第一章15 「開花する才能と蔓延る劣等感」
灰色パーカーの背後から現れた大蛇の化身。大蛇の主人である灰色パーカーの男性をその長い体で囲み、目線は四人に向ける。
相手が化身を出し、蓮はカバンからスピリツメタルの原石を取り出す。そして空中に焔を召還。
「焔! また手伝ってくれないか?」
焔は答えるように路地全体に大きな鳴き声を上げる。
「あれが蓮の化身ですか。炎の鳥……」
そう言って、琉依は左手の人差し指に右手を乗せる。左手の人差し指には指輪がはめられていた。
「今回は、全力でいきますよ」
琉依の背後から右に竜巻、左に落雷が出現する。その二つから現れたのは巨大な二匹の狼だった。人一人簡単に乗せられる程の大きさで、右の竜巻から共に出てきたのは白い毛並みの狼。左の落雷から共に出てきたのは黒い毛並みの狼だった。
「化身が二体も?」
「はい、僕の化身は二体いるんです。その代わりに一体の戦闘力は通常の化身より低いですが。……だけど久しぶりだな。君達を召還するのは」
自分の化身二体を見つめて、最後にそう溢した。蓮は初めて見る二体の化身に驚いたがために、琉依の最後の言葉を聞き取れていなかった。だが今はそれどころじゃない。犯人を捕まえる。やっと依頼達成に繋がるところまで来たのだ。
「お前らも化身使いだったのか……まあいい」
灰色パーカーの男性は四人に囲まれているのに関わらず、ずっと笑みを絶やさない。数でいえば今は三対一、数的有利はこっちで取っている。叶愛と美琴も化身を召還するなら五対一だ。
「ロック、――闇界」
ロックというのは相手の化身の名前だろう。ロックから漆黒の闇が四人を襲う。ロックから出ている闇は地面一体を黒くし、四人は伸びてきた闇を踏んでしまった。
その瞬間、四人が見ている景色が変わった。
薄暗い路地だった場所が縦、横、上、下。どこを見ても全て黒い。
四人は戸惑う。一面真っ黒な世界に突然連れてこられた。蓮もこの経験は初めてなため、対処法が分からない。
そんな状況でも、琉依は声を上げる。
「おそらく、僕らは連れて来られたんです。あの化身の能力の世界に……!」
そう言った琉依を見て、灰色パーカーの男性は笑みを増やす。
「そうだ……ここはロックの能力で作った世界。もうお前らはここから出られない」
完全に相手に策略にはまってしまった四人は急いで解決策を導きだす。
「琉依くん……この世界から脱出するには、どうしたらいいの?」
「相手の化身を倒してしまえば能力も解かれるはずです」
「じゃあ全力であの人と戦ったらいいんだね!」
「よし、皆行こう!」
美琴の問いから琉依は最善策を言った。策がある、それだけで安心はある。要は倒せばいい、それだけのことだから。
叶愛と蓮の鼓舞で四人は灰色パーカーの男性とその化身ロックと向き合う。
「まずは私達も、だよね!」
叶愛は蓮から貰ったスピリツメタルの原石を手に取る。
「化身を出すにはどうしたらいいの?」
既に化身を出している蓮と琉依の二人に聞く。
「化身を出すには強い想い、これが重要だって一之瀬さんは言ってた」
「強い想いか……分かった!」
蓮の助言を受け、叶愛はスピリツメタルを握りしめる。
「……今、すごい楽しい。心の底から戦うことを私は求めてる。私も化身を出したら、もっともっとワクワクできるよね!!」
叶愛の強い想い。それは心の底からの『楽しい』という気持ちだった。それは蓮とはまた違う感情だった。
叶愛の言葉に導かれ、化身は姿を現す。
叶愛の背後に水晶のようなものが現れ、ヒビが入りそれは割れる。その中から現れたのは人型のウサギの形をした化身だった。四人の中で一番背が高い琉依よりも高く、スーツのような服を着ており、頭には黒いシルクハットを被っている。紳士のようなイメージを彷彿とさせる姿をしていた。
「これが私の化身かぁ。……あれ。ねえ蓮、頭の中に浮かんでくる文字はなに?」
「それはその化身の能力。それと叶愛、その化身に名前をつけないといけないんだけど、何か名前ある?」
「名前かぁ……じゃあ、君の名前はルア!」
叶愛が化身を出し、多少だが灰色パーカーの男性に焦りが見える。これで四対一。数的有利はどんどんこっちに広がっていく。
「よし、じゃあ戦おうか! ――ルア!」
ルアはロックを目掛けて走り、距離を詰めようとする。
