第二章6 「探偵事務所創立メンバー」
違法取引犯プラス三つの事件のことも依頼に含まれ、八人はそれぞれ役割分担を決めていた。
「とりあえず、誰がどの事件を担当するの?」
「俺と蓮は違法取引犯を担当する。三つの事件は三人の誰かがやってくれ」
未花の問いに、壮太は自分達が違法取引犯を担当することを言った。壮太は思った、強盗犯もストーカー犯もどちらとも面識があるのは蓮だと。だから自分達が担当した方がいいと思ったのだ。
「だったら私、『建物倒壊事件』を担当したいです!」
「叶愛が言うなら私も一緒になるね。フルールと未花もそれでいい?」
叶愛と同じペアの鈴も必然的に叶愛と同じく『建物倒壊事件』の担当になる。
「僕は大丈夫ですよ。琉依くんは何か担当を希望するところはありますか?」
「僕もどちらでも大丈夫です」
「だったら私『偽物事件』やりたい!」
未花は自分がやりたい事件を声を上げて言う。
琉依は美琴が言葉を発しないのを気に掛けていた。
「美琴はそれで大丈夫ですか? 嫌なら今言った方がいいと思いますけど」
「うん……大丈夫、琉依くん。私も『偽物事件』で……大丈夫です」
琉依の気遣いに美琴は問題ないと答える。
話し合いの結果、蓮壮太ペアが違法取引犯。叶愛鈴ペアが建物倒壊事件。美琴未花ペアが偽物事件。そして残った琉依フルールペアが物品入れ替わり事件を担当することになった。
・・・・・・
「えっと、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「…………」
「…………」
蓮は焦っていた。初めての人と共に行動すると起こること、それは『会話が続かないこと』だ。
蓮と壮太は今その現象に陥っている。壮太は片目が隠れていて、表情が隠れているから今どういう気持ちなのか分からない。蓮は今この空気がとてつもなく気まずかった。
「あの~えっと……その、これから防衛軍第一部隊に伺うんですよね?」
それはさっきの話し合いのときに話していたことだ。知らない者同士で、何を聞いてどこまで聞いていいか分からない蓮は、さっきも言われたことを聞くマシーンになっていた。
「ああ。それでお前が戦った強盗犯とストーカー犯の事情聴取をする」
「……そうですか……」
少し会話が続いた安心感と、これから第一部隊に行くという不安と怖さ。両方の気持ちが蓮の中にはあった。どちらかといえば不安と怖さの気持ちが蓮の全てを支配しているかもしれない。
もし、お父さんと鉢合わせたら。
もし、お父さんと会ってしまったら。
その気持ちが蓮の中でぐるぐる駆け巡っている。
(もし、お父さんと会っちゃったら……いや、そもそも会ったとしても、お父さんは俺のことなんか気にも止めないんだろうな。……俺はこんなに気にしているのに)
「……蓮?」
不意に名前を呼ばれた。その声に驚き横を見れば、前を見て歩いていたはずの壮太がじっと蓮のことを見つめていた。
「は、はい! すみません、ボーッとしてて……」
「急に表情が曇り始めたから、何かあったのかと思ったんだけど」
「いえいえ! なんでもないですよ」
「もしかして、第一部隊に行くのが嫌なのか?」
「…………」
言葉が出なかった。咄嗟に言い訳を考えられなかった。このまま黙っていれば、その問いはイエスと捉えられるだろう。
だけど今も歩いている。地面を踏んで、一歩ずつ着実に進んでいる。その一歩を進んでいくにつれて、第一部隊に近づいていると実感して、焦りと不安と怖さの気持ちが大きくなる。そのせいで、まともな思考が出来ない。
そんな思考の中で出てきた言葉は、
「……なんでもないですよ」
投げやりな言葉だった。さっきまで黙っていたのに、急に呟かれたこの言葉は嘘だと簡単に気付く言葉だ。
「そうか」
そんな蓮の心情に気付いたのかは分からないが、壮太はそれ以上は聞かなかった。
そして少しの沈黙の後、
「あの、なんで壮太さんは、異能探偵事務所に入ったんですか?」
