第二章8 「爆破跡」
先ほど言われたことを思い出した蓮は壮太の言っていることを理解する。
要はあのローブに正体を隠す加護などが施されている可能性があるということだ。
「この後はどうするんですか?」
「……そうだな……実際に取引された場所に行ってみるか」
そう言った瞬間、壮太の肩に水色の太陽の光に反射するような光沢のある猫が乗っていた。
「およびか!? 壮太!」
その猫は元気よく壮太に話しかける。壮太は微笑み、その猫の顎を撫でながら、
「ああ、お前の力を借りたい」
「お安いご用だぞ!」
そう言って猫は目を閉じる。少しの間時間を使い、次に目を見開いたとき、
「……結構色んな場所で取引してるんだな」
まるで壮太にもその猫が感じたものが伝わったかのように、壮太はすべてを理解しているような口調で呟く。
「そうっぽいぞ! 今からその場所に行くんだよな! ボクも一緒に行く!」
そう言ってその猫は壮太の肩から離れなかった。
二人の間に入り込めなかった蓮に壮太は今起こっている出来事を説明する。
「こいつは俺の化身。名前はメタだ」
「よろしくな、蓮! 壮太の中から見てたぞ!」
メタは握手してほしいと感じさせるかのように自分の手を蓮に向ける。蓮はその意図に気付き、その手に自分の手を乗せる。
「うん、よろしく。メタ」
・・・・・・
「えっと、確かここらへん……」
「あ! あれじゃないですか!」
鈴と叶愛は建物倒壊事件を調べるために、実際に被害にあった家に直接行ってみることにした。
今はその家に行くための道中だった。鈴は自分のスマホを見ながら、道を進む。
そしてたどり着いたのはほぼ倒壊し、跡形もない家だった。
「うわ~、すごい壊れてますね」
「ええ、残ってるのは一階の壁……って言っても、その壁も所々崩れてるけど」
「なんか、私が前ニュースで見たのと違うような……? ニュースで見たやつはこんな大規模に壊れてなかったのに。崩れてるって感じだったのに」
「叶愛が見たのは比較的被害が少ないやつなんでしょうね。全部が全部崩れてる感じじゃないみたい。この家みたいに大規模に崩れている場合がある。けどこの家の被害……爆破でもされたかって感じね……少し家周りを見ましょう。何か情報を探さないと」
二人は爆破されたであろう家の周りを見て回る。この家はほぼ建物としての意味をなしてなく、屋根がないボロボロな家といえば、なんとなく想像できるかもしれない。
「どうだった?」
「所々壁が黒焦げな所がありました! でも爆破されたって考えたら、少し周りが綺麗すぎるような気がするな~って思いました」
「多分もうこの建物には清掃が入ったのかもね。さ、次の建物を見に行きましょう」
この家には有益な情報はないと思った鈴は次の建物に行くことを促す。
その後二人は駅に入り、次見に行く建物まで電車で行くことになった。平日のこの時間帯は通勤ラッシュの時間を過ぎてから乗っている人が少なく、二人はすぐに席を確保することが出来た。
お互い話すことがあまりなく、沈黙の時間が流れていたとき、叶愛の前に対面で座っている鈴に質問をした。
「鈴さんの化身ってどんな子なんですか?」
「また唐突ね」
「だって知りたいんですもん!」
「分かった分かった」と言いながら、鈴は自分の左耳に手を当てる。手を当てたとき鈴の左耳が見えて、そこには真面目な印象がある鈴が付けているとは考えられない程パンクなデザインのピアスを付けていた。
「ハヤテ、出てきて。電車の中だから友人化の状態でね」
そう呟くと、鈴の膝を埋め尽くすくらいの中型サイズの鳥が現れた。
その鳥――ハヤテは鈴の膝から微動だにせず、ずっとその状態でいる。すると、ハヤテから寝息らしき音が聞こえた。
「もしかして寝てるだけ?」
「違うよぉ~、ちゃぁんと起きてるよ~。ふわぁ……」
一番最初に思ったことを口に出すと、目を瞑ったままのハヤテはふわふわした口調で答えた。
「この子が私の化身。ハヤテって言うの」
「それより鈴~、いつものやつ早くやってよ~」
「はいはい」
呆れながらも自分の化身の前だからだろうか。鈴は笑みを絶やさず、そのまま手を伸ばし、ハヤテを撫でる。ハヤテは満足したかのようにさっきより上機嫌になった。
「わー、すごい可愛いですね!」
「ふふ、ありがとう」
鈴はハヤテを撫でる手を止めず、その態勢のまま答える。ハヤテは自身の頭を鈴の体に擦り付けたり、体を動かし更に鈴と密着するために鈴の体の方へ寄せたりなど全人類満場一致で『可愛い』と思わざるを得ない行動を初めて顔を合わせる叶愛の前で堂々と行っていた。
「私もいつかルアと話してみたいなぁ」
「ルアって叶愛の化身の名前?」
「はい! うさぎの化身なんです!」
「今日社長と特訓してたんでしょ? 友人化とか感情の習得、あと身権解放とか、その辺教えてもらった?」
