⑺ 流れ星に願いを込めて
今朝、明里は、ペルセウス座流星群の観測との事で、天文研の合宿に行った。
今日は金曜、明日は休日。
明里が居ない間、食事は自分で用意しなければならない。
仕事を終えて、自宅マンションへ向かう途中、コンビニに寄った。
そう、ここは、明里と最初に出会った場所。
帰っても明里が居ない事を思うと、どうも感傷的になってしまう。
適当な弁当を選び、コンビニを後にした。
マンションに着いて玄関扉を開けると、その先は真っ暗な部屋。
明里は毎日、この真っ暗な部屋を見て、私の帰りを待ってる。
部屋に入り、ベランダから星空を眺めた。
雲は掛かっていない。
今頃明里は満天の星空を眺めながら、願い事等祈っているのだろうか。
『ドカン』
突然、玄関扉が開いた。
そして、明里が勢いよく入ってきた。
明里は、スマホを操作して、電話しはじめた。
「あ、部長ですか?……はい……ただいま自宅へ戻りました。……はい、申し訳ありません。ご心配お掛けしました……はい、大丈夫です。本当にご心配お掛けしました」
しばらく沈黙が続いた後、私は声をかけた。
「どうした」
話を聞くと、途中で体調が悪くなったと言って、引き帰させてもらった、との事。
「だってぇ、おじさんと一緒に、最初の流れ星、見たかったの!」
その答えは、そうかもしれないが、違うと思った。
明里が出発する時、『この部屋は、このままだよね……』と聞いた。
そう、明里が高校の卒業旅行に行った時、帰ってきたら、この部屋は空き室になっていたという夢を見て、帰ると言い出したらしい。
明里は……何に怯えているのだろう。
「夕食は?」
「……食べてない」
「じゃあ、明里の分の弁当、今から一緒に買いに行こうか」
「うん」
途端に明里は元気な表情に変わった。
明里と一緒に、同じコンビニへ行った。
「このコンビニだよね」
「……うん」
明里は弁当、それと色々なサラダを買った。
マンションへ向かう途中、星空を眺めながら明里に言った。
「ペルセウス座流星群、この星空なら東京でも見れるかもしれない」
「ほんと?」
今は8月の中半、明里は少し大きめの半袖ワイシャツを着ている。
食事中、明里が盛り付け皿のサラダを装う時、明里の袖口の奥に目が行ってしまう。
明里の腋の下、見えそうで……見えない。
それが、私の私自身を刺激するのだ。
何故だろう、袖の無い服を着ている女性を見ても、私は何も感じないのだが、半袖シャツの袖口の奥で、陰に隠れた腋の下が見えそうになると……いかん私の私自身が……
しかし大丈夫だ。
私自身はテーブルの下。
明里には見えない。
ただ、問題は立ち上がる事が出来ない。
ビールを飲みたいが、冷蔵庫に取りに行けない。
「あれ、おじさん、今日は、お酒飲まないの?」
「あ、ああ。たまには休めないと」
「それがいいですね」
うっ……ビール飲めない。
よし、これからは食事前に、お酒の準備をしよう。
これからも、このようなご褒美が、あるかもしれない。
・・・・・・
そして、時刻は11時を回ったところ。
明里は、わくわくした表情を浮かべている。
細長いリクライニング・チェアをベランダに出して背もたれを最大限倒した。
チェアに寝て星空を見る。
しかし、残念ながらベランダの天井によって、星空は半分も見えない。
明里はベランダに立って星空を見ている。
「チェアは1脚しかないから、替わるよ」
チェアを跨ぐように両足を降ろして立ち上がろうとすると、
「おじさんと一緒に見たい」
と言って私の両足の間に座った。
そして、明里はそのまま背中を倒した。
これは……ちょっと……やばい。
明里は耳を染めて小声で言った。
「何か後ろに……固い物を感じます」
ここはベランダ。
普通の声で話すと、隣の部屋の人に聞こえてしまうかもしれない。
私も小声で明里に言った。
「誰がいけないのでしょう」
明里は恥ずかしそうに答えた。
「……ごめんなさい」
……やばい……やばい……やばい!
私は明里を起こそうと、明里の両腕を掴んだ。
柔らかい腕の感触が伝わってくる。
明里は顔を上げて……吐く息が熱い。
……やばい!
その時、キラッと星が流れた。
明里は飛び起きるように体を起こした。
私は訊いた。
「見た?」
「あー、お願い事、言えなかったー」
「そんな速さじゃないよ」
「……でも、おじさんと一緒に見れた」
「ああ」
「初めての流れ星」
「見れたね」
その日、明け方まで明里と一緒に星空を観ていた。
けしからん私自身を、必死になだめながら。
これは、明里さんがいけない。
そんな事したら何が起こるか、解ってないようです。
本話までが、第9章となります。
ここまでお付き合い頂いた読者さま、本当にありがとうございます。
次回第10章では、会社でのおじさんのプロジェクトを覗いてみましょう。
そして、自宅では明里さんとのまったりとした内容です。
これからも、是非、お付き合い下さい m(_ _)m
次回:私のプロジェクト




