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⑵ 何なんですかあなた達は!

 居酒屋の一室を貸し切りにして、佐伯千広の歓迎会を行った。


 最初に千広が今の気持ちを爆発させた。

「本日は私の為に、このような席を用意して頂き、ありがとうございました。しかしながら、このチームは何なんですか? 私はコソコソするの嫌なので、最初にお話ししておきますが、私は第1研の部長から、こちらの監視をお願いされています。私はそのお話を頂いた時、子供じゃあるまいし、何で? と不思議に思っていましたが、こちらに着任して驚きました。勤務時間中に何やら食べ物を作ったり……」


 その時、リーダー君が千広の右側に座って正面向いて言った。

「佐伯さん、自分は佐伯さん、タイプなんです」


 千広は顔を硬直させ、蔑むように言葉を発した。

「あなた、私の話、聞いてました?」


 綾乃が笑った。

「リーダー先輩、脈無しですよ」


「な、なんなんですかあなた達は」

 千広は左側へ逃げるように体を動かした。

 すると、インテリ君が千広の左側に正面向いて座った。


「では、私でしたらいかがでしょう」

「わ、私でしたらって、あなたはチャラ男ですか! 社会人にもなって、恥ずかしく無いのですか?」


「そのような羞恥心、故郷(くに)を出る時に捨ててきました」

「く……くに?」


 千広は助けを求めるように碧を見た。

 碧は私に体を傾けて、私にお酒を注いでいる。

 それを見た千広は、最後の砦を失ったかのような表情を浮かべ、俯きながら言葉を漏らした。

「……お父さん、ごめんなさい。私は会社から、必要とされていないようです」


 リーダー君が話を始めた。

「故郷って言えば先週末、久しぶりに車で実家へ帰ったんですが、最近のカーナビって性能上がりましたよね」


 その話にインテリ君が応えた。

「ええ、GPSの演算処理、円周率を少数点以下13桁で計算しているらしいですよ」


 千広は顔を上げた。

 やはり仕事柄、こういった話題は興味あるようだ。


 私はその話題に割り込んだ

「私は、円周率は6.28だと思うのだが……」

 途端に千広は残念な顔を私に向けて、大きな息を吐き捨てた。


 するとインテリ君が発言した。

「なるほど、円周率を円周と直径の比ではなく、円周と半径の比と定義する訳ですね」


 綾乃が言った。

「たしかに。そもそも円とは、ある点から同一距離の点を結んだ線の事で、同一距離の線、つまり半径こそが円を表す、ただ1つの数ですよね」


 インテリ君が言った。

「そもそも、円周の長さ2πrも、円の面積πr²も、r は半径だから、πも円周と半径の比にすべきでしょう……そうすると、円周の長さは2πrではなく、ただのπrになる」


 綾乃が言った。

「角周波数も、2πfではなく、πfになります」


 碧が発言した

「πを6.28にすると、ディラック定数はプランク定数をπで割った値になります……もしかしたら、3.14よりも6.28の方が、自然科学としては意味のある数かもしれませんね」


 千広は、碧の話を聞いて引きつった顔を見せた。

 するとリーダー君が発言した。

「いやいやいや皆さん。数学史上最も美しいと言われている神の数式をお忘れか? 『博士の愛した数式』でも有名な、あの『オイラーの等式』 πを6.28にしたら、あの式の美しさは途端に失われてしまう」


 千広は、リーダー君の発言を聞いて、少し安心したような表情を浮かべた。


 すると、綾乃が発言した。

「いや、ちょっと待って下さい。πを円周と半径の比と定義すると、πラジアンは180°ではなく、360°になります」


 インテリ君も発言した。

「そう。この場合、オイラーの等式の元になっている、オイラーの公式からの結果が変わってくる」


 リーダー君が紙とペンを取り出して、オイラーの公式を書き始めた

 e^(iθ)=cos(θ)+i×sin(θ) 〔←オイラーの公式〕

 θ=πとすると、

 e^(iπ)=cos(π)+i×sin(π)


 πラジアンは180°

 sin(180°)=0 cos(180°)=−1

 e^(iπ)=−1+i×0

 e^(iπ)=−1

 e^(iπ)+1=0 〔←オイラーの等式〕


 それに対して

 πを円周と半径の比と定義すると、πラジアンは360°

 sin(360°)=0 cos(360°)=1

 e^(iπ)=1+i×0

 e^(iπ)=1


 リーダー君が驚いた表情で言った。

「こっこれは……πを6.28にすると、オイラーの等式は、更に美しくなる」


 千広から言葉が漏れた。

「なんなんだ、この人たちには、世界の常識が……無いのか?」


次回:ここで素数は顔ださんだろー

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