「結晶操作と理想操作か……言葉通りに読み取るならこういうことも出来るんだよね! ルア、理想操作でアイツの所まで全力疾走だー!」
ルアはさっきより明らかに走るスピードが段違いに早くなり、一気に相手との距離を詰める。
「そして……結晶操作で結晶を手に纏ってそのままパンチ!」
一気にロックのゼロ距離、正面まで詰めたルアは叶愛の指示通りに結晶操作で結晶を自分の手に纏い、そのままロックを目掛けて腕を振る。助走も込みでのルアのパンチでロックは相当吹っ飛ばされた。
「……あはは! 戦うってすっごく楽しい! もっと早く知りたかったなぁ~!」
戦闘という新たな楽しさを覚えた叶愛はさっきまでとはまるで人格が変わったように笑みを浮かべ、高らかに笑う。端から見れば叶愛は『狂っている』。そんなように見える。
それを横で見ていた美琴はそんな叶愛に圧倒されていた。今の叶愛を見て引いたわけじゃない。だけど多少の驚きはある。
それ以前に初めての化身を使った戦闘にも関わらず、相手を圧倒してる姿を見て何も言葉が出なかった。
(叶愛……やっぱりすごい。化身のことだってテレビで見るくらいの知識しかないのにあんなに戦えてる。中学の時も、高校の時も、いつも私は叶愛のことすごいって思っちゃう……もう相手だって怯んでる。私は……いらないのかも……)
叶愛の活躍は、自信が無い美琴にとって眩しすぎた。叶愛はすごい、叶愛がこんなに活躍してくれるのなら、自分はもういらない。そんな思考が生まれてしまう。
これが悪い癖だと分かってる。だけどもう美琴はその思考以外何も考えられない。
せっかくスピリツメタルを握っていた手が緩みかけたとき――、
「――美琴、大丈夫です」
そのとき、美琴の肩をぽんっと叩く人物がいた。
美琴に対して呼び掛けた声も、今日一日聞いた声の中で一番優しい声で、
「……琉依くん……?」
そこには優しい顔をした琉依がいた。
「顔が暗くなったから、多分自信を無くしてるのかなって思ったんです」
「……すごいね。私達、まだ出会って一日も立ってないのに」
琉依はほぼほぼ美琴が悩んでいることを当てていた。それに驚きながらも、こんなときでも『琉依くんに悪い印象がついたんだろうな』というマイナスな思考しか考えていなかった。
「確かに叶愛の戦闘であれだけの活躍は、僕も凄いって思いました。しかも初めてなのに。……ちょっとだけ僕も羨ましいです」
こんな話をしている暇はなかった。ゆかを苦しめた犯人がここにいる。見学者である四人は犯人を倒さないといけない。
「……さて! 僕達も行きましょう。蓮と叶愛が戦っていますから」
叶愛は相変わらず戦闘を好み、ルアに指示し根気強く攻めている。蓮と焔はそんな叶愛のサポート的な立ち回りでうまく攻撃を仕掛けている。まだ戦闘に参加していないのは琉依と美琴の二人だけだ。
「蓮が言ってたように化身を出すには強い想い、これが重要なんです。ほんの小さい想いでもいい。それを想えば、化身は答えてくれますから」
琉依の声は優しくて、暖かった。誰かを気遣うような無理した声ではなく、美琴を安心させるような、『大丈夫だよ』と伝えてくれる声で。
「……分かった」
(こんな私が何か出来るなんて思わないけど、――それでも、私は皆の力になりたい!)
そう強く想った。その想いに答えるかのように、スピリツメタルは小さく輝く。その瞬間、美琴の背後から水流の竜巻が上から地面に下ろされる。そしてその水流の竜巻が全て凍り、大きい氷の結晶ができる。
パキンと氷の結晶が割れ、その中から現れたのは美琴の髪色と同じ、濃紺のような深い青色の龍だった。
その龍は叶愛の化身――ルアより大きく、長さも想像しているよりずっと長い。
「これが、私の化身……龍……かっこいい」
「美琴、この化身に名前をつけましょう。何か案はありますか?」
「名前……えっと、じゃあ……リア。この子の名前は、リアにする」
「リア。いい名前ですね」
「ありがとう」と感謝を述べる。すると頭の中に文字が浮かび上がる。これはリアの能力だ。
「水氷、操作……ぜつ、む……操作……?」
見慣れない文字で戸惑うが、なんとかこれがリアの能力なんだと理解しようとする。
「それがリアの能力ですね。――さて、僕達も行きましょう」
「うん――!」
琉依と美琴。蓮と叶愛の戦闘に参加する。




