第二章4 「探偵事務所の地下室」
Aグループの自己紹介が終わり、最初にこの部屋に入ってきた灰色の髪の男性が口を開いた。
「俺の名前は東雲 壮太。よろしく」
次に黄緑色の髪を一つに結んでいる男性が前へ出る。
「僕はフルールといいます。よろしくお願いします」
そのフルールの隣にいた紫の髪を三つ編みにした女の子が声を上げた。
「私の名前は倉橋 未花! これからアンタ達の先輩になる者よ!」
蓮達は驚いた。自己紹介にしては癖が強い紹介の仕方もそうだが、倉橋 未花と名乗った女の子は小さく、まるで小学生のような風貌をしていたからだ。仕事場という場所に似合わない女の子。だが誰よりもその表情はキリッとしていて、自信満々なその笑みは探偵事務所でナンバーワンだった。
「え、小さい女の子……?」
驚きのあまり、蓮はその言葉を呟く。
その瞬間、その言葉がその子にとって地雷だったのか、笑みとは間反対の怒りの表情を示した。
「はぁ!? 私小さくないし! これから大きくなるんだし! 成長すれば私だって――」
「はいはい、ストップ、未花」
未花の怒りを宥めるように、少女の隣にいた水色の髪をミディアムショートにして、メガネをかけている女性は今にも怒りに身を任せて暴れだしそうな未花を自身の腕で遮る。
「自己紹介が遅れたわ。私の名前は速水 鈴。よろしくね」
「僕達がBグループ。いつもこの四人で依頼を解決しているんですよ」
優しい口調で、フルールは自分のグループについて語った。
「よし、次涼くん、自己紹介お願いね」
Aグループ、Bグループの方にいた涼に目線を送り、言葉を伝える。
「そうですね、あの時は仕事に集中してて、君達が見学に来てたって後で知ったんで……俺の名前は本田 涼。俺の仕事は睦月さんの事務の補佐で、あんまり俺自身が依頼解決に携わることはないかな。皆よろしく」
「はい、これで探偵事務所全員の自己紹介が終わりましたと! それで今日の予定なんだけど、Aグループはこの前きてた浮気調査の続きをやってもらって……蓮くん達は後で僕と一緒に来てほしい。Bグループは、僕と蓮くん達が戻ってくるまでここで待機。後のメンバーは各自自分達の仕事に取り組んでくれ」
それぞれ肯定の返事が流れ、Aグループは浮気調査の続きのために部屋を出て、それ以外のメンバーは自分達の机に座り、パソコンと向き合い仕事を始めていた。
「よし、四人とも、僕に着いてきて」
一之瀬 潤に促され、四人は後ろをついていく。
部屋を出て廊下を進み、一階に下りる階段に進む。一階の奥のドアを開けた先にある下に続く階段を下りていく。この場合地下に続く階段といった方がいいのかもしれない。
地下に続く階段を下りていくと、白く無機質な空間が広がっていた。
壁はコンクリートで出来ているのか、この空間はとても頑丈そうだ。
「到着。――ここは、化身専用のトレーニングルームだよ」
「トレーニングルーム?」
見慣れない言葉に琉依は聞き返す。
『化身』のという言葉を聞いて、目をキラキラさせていたのは蓮と叶愛だった。
「そう。文字通り化身の訓練場だ。異能探偵事務所は見学したときみたいに戦うことだってあるからね。ここで特訓して化身達を強くするんだ」
辺りを見渡すと、軸になる訓練場があり、所々に休憩用のベンチが設置されている。
広々とした訓練場の隅っこに、一段上げられたその上に見慣れない機械が置いてあった。
一之瀬 潤はその機械がある方に行き、階段を上り機械の前に立った。
「一之瀬さん! 今から何をするんですか?」
大きい声で蓮は一之瀬 潤に聞こえるように叫ぶ。
「これから君達の化身の能力を見るよ。だからそれぞれ化身を出してくれ。あと、君達は今日から正式な社員になったんだ。僕のことは『社長』と呼んでくれないか?」
そう頼む一之瀬 潤――異能探偵事務所の社長の願いを聞き入れ、
「分かりました、社長!」
蓮は少し離れている社長に聞こえるように、そう名前を叫んだ。
四人は同時に化身を出した。
四人の化身達は比較的皆体が大きい。それなのにも関わらず、このトレーニングルームはまったくといっていい程圧迫感を感じなかった。つまりそれだけこの空間は広いということ。明らかに探偵事務所のビルだけの面積だけでは収まらない程だった。
社長は目の前に置いてある機械を凝視する。
「ふむふむ」という言葉を呟きながら、四人の化身の能力を見ていった。
「へぇ……なるほど。皆面白い能力を持っているね」
そう呟く社長の顔はニヤリと笑みで溢れていた。
そして機械から目を離し、
