第二章5 「防衛軍の依頼と社長の依頼」
四人は社長の紫苑と戦った。それはそれは壮絶で、訓練とは思えぬような、言葉では言い表せない戦闘を――
・・・・・・
「…………」
その部屋は沈黙が続いていた。それは何故かというと――、
「負けた……もう圧倒的だった……」
「ええ……気を引き締めましょうとは言いましたが……あれほど手も足も出ないなんて……」
「うう……ごめん……弱くてごめんなさい……」
「あはは、五体もいるから隙くらいは作れると思ったんだけどなー」
三人の悲痛な後悔の言葉と、能天気に過去を振り返る叶愛の温度差は見るからにだった。
今は訓練が終わり、睦月や清羅達がいる仕事場の部屋にいる。四人は部屋に置いてあるソファーや、椅子に腰かけていた。
「相当ダメージ入ってますね……」
側で見ていたフルールは心配そうにそう呟く。
「社長、四人にどんな訓練したんですか」
あまり表情が変わらない壮太だが、他の人でも感じるほど呆れた様子でそう問いた。
「いやー、別に普通の訓練だと思うんだけどなぁ……」
「俺達の攻撃は紫苑に当たる前に全部消えたし……」
「五体の同時攻撃もほぼ全てみきっていましたし……」
「リアの攻撃全部炎で消えちゃった……」
「なんか、掌の上で踊らされてる感じだったね!」
最後の叶愛の何気ない発言は他三人の心を抉ったのか、さらに三人は気持ちはずーんと沈み沈黙することになった。
「ま、まあ、ちゃんと訓練すれば強くなるからさ! だから四人には毎日僕と特訓してもらうからね!」
叶愛除く三人の表情はまたどん底に落ちたような表情に変わる。三人にとって圧倒的な強者と戦うのは、ほぼ結果が決まってるようなもので、今味わった気持ちをまた味わうのかと、気持ちが重くなった。
「さ、さて、Bグループがここに残ってもらった理由だけど……」
今さっきまで冷や汗をかいていた社長の顔が真剣な表情になった。その空気感は付き合いが短い四人でも分かるものだった。
「実は、防衛軍から直々の依頼がきたんだ」
「防衛軍からの依頼か……」
その言葉に、壮太も社長と同じような表情になった。気合いを入れ直したような感じだ。
「そういえば、勧誘されたときも防衛軍から仕事を貰うこともあるって……」
「そう。蓮くんと琉依くんには話したと思うけど、異能探偵事務所は、防衛軍から仕事を貰うこともあるんだ」
「そ、そうなんですね……それで、防衛軍からの依頼ってどんな内容とかが来るんですか……?」
「そりゃあ、危険な依頼よ! 弱かったら一瞬で死んじゃうわよ、貴方なんて! まあ、私はとっても強いから死なないけどねー!」
怯えながらそう聞く美琴に、未花はドヤ顔で、そして高らかにそう声を上げる。他の社員はこの光景はいつものことなのか、気にも止めていなかった。
「こら、あんまりそういうこと言わないの。正式な社員になって初めての依頼なんだから」
気には止めていないものの、初めての人にその言葉は駄目だと、鈴は未花に注意をする。未花は頬を膨らませ「だって本当のことでしょ!」と懲りずに声を上げることをやめなかった。
社長はそれを堂々と無視し、話を進めた。
「それで防衛軍の依頼の内容なんだけど――『スピリツメタルの違法取引犯を捕まえてほしい』という依頼なんだ。ちなみに第一部隊からの依頼ね、これ」
「それってこの前のストーカー犯のやつと同じものなんですか?」
「そうだね。ストーカー犯のやつと、蓮くんが戦った強盗犯も入るね」
叶愛の問いに肯定し頷き、プラス蓮がこの前戦った強盗犯もこの依頼に含まれていると社長は説明する。
「という訳で! 君達八人には二人一組でこの依頼に取り組んでもらうよ」
「二人一組?」
鈴の疑問に、社長はそのまま話を続ける。
「そう。蓮くん達はこの前の見学で大体の依頼解決の進め方は知ってると思うけど、まだ一回しかやっていないからね。そんなわけで、壮太くん達がそれぞれ付きっきりで蓮くん達に教えるってわけ!」
そう話す社長の顔はなんだか楽しそうだった。だが、社長のその言葉に戸惑いの色を隠せないものが二人程いた。
(やばいどうしよう……全然話したことない人と二人っきりって……なんで社長もそんなこと言うんだよぉー!)
