第二章7 「取り調べ室での事情聴取」
無愛想な顔で二人を待ち構えていたのは、以前にも蓮が戦い無事倒すことができたジュエリーショップの強盗犯だった。
蓮はその顔に怯えながらも、先に歩きだし、用意されている椅子に向かう壮太を後ろから追いかけ、共に椅子に腰かける。
「こんにちは、俺達は異能探偵事務所の社員です。今日貴方に用があるのは、違法取引犯を捕まえる為にこちらに協力してほしいからです。これから俺達が質問するものには、嘘偽りなく答えてください」
強盗犯は「ああ」と言葉を溢した。
「あなたの名前と年齢は?」
「名前は片山 彰。歳は二十七」
「ジュエリーショップ強盗の動機は?」
「金がなかった」
「次に――あなたはそのスピリツメタルをどこで手に入れた?」
その質問を聞くとき、空気が変わった気がした。今までの質問内容の空気が嘘のように。その質問をしたとき、壮太の目は鋭く静かに、彰の元へと向けられていた。
「……爆裂卿って名乗るやつから貰った」
「取引現場の場所は? それと時間帯も」
「建物の路地。時間は夜だった」
「その爆裂卿の特徴は?」
「……覚えてない」
「……それはどうしてですか?」
「爆裂卿ってやつは黒いローブを全身に羽織ってた。……けど、風に吹かれて、フードが捲れた瞬間があった。その時、確実にあいつの顔を見たはずなのに、何も覚えてないんだ」
「壮太さん……」
蓮は隣に座っていた壮太に声をかけた。壮太はメモ帳に質問の答えを記入していた。彰が嘘をついている可能性があった。その時壮太はどう対応するか、蓮は気になったのだ。
「分かりました。その情報は本当……ということでいいんですね? 俺達が話せばあなたの罪を大きくすることだって出来る。この意味、分かってますか――?」
「そう脅したってこれは紛れもない本当の出来事だ。これ以上俺を揺さぶるだけ無駄だと思うが」
「……そう言うんなら、そうなんでしょうね。これで質問は終わりです。協力ありがとうございました」
ジュエリーショップ強盗犯――基、片山 彰の事情聴取は終了した。二人は部屋を出て、部屋の前で待っていた防衛軍の女性と合流する。
「次はストーカー犯を連れてくるので、少しばかりお待ち下さい」
防衛軍の女性はそう言って、二人が入った部屋に入っていった。
「蓮」
「はい、なんですか?」
「次はお前が事情聴取してみろ」
「え、いきなりですか……」
「さっきの俺を真似すればいい。分からなくなったらフォローはする。まずは一人でやってみろ」
蓮は緊張気味に「分かりました」と返す。
すると、ドアが開き防衛軍の女性が部屋から出てきた。
「お待たせしてすみません。次にいるのは、この間起こったストーカー犯です」
ドアを開け、手をかざし二人に入るように促す。
二人目だが、やはり緊張はするものだった。だが、ストーカー犯は強盗犯とは違い、反省という気持ちがあるように感じられた。
だから蓮にとって幾分か心を落ち着かせながら部屋に入ることができた。
「えっと、こんにちは」
「あー……こんにちは」
二人は椅子に座り、壮太は蓮に任せると言っていたため、何も言わず全てを蓮に任せていた。最初に何を言えばいいか分からず、とりあえず挨拶をすることにした。
蓮が挨拶をすると、ストーカー犯も少し困り顔をしながら挨拶を返す。
「えっと、俺は異能探偵事務所の社員です。今からスピリツメタル違法取引犯について、幾つか聞かせてほしいです」
「分かりました」
ストーカー犯は律儀に蓮に返事を返す。
「……まず、あなたの名前と年齢は?」
「僕の名前は芝崎 功太。年齢は二十三です」
質問に答えてくれる功太を見ながら、壮太は自身が持っているメモ帳にそれを書き留めていく。そして次の質問をしろと言うように、蓮に目配りをした。
(えっと、動機と貰った場所は社長が聞き出して分かっているから……あ、確か『スピリツメタルを誰に貰ったか』これは蒼炎卿っていう人に貰ったことしか分かってなかったはず……)
「次に、あなたが手に入れたスピリツメタルは蒼炎卿という人物に貰ったと言っていましたが、その蒼炎卿という人の特徴を教えてください」
その質問を聞かれると、功太は黙る。だけど表情的に答えたくないという雰囲気ではないのだ。どちらかといえば、悩んでいる表情に近い。
「……その……蒼炎卿というやつのこと、僕は覚えてないんだ」
「え――」
蓮は驚いた。先ほど壮太が質問した強盗犯と同じ解答が返ってきたからだ。
「……何も覚えてないんですか?」
「……何も覚えてない。声は、ちゃんと覚えてる。顔だって、スピリツメタルを受けとるときに、怪しいからって顔を見せてもらった。けど、何も覚えてないんだ」
「……その蒼炎卿って、黒いローブとか羽織ってましたか?」
蓮の質問に功太は驚く。
「! よく分かったね。黒いローブを全身に羽織っていたから、顔を確認させてもらったんだ。まあ、違法で受けとるわけだから、顔が分からないと怪しいから」
(なんで強盗犯も功太さんも犯人の顔を覚えてないんだ? まさか化身の能力? そしたらその爆裂卿と蒼炎卿の化身は同じ能力を持ってる……?)