「皆、結果が出たよ。こっちにきて自分達の化身の能力、そしてその用途を確認してくれ」
社長の言葉を待っていた四人に自分の元に来るように促す。
化身はそのままに、体を動かし四人は社長の元に集う。
機械を覗いた四人は、そこに表情されている能力を見る。
「この機械は化身の能力を調べる『能力鑑定装置』だ。この装置は各国の防衛軍にそれぞれ設置されていてね。化身の能力を調べる他、情報を新たにインプット出来るんだ」
能力鑑定装置に触れ「これは防衛軍に設置されているものと違って、情報をインプット出来ないんだけどね」という言葉を添えて分かりやすく四人に説明する。
「この装置には各国の防衛軍の化身達の能力がインプットされ続けてる。それもこの装置が設置されてからずっとね」
ということは、今この機械には全ての化身の能力がインプットされているということだ。
全て、とは誇張した表現かもしれないが、昔からずっと、この装置が設置されてからずっとこの装置は稼働し続け、各国歴代の化身使い達の情報が入っている。それは今も同じで、今この時間も、新しい防衛軍の隊員が入り、その隊員の化身の情報がインプットされ続けている。それは全ての化身の情報が入っていると表現してもいい程だった。
四人は自分達の化身の能力を確認する。この装置はその能力の使い方、つまり用途も情報としてインプットされている。
琉依の化身、ハウ、ルフ。
ハウの能力『疾風操作』『加護操作』
ルフの能力『波動操作』『雷電操作』
叶愛の化身、ルア。
ルアの能力『結晶操作』『理想操作』
美琴の化身、リア。
リアの能力『水氷操作』『絶無操作』
蓮の化身、焔。
焔の能力『炎光操作』『秩序操作』『???』
以下が四人の化身の総能力だった。
「あれ……焔の能力……」
焔の能力の一覧を見た蓮は、その疑問を言葉として発した。
焔の能力は『炎光操作』『秩序操作』なのだが、その他にももう一つ能力があった。だが三人の化身は全ての能力が表情されているが、焔の最後の能力、それが表情されず、表情されたのは『???』という曖昧な表記だった。
「社長……これって……」
訳が分からず隣にいる社長に助けを求めるように目線や声を向ける。
「そうだね……この装置で能力名が表情されないということは、この能力は全世界でも焔しか持っていないということだ」
「焔だけ、ですか?」
「この装置は設置されてから今の今まで全ての隊員の化身達の能力がインプットされてる。それは全ての能力がインプットされていると言っていい」
「ねえ、蓮くんは、焔を初めて出したとき、その能力の名前を知ってたりしないの……?」
横からオズオズと美琴が質問を投げかける。
その問いに、蓮は初めて化身を出したあの日を思い浮かべた。あの時は、何も説明されない状態での戦闘に手一杯で、炎光操作という分かりやすい能力にしか目がいかなかった。
だけど思い返してみれば、あの時蓮は焔の能力を把握しているはずなのだ。
「……あ、そうだ! 『起死回生』! あの時、その言葉が頭の中に浮かんだ!」
「それが焔の最後の能力ってことだね。装置に表情されないから使い方が分からないけど、そこはちょっとずつ練習していこうか」
「起死回生ってなんかかっこいいね!」
叶愛の無邪気な褒め言葉が蓮の胸を軽くする。
全世界で焔だけが持っている。それだけで、蓮は気持ちの高ぶりが止まらなかった。
この能力はなんなのか。この能力で焔はどうなるのか。この能力を使ったとき、周りにどう影響を与えるのか。
知らないからこそ怖いという気持ちもある。だが、知らないからこそどんなものなのかと好奇心が止まらない気持ちもそこに共存しているのだ。
「――さて、化身達の能力を確認したから……今度は模擬戦闘だ」
身を翻し、機械がある場所からアクロバティックにその場から下りる。
そして首にぶら下げているネックレスに触れ、紫の炎が巻き上がり、その炎の中から社長の化身――紫苑が顕現する。
「紫苑一体と、そっちは全員でかかってきていいよ。心配しなくてもこれは訓練だから、気楽にね。――でも、全力でかかってきてね」
四人は装置が置いてある場所から下り、社長と紫苑と対面するように向かい合う。ずっと化身達は待っていた。既に準備は万端だった。
「社長は強いですよ……皆、気を引き締めましょう」
「あの時みたいに四人で協力すればいけるはず!」
「う、うん……弱いけど、頑張る……!」
「こっちは化身が五体もいるもん! 隙なんていくらでも作れるよ!」
そう意気込む四人は、社長の合図と共に、化身達は紫苑に飛びかかった。