(ど、どうしよう……知らない人と一緒…………無理……!)
それは、蓮と美琴だった。
お互いに人見知りで、できればこういう場面は避けたい人達。覚悟はしていたが、いきなり二人一組と話す社長にやめてほしいという訴えを心の中でしていた。
「というわけで、ルーレットでペアを決めよーう!」
「睦月!」と呼ぶ社員は二人の気持ちなど一ミリと気付かずに話を進める。
「はいはーい」
パソコンと向かい合い、仕事に勤しんでいた睦月は自分のパソコンを八人全員に見えるように動かした。
そのパソコンの画面にはルーレットが表情されていて、枠の中には、壮太、フルール、未花、鈴の名前が入れてあった。
「まずは蓮くんのペアを決めるよ。ルーレットスタート!」
社長の言葉に合わせて、そのルーレットは開始された。
針が回り、そして少しづつ遅くなっていく。針が止まったのは『壮太』と書かれた枠の中に入っていた。
「蓮くん壮太くんペア~!」
くじ引きを引いて当たりが出たかのような高らかな声で社長はそう告げる。休む暇もなく、ルーレットは開始される。そして全員のペアが決まった。
二人目のペアは琉依フルールペア。三人目は叶愛鈴ペア。そして最後のペアは美琴未花ペアだった。
「このペアで今回の依頼をやってもらうよ。皆はちゃんと分からないところがあれば聞くように。先輩がちゃんと教えてくれるからね。それじゃあ後はそっちで役割分担を決めてね」
その言葉が終わり次第、八人はそれぞれのペアと対面し、壮太を軸に今回の依頼の役割分担を決めることになった。
「今回はスピリツメタルの違法取引犯を見つけることが依頼達成だから、第一部隊に行くことは確定だな」
「そうね。今回は始めから化身絡みだし、こっちも化身の能力を駆使していいんじゃない? ハヤテなら出来るし」
「そうだな。それは俺の方でも出来る。俺と鈴は化身を使っての方向で犯人を特定するか」
「ということは、僕と未花が防衛軍に行って聞き込み調査ってことだね」
「分担して話を聞きにいこうよ。その方が効率的だし」
Bグループの四人はすぐに依頼をどのように解決するかの目処を立て、それぞれの役割分担を決める。
その真剣な眼差しに、四人は虜になっていた。
役割分担を決めている瞬間、何かの通知音が鳴った。
いち早くそれに気付いたのは鈴で、鈴は自分のポケットから取り出したスマホを操作する。
そして、スマホの画面を見ながら、
「……最近起こってる事件か」
と、ボソッと呟いた。
鈴以外の三人も鈴の呟いた言葉に反応し、スマホを覗いた。
「これ、最近起こってる事件ね」
「確か『建物倒壊事件』『物品入れ替わり事件』『偽物事件』、でしたっけ」
フルールは思い出したように、事件名を述べる。
頷いた鈴はスマホを動かす指を早め、画面を七人全員に見えるように見せた。
「この三つの事件、全部いつ起こったか分かる?」
鈴の問いかけに七人は首を傾げる。
何かを思い出したように叶愛は声を上げた。
「……あ、そうだ。確かこの三つの事件って、私達が探偵事務所を見学した翌日から起こってるんだよ!」
「そう、正解。私もそれに気が付いて少し調べてたの」
「僕達の見学を境に事件が起こる……偶然ですかね」
琉依は首を傾げ、唸りぎみに言葉を述べる。
「――じゃあこうしようか。違法取引犯と同時並行で、この三つの事件を調べてくれないか?」
七人の沈黙を破ったのは、社長である一之瀬 潤だった。社長は最初から八人の話を聞いていた。見学を境に起こった三つの事件。清羅が言っていた蓮達の戦闘を覗いていた謎の化身使い。この二つの話を社長独自に判断して、もしかしたら関係があるかもしれないと踏んだ。
「これは僕からの依頼だ。やってくれるかい?」
「分かりました。そうなったら役割分担も最初から決め直すぞ」
壮太の言葉に七人全員顔を見合わせ、お互いに気を引き締めた。




