第二章3 「始まりの初日」
朝ベッドから目覚めた蓮は子供がプレゼントを貰うときのようにワクワクしていた。だけどその中には緊張という気持ちもあった。
何故そんな気持ちになっているのかというと、四人で遊んだ昨日、家に帰ったとき一本の電話がきた。それは異能探偵事務所からの電話だった。
電話の主は勿論社長である一之瀬 潤。内容としては、諸々準備が整ったから異能探偵事務所に来てほしいということだった。
ということはだ、今日から蓮達は異能探偵事務所の正式な社員として働くということだ。
この前の見学者としてではなく、異能探偵事務所の社員として、依頼を解決するということ。
待ち望んでいた出来事に、蓮の心の中は嬉しさでいっぱいだった。
「社員一日目……頑張ろう!」
・・・・・・
探偵事務所には八時半には来てほしいと連絡があり、蓮は十分前には探偵事務所についていた。
既に琉依は先に来ており、部屋にいる一之瀬 潤や、香織、睦月、清羅と話していた。
「おはようございます!」
部屋全員に聞こえるような大きな声で挨拶をする。
ハッと我に返って、普段自分でもこんな大きな声出さないため内心すごく恥ずかしくなった蓮だが、そんな小さい悩みを吹き飛ばすように、部屋にいる皆は挨拶を返す。
「あ、おはよう、蓮くん」
「おはよ、蓮」
「おっはー、蓮くん」
「おはよう、蓮」
一之瀬 潤、香織、睦月、清羅が順々に挨拶をする。四人の対応にホッとしていると、琉依が蓮の元に歩み寄る。
「蓮、おはようございます」
「琉依もおはよう。遊びにいったときもそうだけど、いつも早いね」
「余裕を持って来たいので集合時間十分前には来るようにしています。今日は意外と早く着いてしまいましたが」
「……楽しみにしていたから?」
蓮がそう尋ねると、琉依はうつむき蓮の顔から目を逸らしながら、
「ま、まあ……そうかもしれないですね」
と、気恥ずかしそうに答えた。
「びっくりしたよー、琉依くん十五分前には来るんだもん」
いつのまにか琉依の後ろにいた一之瀬 潤がそう言った。
「たまたま! 早く着いただけです!」
「本当か~?」
「内心すっごく楽しみにしてたりしてね~」
ニヤリと悪い顔をしている香織と睦月が琉依に聞き返す。それを横目で見ながら、パソコンを弄る清羅は始まったなといった様子で見ていた。この場面に慣れているようだ。
「本当ですから!」
「もうこの話をおしまいです!」と顔をほんのり赤くしながら、琉依はそう叫ぶ。
それと同時に部屋のドアが開き、叶愛と美琴が入る。
「おはようございまーす!」
「お、おはようございます……」
「おはよう、叶愛、美琴」
「おはようございます、二人とも」
蓮と琉依は挨拶を返し、一之瀬 潤はメンツが揃い、四人の側にやってくる。
「よし、四人とも来たね。まず早速、四人には制服に着替えてもらいまーす」
そう言いながら、蓮が来たときから机に置いてあった透明な袋に入った制服を四つ四人に渡す。
「これが制服……?」
「そう、君達専用のスーツだよ。あ、デザインは勝手に僕が決めといたから」
一之瀬 潤から受け取った制服を持ち、ちゃんと社員になれたんだなという実感が沸いて、早く着替えたいと思う蓮だった。
「じゃあ着替えてらっしゃい」
「部屋出て廊下をそのまま進んでいったら三部屋仮眠室あるから、102号室と103号室を使って。101号室は入らないように」
香織、そして睦月からの注意を受け、四人は仮眠室に向かう。
仮眠室は三部屋あり、それぞれドアに101、102、103と書いてある看板がぶら下がっていた。
102号室には叶愛と美琴が、103号室は蓮と琉依が入り、それぞれ着替える。
数分後、着替え終わった四人は部屋で待っている一之瀬 潤達の元へ向かう。
「えっと、どうですか?」
ドアを開け、四人は制服に着替えた自分達を見せる。頬をかきながら蓮の自信なさげに言った言葉がまた四人の新人っぽさを引き立てていた。
「おー、いいね! 似合ってるよ! 流石デザインを決めた僕!」
「お、似合ってるじゃない。カッコいいわよ」
「いいねー、四人とも似合ってる!」
「まあ、いいんじゃないか?」
一之瀬 潤達の反応は好評で。清羅除く一之瀬 潤、香織、睦月は声を上げ、四人の制服姿を褒める。
四人の制服は他の社員と同じように黒を基調としたスーツだった。
