⑶ ここで素数は顔ださんだろー
出社して研究室に入ると、私の研究室は相変わらずだった。
壁側に白いテーブルクロスを敷いたバイキングテーブルが置かれ、その上にホットプレートが置かれている。
エプロンを付けた綾乃がお好み焼きを作っている。
綾乃の後ろにはリーダー君が立ち、大きなマグカップを持って、綾乃が作るお好み焼きの完成を待っている。
ホットプレートの隣には大きなトレーが置かれ、完成したフライドポテトやオーブントースターで焼いたピザ等が置かれている。
その隣は飲み物コーナーで、コーヒーメーカーやポッドが置かれ、紅茶セットが用意されている。
まさに、ホテルのバイキング会場の一角を思わせる光景である。
実に素晴らしい。
それらを無視して、千広が実験を進めている。
現在、私のチームで進めているプロジェクトは、新型3Dプリンターの開発である。
3Dプリンターは、各社様々な方式での開発が進められている。
私の研究室で進めているのは、第1研究所が開発した2つの液体(αとβ)を混ぜる事で固体化(結晶化)する混合方式。
この2つの液体αとβは、混ぜる割合によって瞬時に固体化し、物理特性も異なる。
βには専用の希釈液があり、希釈したβと同じ量のαをスライドガラス上で混合し、顕微鏡で確認する。
どの希釈倍率で固体化が起こるか、それを千広に調べてもらっているのだが、再現性はあるが規則性が掴めない。
千広は私に報告した
「αと固体化する時の、βの希釈倍率ですが、2,3,5, 13, 21……と、規則性が掴めないんです」
すると、後ろの方で「ジュー」という音が聞こえてきた。
綾乃がホットプレートで作っているお好み焼きにソースを投入した音だ。
千広はペンを握り締め、憤りを隠せない様子。
マグカップに入れたフライドポテトを箸で食べながら、リーダー君が言った。
「素数だ!」
するとインテリ君が、優雅にコーヒーを飲みながら言った。
「いや、21 は素数じゃないから」
リーダー君が返した
「希釈の計算ミスかもしれない」
私が割り込んだ。
「いやー、さすがにここで、素数は顔出さんだろー、しかしリーダー君の言う希釈ミスについてだが……」
私は千広に尋ねた。
「どの精度での確認をしています?」
千広が答えた。
「傾向を見ている段階ですので、誤りがあるかもしれません」
すると、エプロン付けてフライ返しを持った綾乃が割り込んできた。
「あの、5倍の次に、8倍では固体化、起きませんでしたか?」
碧が言った。
「さすが綾乃さん」
「えっ、確認出来ませんでしたが……もう一度確認します」
千広が8倍での実験を再度行った。
顕微鏡を覗きながら
「あっ本当です。固体化、起こってますね」
碧が言った。
「そうね。だから、次に固体化が瞬時が起こるのは 34倍の時」
リーダー君が訊ねた。
「なんですか?」
インテリ君が答えた。
「フィボナッチ数列ですよ」
綾乃が言った。
「そう、この宇宙の、ミクロからマクロまでを支配する数のならび」
その日以来、千広は綾乃を『綾乃さん』と呼ぶようになった。
次回:今日一番の目的