「はい! 教えてもらいました!」
・・・・・・
時間は巻き戻り、社長と特訓していた場面に戻る。
模擬訓練をするという社長の言葉と共に、四人は化身の指示し紫苑に向かって攻撃しようと一斉に飛び掛かる。
「これから戦うとこだけど一旦ストーップ!」
五体の化身が紫苑に向かって飛び掛かったとき、社長は声を上げ、五体の化身の動きを止めた。
四人は一斉に目を丸くし、社長はその四人の顔を見て笑いながら言葉を続ける。
「一旦戦う前に、化身のことについて教えておかないといけないからね」
「化身のこと、ですか……?」
「そうそう。例えば蓮くんとかが気になってる化身と話せる方法とかね?」
美琴の疑問に、社長は的確な言葉を出す。
社長の言葉に蓮は釘付けになる。ずっと気になっていた焔と話す方法。蓮は社長と紫苑、そして香織とリリエルを羨ましく思っていたのだ。
「琉依くんは教えてもらってる筈だから知ってるかもだけど、紫苑がこうして言葉を発するには段階が存在するんだ」
「段階? それってどれくらいあるんですか?」
「すごい多いわけじゃないよ。正確には一段階踏むことで、化身は言葉を発するんだ」
蓮の疑問を直ぐ様解消し、社長は紫苑の側へ向かう。
「『感情の取得』これを踏まなきゃ化身は会話が出来ない。『感情の取得』は化身が僕達主人に対して心を打たれたとき、化身の感情が芽生えるんだ。通常化身は意識や自我はあっても感情は持ってない。だけどどの化身の根本には『主人の力になる』っていう使命が存在するから、感情はなくても主人に逆らったり命令放棄はしない。そして感情を得ることによって化身により強い自我や感情、性格が生まれて、言葉を発することが出来るんだ」
「へぇ、そうなんだ! じゃあルアが私に心を打たれたらルアは感情を得ることが出来るんですか?」
「まあ、そういうことだね。けど化身の心を左右することは簡単じゃないよ。僕達がどれだけ化身のことを信用してるか、それも重要になってくる」
「化身を……信用……」
琉依は言葉を呟く。その表情は決して良いものとはいえず、何か後ろめたいことがあるような、そんな表情を一瞬していた。
「『感情の取得』を終えれば、『友人化』や『身権解放』っていう技術を使うことが出来るんだ。『感情の取得』は意外にも化身の技術を覚える上での中間点なんだ」
「じゃあつまり『感情の取得』を出来ていないと、どの技術も覚えることが出来ないってことか」
『感情の取得』がどの技術の中間点となることを知った蓮は、チラッと焔を見る。意識や自我があるということは、一応自分のことが主人だと分かってるということ。感情はなくても、焔が蓮のことをどう思っているか少しばかりなら分かるんだろう。それが蓮は気になってしょうがなかった。
「『友人化』っていうのは、化身が力を抑えることをいうんだ。紫苑でいったら見学のとき、紫苑小さい姿だったでしょ? あれが友人化。友人化をすることで化身は出せる力が一割になる。そうすることで僕達側の精神エネルギーの負担がなくなるんだ。そして友人化をすると化身は自動的に現実世界にいやすい体に変化するんだ。あ、変化するっていっても姿そのものが変わるわけじゃなくて、あくまで大きさが変わるだけ」
「そうなんだ……じゃあ、今の姿が……紫苑の本当の姿で、小さい紫苑は友人化をして力を抑えた姿……ってこと、ですか?」
「美琴ちゃん正解! けど例外もあってね、元から現実世界にいても違和感がない化身は、友人化をしても姿は変わらないんだ。うちでいうとリリエルがそうだね。リリエルはあの姿が本当の姿なんだ。あんまり違和感ないでしょ?」
「そうですね。天使だから人型ですし」
蓮はリリエルの姿を思い浮かべる。長い銀髪に空色の目。そして天使の輪っかと羽。姿そのものをみればコスプレの人かと勘違いされそうだが、大きさで考えれば、リリエルの身長は百六十もいってないだろう。そう考えれば女性の平均的な大きさをしていた。
「そして最後に教えるのは『身権解放』についてだね。身権解放は友人化と逆で、化身本来の力を解放することを意味するんだ。精神を鍛えれば当然化身も強くなる。強すぎる力は特に力を持たない一般人や成長途中の化身使いに悪影響を及ぼす。だから『感情の取得』を既に終えている化身使いは戦闘以外は化身を友人化して力を抑えてるか、そもそも化身を出さないんだよ」
「ふむふむ、そうなのか」
手を自分の顎に持っていき、なるほどという表情をする叶愛。
「後の知識は実戦で教えていくよ。戦った状態の方がその場で練習出来るし、覚えやすいから。――さて、遅れたけど、模擬訓練開始だ!」
そう言葉を乗せると、紫苑は羽を動かし四人の元へ飛び掛かる。負けじと蓮達も五体の化身に指示をし、同じように紫苑に向かわせた。