蓮から話を切り出した。
「俺が高二の時に声をかけられたんだ。その時の俺は学校行ってなかったしな……俺自身化身に少し憧れがあったから、ちゃんと話をして探偵事務所の社員になることにしたんだ」
「探偵事務所っていつからあるんですか?」
「確か七、八年前だったと思うけど」
「結構前からあるんですね」
「社員と香織さん、睦月さんと清羅さん達がこの探偵事務所の創立メンバーだからな」
「四人のおかげで今の異能探偵事務所があるんですね」
「ああ……――本当は五人、なんだけどな」
壮太の不意に呟かれた言葉。それに気付いたのは誰もいないだろう。だって、横にいた蓮ですらその言葉が呟かれたことに気付かなかったのだから。
そこから蓮と壮太は、時折会話して、そして会話が途切れ、また会話してを繰り返し、無事日本防衛軍第一部隊に到着した。
「ここが第一部隊……」
「実際に行くのは初めてか?」
「はい、ニュースで防衛軍のことが報道されていても、第一部隊の拠点までは行ったことはないですね」
「まあ、関係者以外は立ち入り禁止だし、俺達みたいな化身を使って仕事しているやつとかしかわざわざ訪問しないもんな」
そう言いながら壮太は第一部隊の入り口に歩き出す。置いていかれないように蓮は壮太の後ろについて回った。
「あの、俺達ここにアポとか取ってないですけどこんなにズカズカと入って大丈夫なんですか?」
「大丈夫。探偵事務所出る前に社長に言ってアポは取ってある」
「え! じゃあもう第一部隊の人達は俺達が来ること知ってるんですか?」
「多分知ってるだろ」
「社長すごいですね。防衛軍訪問の許可を取るなんて……あんまり凄いことなのか分かんないですけど」
「社長は防衛軍出身だからな。元々第一部隊の隊長だったらしいし。許可も取りやすかったんじゃないか? 第一部隊の前は第二部隊の隊長やってたらしいけど」
「へぇ~、そうなん……ええ!?」
危なかった。今までの会話のようにそのまま聞き逃すところだった。蓮は耳を疑った。社長が『防衛軍第一部隊の隊長』という言葉を今初めて聞いたのだから。
「え、社長が隊長だった……? え、本当なんですか?」
蓮は戸惑いが隠せなかった。化身についての知識も豊富で、何よりトレーニングルームで戦った社長と紫苑はとてつもなく強かった。だけどそれは経験が自分達と違って豊富だからだと思っていたのだが。
「ああ、付け加えるなら、香織さんと睦月さん、清羅さんは全員防衛軍出身だ」
「えっと、その三人の地位は……?」
蓮は恐る恐る壮太に聞く。社長が第二部隊と第一部隊の隊長だったのならもしかしたら、
「香織さんは第四部隊隊長。睦月さんは第三部隊隊長。清羅さんは第四部隊副隊長だな」
「やっぱり~~」
思っていた通りだった。他三人の実力は知らないが、社長と対等に喋っている時点で、昔からの仲という予想がつく。そう考えることで、出身も一緒の可能性が蓮の中で出てくるのだ。無事蓮の予想は当たっていた。
敷地内の長い道を歩き第一部隊の建物に入り、その中で待っていたのは、防衛軍の制服を身に付けている女性が二人の到着を待ちながら、そこに立っていた。
「ようこそ、第一部隊へ。隊長から話は聞いています。案内しますので、私に着いてきて下さい」
隊員の女性に案内され、二人が向かったのは地下だった。
探偵事務所のトレーニングルームみたいに一面白い壁で床。隊員の女性はある部屋のドアの前に止まり、片手をドアの前に向けた。
「この部屋にいるのが、違法取引で手に入れたスピリツメタルでジュエリーショップを強盗した罪で収容されている者です。この取り調べ室は中央にガラスが張っていて、それぞれガラスの壁に向かい合うように椅子があるのでそこで座って話を聞いていただければ」
「ありがとうございます。蓮、行くぞ」
「はい!」
二人はドアを開け、取り調べ室に入る。
そこにいたのは、無愛想な顔でこちらを睨むように見つめている強盗犯が座っていた。