基本四人とも同じようなデザインだが、叶愛だけスラックスが丈が短いショートパンツになっていた。そして叶愛のだけショートパンツの都合上袋の中には黒いタイツも入っていた。
「あえて叶愛ちゃんの制服だけショートパンツにしてみたんだよね。似合ってるよ、叶愛ちゃん!」
「ありがとうございます!」
「あ、そうだ、後……」
一之瀬 潤はそう呟くと、懐から三つの入れ物を取り出す。それを蓮、叶愛、美琴に渡す。
突然渡されて困惑を隠せない三人に、一之瀬 潤からの説明があった。
「これはね、君達三人のスピリツメタルだよ」
その言葉に一番に反応したのは蓮だ。やっと届いたと、気持ちの高ぶりが自分でもよく分かる。ワクワクしながら、渡された入れ物を開く。そこには銀色に輝く、大鳥の形をしたネックレスがあった。
「本当に焔の形をしてる……かっこいい……」
あまりの精巧さに蓮の言葉は掠れていた。隣にいてくれた焔そっくりだったのだから、無理もないだろう。
「わー! 可愛いー!」
「すごく綺麗……」
入れ物を開けていた叶愛と美琴も蓮と同じく感動の声をこぼす。
「美琴ちゃんのスピリツメタルはリアの能力をモチーフにしてね、だから雫の形にしたんだ」
「すごく綺麗です……本当にありがとうございます……」
雫型のネックレスを見つめ、頬が緩む。早速つけてみようと、手に持っているネックレスを首に回し、雫は美琴の鎖骨へ。
「控えめな感じが美琴に似合ってますね」
「う、うん……ありがとう、琉依くん」
「私もつけたよ! どう?」
睦月に鏡を貸してもらい、自分で三日月型のピアスを右耳につけていた。
皆に見せる為に右の髪を持ち上げ、右耳を見えるようにする。
「叶愛も似合ってる……すごく可愛い……」
「ええ、とても似合ってますよ」
三人のスピリツメタルは正式に自分の元に運ばれた。制服も身に付け、これで四人はやっとこの異能探偵事務所の社員になれたのだ。
「――社長。もう入っていいですか?」
この部屋のドアをノックする音が響き、ドアの外側から男性の声がした。
「あ、もう入っていいよ。やること終わったから」
その声に一之瀬 潤は驚く素振りも見せず対応する。おそらく、見学の日に言っていた他の社員だろう。
「失礼します」
ドアを開け、丁寧な口調で一番最初に部屋に入ってきたのは灰色の髪に赤い目をしている男性だった。前髪は長く、右目を覆い隠していた。そしてその男性を前に大勢の社員達がこの部屋に入る。探偵事務所の総人数は自分達、今この部屋に入ってきた人達を含めれば十人は余裕でいくだろう。
「はーい、これで社員全員集合。僕の隣にいる四人の子達は、今日からこの異能探偵事務所に入る新米社員だよ」
一之瀬 潤はそう言い、新米社員の蓮達に注目を集める。今入ってきた社員全員が蓮達四人の方に目を向け、その圧に唾を飲み込んだ。
「まず、赤崎 蓮くん。次に桐谷 琉依くん。そして葛葉 美琴ちゃん。最後に花霞 叶愛ちゃん。この四人が今日から皆と同じ社員になった子達だよ。君達は先輩として、ちゃんと後輩を指導するように!」
そう言い放った一之瀬 潤に更に蓮達に注目が集まる。見る限り、叶愛以外の三人は大勢の人達に注目されて、とても緊張している。叶愛はどちらかといえば緊張はしていなく、いつも通りという感じだ。
「じゃあ次は君達ね。それぞれ自己紹介よろしく! まずはAグループから!」
そう言ってAグループを指名した一之瀬 潤に戸惑う社員達だったが、『Aグループ』という言葉の意味を理解したのか、社員の中の一人、明るい橙色の髪をした男性が声を上げた。
「Aグループって……それ昔に言ってたやつじゃないっすか。最近使わなかったから忘れてましたよ。あ、俺の名前は綾瀬 日向。よろしくな」
次に日向の隣にいた深い青色の髪の男性が続けて声を上げる。
「次は俺だな。俺の名前は永野 一颯。四人ともよろしく」
「ネオ……よろしく」
日向の右隣にいる黒のグラデーションがかっている白髪を腰まで伸ばしている女性はぶっきらぼうに、そう呟いた。
「俺達がAグループ。この三人でいつも依頼解決をしてるんだ」
真ん中にいる日向は自分達のグループを紹介する。
日向は明るく、一颯は真面目な印象だったが、ネオに関してはまるでこの自己紹介を流れ作業のようにこなし、今はもう蓮達の方を見ていなかった。




