日は休日であるが、1日も早く受け取りたい為、納品してもらう事にした。
注文したメカは同じもの3台。
メカの仕様は主に3つ。
① ヘッド(αとβを噴射させる部品)を装着した部分が、縦、横方向に動き、台の高さが変えられ、縦、横、高さの位置が正確に読み取れる事。
② ヘッド真下から造形物までの距離を正確に測れる事(レーザー測定)
③ 上記内容を、パソコンで操作可能とする事。
本日、このメカの受け取りの為、リーダー君とインテリ君にも休日出勤してもらった。
パソコンの操作は、インテリ君が担当。
操作マニュアルは、現在作成中との事で、随時PDFで送ってもらう事とした。
ヘッドを乗せたアームを、縦、横方向に動かすコマンド、台の高さを動かすコマンド、速度の設定。
そして、ヘッドの位置情報、台の高さ情報の読み取り等、だいたいの操作を口頭で説明してもらい、一通り動作確認を終えて納入手続きを終えた。
さて、いよいよ、これからが本番である。
今日は、この感触を確認する所までを行い、本格的な検討は、明日の月曜から行う事を伝えた。
原理としては、αを噴射させるAヘッドと、βを噴射させるBヘッドが一直線上を走り、目的のポイントに向けてαとβを噴射させる。
この2つが混ざる事で、そこに固体化された造形物の一部が作られる。
作られる造形物とヘッドとの距離を読み取り、調整する。
この距離を短くすると、作られた造形物とヘッドが接触してしまい、距離を広げると、αとβを目的のポイントに命中させるのが難しい。
とりあえず、造形物とヘッドとの距離は、0.2mmにセットした。
なかなか良い感じで、造形物の1層目が出来た。
ここで、数回動作を行わせた所で、想定外の問題が発覚した。
Bヘッドが造形物の上を走る時、先に落としたαを巻き上げてしまい、Bヘッドの噴射口に付着してしまう。
2つの液体が出会う事で固まってしまい、目詰まりを起こしてしまうようだ。
相手が紙のように染み込む物であれば、このような事は起こりにくいのだが、固体化した造形物の上に極めて粘性の低い液体を乗せ、その上を0.2㎜の距離でヘッドが高速移動する。
さて、どうしたものか?
時計を見たら5時を回った所だった。
「今日は、ここまでにして、明日この問題を、みんなで話し合いましょう」
そう言って、解散した。
さて、この問題、どうしたら良いか?
対策方法は幾つか思いつくが、どれも別の問題を抱えてしまう。
そんな事を悩みながら、明里に電話した。
そして、夏祭りの待ち合わせ場所に、私は向かった。
・・・・・・
約束の場所に着くと、明里は浴衣を着て待っていた。
以前、夜の散歩に着て来た浴衣だ。
明里は私を見つけると、嬉しそうに挨拶してくれた。
「お疲れ様です」
「お待たせ」
「おじさんと、夏祭りに来たかったです」
「……ああ」
明里に会うと、憂鬱の気分が晴れやかになる。
単に、現実逃避である事は承知しているが、今の私は、それでもいい。
この時間になると、それほど蒸し暑くない。
涼しい風が通り過ぎる。
明里と一緒に屋台の並ぶ通りを歩く。
夏祭り。
何年振りだろう。
子供の頃を思い出す。
裕子とは、夏祭りに行った事……なかった。
そう、1人で来る所ではない。
明里は、なんか嬉しそうだ。
しかし、私の頭の中は前回同様、明里の浴衣の中で一杯である。
私は、変態おじさんにチェンジした。
下着を付けているのだろうか?
そっと、上から胸元を覗き込んだ。
しかし、無い胸の明里は、襟元がぴっちり閉じられている。
ん~ 気になる。
私の私自身をなだめながら歩いていると、神社の境内に着いた。
明里がおみくじを引きたいと言ったので、私も付き合って引いた。
明里は大吉、私は小吉……実に私らしい。
『おみくじを結ばれる方は、この木の枝にお結び下さい』と書かれた木があり、みんなその木の枝に結んでいる。
おみくじを木に結ぶのは、願い事がしっかり結ばれますようにという思いらしい。
私はさっそく、その木の枝に結んだ。
すると明里は私の正面に立ち、私と同じ枝に自分のおみくじも結ぼうとしている。
明里にとっては、少し高い位置だ。
背伸びして、両腕をあげて……
明里が倒れないように、帯の上から両手で支えた。
近い……近い……
明里は、上目遣いで私を見ている。
明里さん。これからも私を……ドキドキさせて下さい。
変態おじさんに高速チェンジ。
忙しいおじさんです。
次回:検討会議