考え込むと、壮太は咳払いをする。これは何か言葉を発しろということだろう。
「あ、ごめんなさい、考え込んでいて! 聞きたいことは以上です。ありがとうございました」
「ああ、また分からないことがあれば来てほしい。何とかあの時の記憶を思い出して君に伝えるから」
「はい、ありがとうございます!」
蓮はまだ捕まってから短期間しか経っていないが、本当にストーカー犯は変わったなと思った。それだけ社長の言葉が功太にとって響いたのかもしれない。もしそうだとしたら、そんな風に思わすことができる社長を本当にすごいと、蓮は本気で思ったのだ。
二人は取り調べ室を出る。外で待ってくれていた防衛軍の女性に着いていき、地下から一階へ。
建物の入口まで案内してくれた女性に二人は礼の言葉を忘れず伝える。
「壮太さんは、さっきの二人の証言をどう見るんですか? 例えば、爆裂卿と蒼炎卿の顔を覚えていない、とか」
建物を出て、出口を目指すためにとても広い防衛軍の敷地を道のりに歩いていた。
正直、この情報だけじゃ、蓮はこれっぽっちも推理なんて出来ない。そこで、先輩として、壮太はどう思ったのか。それを聞いてみようと思った。
「そうだな……最初は化身の能力とも思ったが、あいつらはどちらとも、爆裂卿と蒼炎卿は黒いローブを羽織ってたって言ってた。だから俺はそのローブに何か仕掛けられてると思う」
「ローブにですか?」
「ああ、蓮達は社長から探偵事務所の制服について教えてもらわなかったか?」
「ああ! そういえば教えてもらいました!」
・・・・・・
時間は戻り、社長にトレーニングルームに案内され、模擬戦闘を始めた時間まで巻き戻る。
「皆、大丈夫?」
そう四人に問いかける社長は平然だった。
四人は汗を流し、初めの表情が嘘のように疲弊した表情をしていたのにだ。
「社長……強すぎる……」
「化身が五体もいるのにこんなにも手も足も出ないなんて……」
「リアが全然通用しない……」
「あはは、隙なんていくらでも作れると思ったんだけどな~……」
四人の表情は決して明るいものではなかった。強いていうなら、ギリギリ叶愛の表情が笑顔だということだろうか。だけど叶愛も三人と同じように疲弊しているのに変わりはなかった。
「四人とも何か気付かない?」
社長の言葉に四人は『?』を浮かべる。
「紫苑の炎を喰らってさ、それなりに君達にも影響が来るでしょ? それについて何か気付かない?」
四人は考え込む。そして琉依が何かに気付いたように声を上げた。
「そういえば、紫苑の炎の巻き添えを僕達は喰らってるのに、何も感じない……?」
「そう、正解! 見学のときに言ったと思うけど、探偵事務所の制服には、幾つか加護や耐性が施されているんだ。『気温変動無効化の加護』や『能力耐性』とかね」
「へぇ~……色んな加護が付いてるんですね……」
「あはは、蓮くんにとってはそんな場合じゃないって感じかな? まあ、詳細な説明はまたいつかね。さあ、訓練を再開しようか!」
そう言葉を放ち、紫苑は攻撃態勢に入る。四人は驚きながらも、なんとか立ち向かおうと化身達に指示を出した。




